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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
世界ぶっ壊すよの章
100/108

彼の名前は楯状武人

……結局のところ、そんなにたくさんかっこいい死に方なんてねぇよ馬鹿というふーらるの逆切れで、議論は終結した。

「すいません、黒独パン? さん!」

「混ざってる混ざってる」

「えぇ!? じゃぁ、本名は何なんですか!」

 ふーらるあ興奮した様子で、俺の手を引っ張って階段を登り、エントランスの二階に俺を連れてきた。しかし、声は今もみんなに届いているだろう、場所を移動した意味はあるのかわからない。わからないといえば、何故ふーらるがこんなに興奮しているのかもわからない。

「本名は、涯等……いいや、俺はパンドラだ。パンって呼べばいい」

「パンさん、今日は言わせて貰います」

「こんな短期間で、何をそんなに溜め込んだんだ」

 正直……ふーらると話せるのは楽しいんだが、結局は能力によって新しく作られた人格と記憶に構成されたふーらるは体がそれでも偽者だ。

「死ぬとか、そういうことを気軽にいうのはどうなんですか? 確かに私もあの学校に少しはいましたから、在学生の論理に乱れはしょうがないと思います。ですがそれで話が盛り上がるといったことには嫌悪感を抱くべきです。解りましたか?」

「解った」

 満足そうにふ―らるが頷いたので、俺はみんなのところにいったん戻ることにした。階段を下りていくと、待っていてくれたのか、みんながさっきと同じように座ったままこっちを見上げていた。

「あ、パンはさ、誰から殺したらいいと思う?」

「ん? そうだな……」

 いるかが聞いてくるので、考えはするが俺は能力者の名前しか知らない。顔を知っているのは時雨くらいだ。 

「ちょっと、待ってください」

 それじゃあ時雨と言おうとしたところでふーらるに腕をつかまれ、そのまま階段を上がらされた。

 ふーらるはなぜか息を切らしながら、俺をさっきのところに座らせる。

「あの、さっきいったこと覚えてます?」

 いや、それをいうなら、いるかが絶対に悪い。俺はそうだなしかいってないし。

「不謹慎な会話はしないでください」

「俺はしてないだろ」

「止めるくらいは出来たでしょう。そもそも、さっきからみんなが私にさりげなく優しいのは何ですか、私初対面なんですけど」

「いや、だから前の世界で俺達は……」

 ふーらるは頭を横に振って、マジックで文字を書き始めた。魔方陣だろう、黒い文字が白に変わる。

「じゃぁ、ここに手を置いて質問に答えてください。嘘付いたらわかりますから」

 嘘発見器みたいなものか、俺が手をそれに置くと、ふーらるは呪文を唱えてから、

「前の世界のこと、嘘じゃないんですか」

 と聞いた。 

「そうだ、その証拠にお前の餌は俺が取ってやったし、体だって洗ってやったし、予防注射とかも受けさせた」

「マジか」

 



 ※

「逆らうの禁止」

 点仔がこれをこの世界で発動するのは二度目だ。

 シチュエートで設定された世界は、弱者に限りなく厳しい。しかし、前の世界も散々だった。人間は弱者に厳しいのだ。

 最後の最後に私がこの世界の最高強者になったから、この世界で私より上に立っていた人間全員を今度は私が見下す番。

「楽しくない」

 そもそもさ、私こいつらの顔なんか見たくないんだよね。

「私の前からいなくなれ」 

「はい」

 どこか嬉しそうに、去っていく大勢の人。私を馬鹿にした、この世界の屑たちだ。

「……虚しい」

 だってこいつら、全員、上書きされた人格と記憶を持つ、言うなればシチュレートで中身を入れ替えられてる人たちだ。そんな奴らに服従させて喜んでも、手のひらの上って感じが嫌だ。

 世界がシチュエートの奴に作られてる以上、私の感情も、その人格に対して抱いてものは全て作り物になる気がして嫌だった。

「ここに誰かを入れるの禁止」

 噴水のある小さな公園にそういって、ベンチに座った。

「ふかふかじゃないの禁止」

 ベンチは一瞬でもこもこに。私に不可能は無い。

 鳥が見たいな。

「地球に対しては、駄目か。地球が力を持ったんだっけ」  

 地球に対して禁止禁止使うのは便利でよかったんだが、なんかデイとかいう意思を地球が持ったから、それを使うと私というシチュエート外の影響を与えてしまうので、前の世界を思い出すらしい。私はシチュエートの能力者が嫌いだ、ゲーム性だとか、多分そんなことを考えて作った裏設定をあいつらに使われる屑であることは現状間違いなく、その癖、世界が自分中心に回ってると思ってるんだろうなっていう態度がくそだ。

 影響を与えるとどうなるかというと、シチュエートではない、この世界の異端と大勢の人間を接触させることになり、その範囲外と接触すると、それは前の世界との接触で……難しいことはわからないが、要は、この世界の人間全部が、記憶を取り戻す。そんなカオスな状況は望ましくないとか。

