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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
世界ぶっ壊すよの章
104/108

勝利に向かって


 憎い。

 ふーらるが死んで、やっぱり憎くなる。ふーらるをころした奴はまだ生きている。

 


 しかしもう無理だ。

 俺の力だけじゃどうしようもない。

 自分の能力と残っている敵の能力を比べて、また、どうやったら元の世界に戻れるのかも解らない。俺が殺した。俺を信じたから捨て身になったし、そのせいで三人とも死んだ。


「違う!」

 これもすべて月の能力だ。月に考えさせられているに違いない。そんなことをする意味がない……いや、月の能力でそう思わせているだけで、きっとなにか物凄い策略が働いているに違いない。そこまで趣味が悪い奴じゃなかった気もするがそれさえもきっと月の能力だ。……うん。

 そうだ、思考をいじられているに違いない。まだ勝てる、勝てばみんなの死は無駄じゃない。

 捨て身だからシチュエートを倒せた。逆に捨て身じゃなければ勝てなかったかもしれない。俺は何も間違っちゃいない。そうだ、自爆でなければシチュエートの奴は殺せなかったはずだ。何があったのかは解らないが、シチュエートの力を持っていた場合、勝てると推測されるのは油断されていたときのみ。それも半端な油断じゃない、圧倒的な有利な状況、さらに何をしてもこちらの損にしかならない状況だ。こちらが動けば動くほど不利になる状況だったのだろう。

 もちろんこっちは三人やられているし、俺しか残らない状況だ。これがゲームなら一気に大量得点といっていい。だから相手を殺せた。

 つまり俺たちにとっては何一つ間違っちゃいない。想定される中でもっとも上手くことが進んでいるんだ。

「よし」

 気合を入れて立ち上がる。 

 ん? おかしい。ふーらるは何で死んだ? 明らかに爆死じゃない。腕が切られている。失血死だ。

 腕の中でふーらるは縮んでいき、ねずみの姿になった。

 その死体をかばんの中に大切にしまいこむ。ふーらるをころしたのはシチュエートの奴だ、そう考えるのが普通だが、それなら何故一緒に爆死しない? つまりふーらるの死んだシチュエーションが思い浮かばない以上、そう決め付けることは出来ない。

 ここがどこだか解らないが、ここにいてはならない。走り出した。入学式のと同じようなシチュエーションだ、林の中を何かに追われるようにして走り抜ける。

 このまま死ぬのだけは、絶対に嫌だ。

「そうだ。まだ俺たちは生きてる」

 真解図書を開く。

 残るやつは五人のはずだ。こいつら全員を殺して俺も死ぬ。

 そして世界を取り戻す。

「取り戻してどうするの?」

 月だ。

「フルムーンか」

 くっそ、なんか悔しいな。

「そう、でも安心して。別に私はいいから。あと、シチュエートが解けない訳じゃない。時間差でなくなってはいるよ。その証拠に私の能力はもうなくなったみたいだしね。でもさ、どうやって勝つの? 逆に勝ち目ないんじゃない?」

 真解図書が塵となって消えた。

 月の言うことは本当らしい。しかし俺の予想だと、星から先に砕け散るはず……。俺は間違ったのか……。

「それに勝ってどうするの? 地球は跡形もないんでしょ?」

「そうだ。だから俺たちは元の世界を取り戻して死ぬ必要がある」

 月は首を傾げる。

「どういうこと?」

「いや簡単だろ? 真解図書で調べた、というか前から解ってたのが大半だが、残ってるのは過去を変えるのと、何でも作れるのと……まぁ、そんなところだ」

「ドジ! 覚えてらっしゃらない! すごく不安なんだけど! で、何?」

「いや、俺たちはただただ世界を滅ぼすだけだ。何回かやれば、過去をいくら変えても世界が変わることに絶望し、能力者の生まれない世界が作られるはず」

「それって自分は楽しめないじゃん」

 歩き始めた俺についてくる形で月は首をさらにひねる。しかし何に対して首をひねってるのか俺には、まぁ、解らないことも無いが、一応聞く。

「楽しむって?」

「だからさ、その元に戻った世界では、うーん。こういうのパラレルワールドって言うのかな」

「あぁ、それな」

 その話は何度もみんなでしたから解る。

 過去を変えることで、世界が分岐するのかそれとも記憶と時間が巻き戻るのかということだ。これはブラックキャニオンニードレスの能力がどういうものか、ということに依存してしまうことなのだが、もし、その過去を変えることで能力者がパラレルワールドの間を行き来するという能力なら、俺たちには何も出来ない。そうではなく、その過去まで戻って事象を組み込んだ上でもう一度過去をやり直すとしよう。

