精霊王の子育て日記 風編
アーサーが神狼の森に来て3ヶ月が経った。
随分と身体もしっかりとして、頭を上にした抱き方もできるようになった。
精霊王達も抱き方に慣れてきて、当初の恐々といった感じではなくなっていた。
シルフはサラマンダーからアーサーを受け取り、横になっているエルザに凭れかかるようにして座らせてみた。
背もたれになっているエルザの体毛が気持ち良いのか、上機嫌にニコニコ笑っている。
「アーサーが座ってるわ!」
「御子様がお座りになった」
シルフとサラマンダーの親馬鹿発言にあきれながらも、エルザは眼を細めていた。
しばらく座っていたがズルズルとずりおちて、エルザの前足を枕にするように横になってしまった。
アーサーが眠ってしまったようなので、そのままにしてシルフは話はじめた。
「お座りができるようになったら、少しづつ乳以外の食べ物を与えていくようよ」
「シルフ、どんな物をあたえれば良いのだ?」
「野菜を磨り潰した汁や、米を煮て磨り潰して汁のようなものを、ほんの少しだけ与えるのよ」
<肉はダメなのか?>
「肉はまだ早いわね」
「そんな物どこで手に入れるのだ?」
「サラマンダー、なんのために料理人に加護をあたえてるのよ」
「吾は与えてはおらんぞ。与えてるのは下位の精霊達だ」
「誰でもいいわ。料理人に作らせなさい」
「吾がか?」
「アタイの配下は誰も料理人なぞ加護してないからね」
「仕方あるまい」
とサラマンダーは姿を消した。
寝ているアーサーにそよ風をあてながら、シルフはアーサーを見ていた。
「アタイはこうやって風をおこすことくらいしか役にたたないね」
<シルフよ、そんなことはないぞ>
「そうかな?」
<シルフの持ってくる子育ての話にどれだけ助けられておるか>
「それは配下の者が持ってきてくれる話をしておるだけよ」
<こうしてアーサーが心地よく眠れるのも、そなたの力じゃぞ>
「そんなのだれでも……」
<サラマンダーがやったら熱風で寝るどころではないぞ ふふふ>
「そりゃ無理ね うふふ」
<シルフはそうやって笑っておるのが良い。皆が明るくなるでな>
「あはははは そうね」
サラマンダーが野菜の汁と米の汁を持って帰ってきた。
小匙で米の汁を与えてみる。
ニコニコ
次に野菜の汁を与えてみる。
うえぇ
全部吐き出した。
いつも通りエルザの乳を与えながら
「アーサー、野菜も食べれるようにがんばろうね」
すっかり守役になれたシルフがいた。