「結局はみんな、前の世界に仲いい奴なんていないってことなんだろうけど」

 それなら、こうして私がやっていることも違反な気はするけど、実際今までそのせいで能力使わせないようにされてたんだし。だけど一人二人記憶を取り戻したって、シチュエートで書き換えられる。問題は大勢が、いっぺんにって所だけなのだ。だから私はこの能力を使っていい。

「私、あいつらと一番に戦わないの禁止」

 ゲームはゲーム楽しむのは私。こいつらに情報与えて、他の奴らを殺させよう。自分でやってもいいんだが、あいつら全員をいっぺんに相手にすると何が起こるかわからない。……他の奴らに気持ちの整理と今生の別れって奴をさせちゃう時間与える私って超優しい。


「最初は時雨からと思ってたんだけどな」

 仲良く六人でやってきた。あれ、五人という話じゃなかったっけ。この世界での協力者か? いや、そんな奴はいないだろう。この世界が無くなったら人格としてのそいつはどう転んでも死ぬ。今回は私達は、この世界を守るために戦ってるといわれてもおかしくない立ち居地のはずだ。

 公園が進入を食い止めようとしているが、無視してそいつらは入ってきた。まぁ、ただの土地には何の期待もしてないが。

「死ににきたの?」

「すまん。耳栓してるんで何言っているのか解らないんだ」

 ……なるほど。いいわ、私の能力を警戒してきたんでしょうよ。でもそんなのすずめの涙くらいの有利不利に過ぎない。

「聞きたいことがあるんだけど。どうして貴方達にはシチュエートが効かないの? 私にはそこまで貴方達の力が」

「いや、聞こえねーって言ってんだろ馬鹿か」

「……」

 計画はやめだ。やっぱこいつら殺す。他の奴らへの嫌がらせは無し。土下座させてやる。




 六人の中の一人がこっちに向かって駆けてくる。後ろで四人が、後ろに走り、一人が杖を持って何かを唱え始めた。かっこが魔法使いだ。あいつには気をつけよう、シチュエートの能力者も考えが甘い。何でこいつらのうちひとりにでも能力を与えようと思ったのか、全員無能力者でいいのに。まぁ、私が負けることはありえないので小さなことだが、今度会ったときに責めるネタにはなるだろう。

 走ってきた奴はおそらくフェイク。本命はあの一つ後ろの魔法使いだろう。まぁ、いい。どんな攻撃が来ようとも私は完璧な能力者だ。負けるはずが無い。

「私に死ぬことを禁止する」

 駆けてきた一人は私の言葉は聞こえていない。攻撃してから私へのダメージが無いことに恐怖すればいい。

 走ってきた奴が、普通の人間にしては驚異的な跳躍力で私の頬を蹴り飛ばす。

 ――あ。

 そう思ったときにはもう遅い。私は自分に死ぬのを禁止したから、死ぬ攻撃は全て無効に出来る。核爆弾だろうと何だろうと、この世界では核爆弾の威力など中の下もいいところだが、私の体に傷一つ付かない。しかし、私はこいつが私の体に触れること、つまり蹴ること自体は禁止していなかった。

 こいつの蹴りが致命傷を与えられないことが、皮肉にも致命的だ。

 私は派手に吹き飛ばされる。

 ――いっっっっったぁぁぁあああああああ!!!

 私は自らのプライドを奮い立たせ、絶対にそんな言葉は吐かないが、何でこんなことするのと泣きたくなる。普通に考えて、女の私に対して顔を狙うとか、死ね! こいつ死ね! 

「お前ら、私の声をさえぎることを禁止、そしてそこの奴の周りの空気たちは吸われるのを禁止、今後一切私、ダメージを受けることを禁止」

 どうだ! と胸を張って、見下すことをした瞬間。完全に忘れていたあの魔法使いが魔法を発動したらしい。爆音とともに足元から空に向かっての火柱が私を包む。だがダメージを受けない、受けられない私にとってはこの耐え難い爆音以外意味などない。

 しかし、私を挑発するにはいい塩梅だ。

 正直こいつら私のことを何だと思っているんだ、こんな効くはずのない攻撃を打ってきやがって……。痛くもかゆくも無いが、鬱陶しいことこの上ない。しかもあろうことか私の顔に傷を付けた奴は許さない。一時間は私の能力による拷問を受けてもらう。間接を曲げることを禁止して一週間放置とかもいいな。

 考えていると、またこりもせずに私をさっき蹴っ飛ばした奴が、走ってくる。今度はダメージすら受けない。しかし、そいつがこっちまで来ることはなかった。魔法使いの魔法によって、不可解にも足に鎖がつながれ、宙吊りになる。どんな魔法だったか効いていなかったからわからないが、どんな補助魔法が来ようとも私の前では無きに等しい。

 召還陣が出現し、大がまを持った黒いフードが召還される。イメージが死神の空想召還、もしくは死神の真似をした偶像召還だろう。本物の召還はまず不可能なはずだ、もし本物だとしても雑魚には変わりないが、シチュエートのやつが私を殺しに来ている可能性があるので、そこの境界は大切だ。見ていると、その死神、もしくは死神もどきは、鎌を振り上げた。