 その場合なら、確かに俺たちの努力は俺たちは覚えちゃいないし、そもそもその俺たちが俺たちといっていいのかも解らない。

 それでも俺たちは決めたんだ。

 能力者が現れたときに、自分たちのやってきたことを正当化したくて、虐げられたことに意味を持ちたかったから。イチは魔女狩りに耐えた家系という誇り、鬼は最強の武術の名誉、モノは世界の秩序を守るための犠牲、いるかは科学という法則、俺は呪術そのものの意義。それら全てが無意味になることが耐えられなかった。

「どうしたの? 黙っちゃって」

「うっさいな、いろいろあるんだよ」

 解っていても説明するのは難しい。

「そんなふわふわした感じで、世界滅ぼさないでよ。ふぅ」

 月がため息をつく。

 そういえば、フルムーンがないなら、何で付いてくるんだろう。やっぱりフルムーンが残ってて、俺に幻覚を見せているとか? 何で付いてくるのか解らない。

「何考えてるの?」

 ……まぁ、ないか。それにそれを考えても考えることを支配されるのなら意味はない。

 そんなことよりも、シチュエートが解けたと考えたほうが生産性がある。何事も前向きにいこう。前向きに世界をブレイクだ。

「あ! そうじゃないよ。もう! そうじゃなくて、終わったの!」

「さっきも言ってたな。何? いるかたちが死んだことを言ってるのか?」

「そうじゃないよ……そうだとしたら、何で私達こんなに仲良く歩いてるんだよ。そんなグロッキーな報告を嬉々としてしないよ。なんとなくそうかなとは思ったけど。そうじゃなくて、あ、私の能力でひっきーがなにやろうとしてるかは解ってるから。それでさ、ふっふっふ、私にも作戦があるんだよ」

 こいつ、能力を失ってから、話すのが下手になったな。

「何か私を馬鹿にしてない? ほんとにすごい作戦だよ?」

「一個聞いていいか?」

「うん」

「お前は世界がなくなってもいいというか、なんかさっきから味方? みたいな口ぶりだな」

 味方といっても、俺の最終目的が世界の崩壊である以上、味方なんて存在しない。また、いや、シチュエートが切れるんだからこいつの人格は元に戻る。こいつの真意は解らないが、あと少しで多少なりとも気が変わってしまうんだろうから、気の変わらないうちに聞いておいたほうがいいかもしれない。

「いや、作戦を聞かせてくれ」

「あ、気になっちゃう? いいよ。まず私のフルムーンで」

「フルムーンもうないじゃん」

「あ」

 月はしまったというふうに口を手で覆った後、忙しく目を泳がせる。

「違うよ、ちょっと待って、今考えるから」

「今から考えるのかよ! あって言ってるじゃん。考えなくていいよ、お前馬鹿だろ?」

「ちょ、その言い方ムカつく! ってああ゛っ頭痛い!」

 月は突然うずくまった。

「どうした?」

 俺が声をかけても、首を振るばかりで返事がない。

 林はもう抜けられる。町が見えている。病院を探したほうがいいのだろうが、皮肉なことに黒い人形のせいでそういった機関はほとんど機能していないはずだ。

「よし、気合でがんばれ」

 手で無理だというように振って、八つ当たりなのか何なのか俺の膝を叩き始めた。

「い、痛かった……。私死んだじゃなかろうか」

「死んじゃいないだろう。どうしたんだ」

「いや、記憶が、なんか戻ったっぽい」

 特に外面は変化ないが、少し大人びたかもしれない。

 町の中まで歩いていくと、黒い人形がいなくなったことで町に出てきたであろう人たちが、月と同じように頭を抱えていたり、首を振ったりしていた。とりあえずこれで残ってる五人の能力者以外に追われることはないだろう。

「で、どうだよ。記憶が戻った感想は」

 難しい。どうやったら、あいつらのところに行きつける? 時間が立てばたつほどそれは困難になるだろう。

「別に……思い出してもしょうがないような人生だったね」

「人生って言えるほど長く生きてたのかよ」

 実は五十歳とか。

 ないか。姿も元に戻るはずだけど、そんなに変わっているようには見えない。

「それでこれからどうするの? ひっきーの呪術ってのが、脳の中覗いても一向に理解できないんだけど、私にはもう詰んでるようにしか思えないんだよね」

「でも、諦めるわけにはいかないだろ?」

「私に聞かないでよ。まぁ、そうかも知んないけどさ。じゃ、学校戻る?」

「なんで」

「他にいくところないじゃん。犯人は現場に戻ってくるものだってテレビで言ってた」

 テレビの話かよ。

「ドラマか?」

「うん、前の世界でよく見てたんだ」

「そうだな、ドラマでも何でもここまでお膳立てしてもらったら、後は二秒だ」

「ドラマ?」

「アニメ」

 俺が好きだった奴。

「アニメオタクだったの?」

「そういうお前は友達絶対いないだろ」

「二秒で学校にいこー!」

 月は走り出した。

 おそらく東京に向かって。

 

 

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