 ――あ。

 思考が遅れる。

 何かの首が落ちてくる。

「馬鹿じゃねぇの……」

  

 魔法使いを見る。泣いていた。 

 理解できない。

 さっきの奴を生贄にしての魔法らしい。気味が悪い気味が悪い気味が悪い。人のことを殺しておいて、発動する魔法を考えた奴、それを許す奴、それを発動する奴、最後にそいつらの間で仲間意識、無くなんて感情を抱ける人間らしさ。

「吐きそう……」

    


 

 ※



 楯状武人。みんなから鬼と呼ばれる俺は考えるのが下手なので、常にあまり喋らないことにしている。沈黙は金ということわざもあるし、俺には仲間がいるので、喋る必要なく生きていける。友情は言葉で無く心で築き上げ、育むものだ。まぁ、これはいるかが言っていたことの受け売りだが。

 話し合いでは、時雨から倒すということだったが、なぜかたどり着いたのは、点仔とかいう女のところだった。こいつは優先順位が低い対称だが、パンがこいつも倒すべきだという。

 公園の中で、ソファに腰掛けているのは確かに奇妙ではあるが俺にはこいつが強いとは思えなかった。実は俺はもう一つの世界とか能力とか難しいことがよくわかっていない。この世界について、俺は普通の家庭に生まれ、普通に過ごしていたはずだ。小学校の頃に前の世界の記憶を取り戻したのだが、どうもおかしいくらいにしか思わなかった。

 パンには高校のとき、イルカには道で出会ったが、話しかけてもどうも反応が薄いくらいにしか思わなかった。まぁ、おかしい世界なんだからそんなものかと片付けて十年弱。そういえば俺は死んだはずだとか、いろんな葛藤はあったが、人間誰しも一度はそういう時期があると本で読んだのでそういうものだと思っていたし、今も前の世界とか、壮大なストーリーに実感は持てない。

 とりあえず、能力者ってのは世界を滅ぼそうとする悪い奴で、俺は友達のためにそれを殺す悪い奴だ。どうせ善悪なんて俺には難しすぎるんだから、信じられるもののために……それに、やることは変わらない。

「鬼、私が魔法使う。火の魔法でいくから」

 作戦はシンプルに。耳につけた無線から、イチの声が聞こえてすぐに、俺は走り出す。

「――」

 耳が塞がっているので相手が何を言ってるのかは、解らないが、降参とかそういった類ではないことは確かだ。

「蹴りの基本は足のバネ」

 点仔という敵の顔を蹴って、おそらく来るであろう反撃に意識を集中させる。

 点仔は吹き飛んだ。

「ん? ちょろいな」 

 もう少し手ごたえがあってもいいと思い、点仔のほうを見ると俺のほうを指差して、何か怒っている様だった。

「――の奴の周りの空気たちは吸われるのを禁止、今後一切私、ダメージを受けることを禁止」

 突然息ができなくなった。だが焦ることは無い、イチの魔法とやらがこいつを攻撃すれば、息もできるようになるだろう。

 そしているかからもらったイヤホンはまだ耳の中にあるのに、声が聞こえる。壊れてしまったようだ。何が起きたのかは解らない、しかし、相手も本気になったんだろう。

「焔の魔法。火葬」

 イチの声と重なるようにして、点仔の足元から青い火柱が上がる。肌が焼けるように熱く、何も無ければこれで俺たちのまずは一勝だ。力には犠牲がつき物なので、イチの魔法は加護と高価な材料を使う。加護というのは神様が人間にくれた慈悲というものらしい。これがなくなると、酷い死に方をしてそのあと、原罪を償わなくてはならないそうだ。と、そんなことをいってはいたが、失っているのはおそらく寿命か何かだろう。

「――」

 イチはいっていた。この世界の偽者の魔法は私の全てを否定する。

 点仔が火柱の中から姿を現した。涼しげな顔で、嘲笑するように。俺もこの世界の魔法は卑怯な感じがするから嫌いだ。焔の中で、何の痛みも感じさせず、実際感じていないのだろうが、点仔はその場で立っていた。

 イチの魔法が通じない今、それより上の攻撃はモノの術、しかしそれは奥の手だ。絶対に負けるわけにはまだいかないので、それをここで使うことはさせたくない。勝負っていうのは、瞬発力だ。俺はそう思う。だから俺は走る。魔法の発動は、並べく、敵に近いほうがいいだろう。

「――――」



 

「死の魔法、処刑人」

 イチの魔法が俺の足を鎖で掴む。そのまま上に引き上げられて、逆さ刷りだ、血が肩から流れ出して頭が朦朧とする。

「イチ、泣くなよ」

 肺の中には空気が無く、声はきっと届かなかった。……残念だ。

 鎌を持っている、黒い布を被った奴が現れ、俺の首に鎌をかけた。

「願うのなら命を差し出せ」

 ――早くしろ。

 鎌が首に掛かる冷たい感触。

 死と生のほんの一瞬の境での後悔。またやってしまった、何で人は死ぬときに目を瞑ってしまうんだろうか。


 ――楯状武人、死亡。

    


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