神狼の心労
今回はエルザと四大精霊が初めてアーサーと出会ったお話です。
おぎゃ~おぎゃ~おぎゃ~
神狼の森にある洞窟に赤ん坊の泣き声が響き渡った。
突然エルザの前に神が降臨して、この子の乳母になれと赤ん坊を置いていったのだ。
泣き声から察するに、どうやら空腹らしいことは分かっているのだが、どうして良いのかわからないのだ。
狼の子供はお腹が空くと、自分から乳を飲みに来てくれるのだが、この子は泣くだけで来てくれないのだ。
体高5mもある身体では怖いのかと身体の大きさを魔狼サイズ(体高1.5m)にして近づいてみるが、赤ん坊は泣くだけであった。
舐めてみる……少し落ち着いたかな……また泣き出した。
念話で話かけてみる。
<これ、赤子よ。乳を飲みに来い>
おぎゃ~おぎゃ~おぎゃ~
<……>
「エルザ様、何をされているのですか?」
突然声がかかった。
青く長い髪の落ち着いた美女だ。
<ウンディーネ、助けてくれ>
「いかがなさいました?」
<赤子が乳を飲みに来ぬのだ>
「人の子は少し大きくなるまで、自分では動けぬと聞いております」
<そ・そうなのか?>
ウンディーネは赤ん坊を抱き上げて、エルザの乳に口を持っていってやった。
ゴキュゴキュゴキュ
<おお、飲みだしたぞ>
<凄い勢いだ、さぞお腹が空いていたのであろう>
エルザは目を細め優しく赤ん坊を見やった。
やがて赤ん坊はスヤスヤと眠り始めた。
エルザはウンディーネに抱かれた赤ん坊を舐めてやりながら尋ねた。
<ウンディーネ、何故ここに?>
「『生命の女神』様から、この子の守りをするよう言いつかりました」
<そうか、お前もか>
「わたくしだけではございません。四大精霊王全員でございます」
<なんと!?それで、この子のことは何か聞いておるのか?>
「わたくしは何も聞いておりません」
「アタイが調べてきたよ」
肩口までの緑の髪をした活発そうな美女が話しかけた。
「その子の名はアーサー・フォンライン・ローレンシア。
ローレンシア神聖王国の王子様さ」
「シルフ、それがなんでここに?」
「ウンディーネは知らないのかい?国王と王妃が殺されたこと」
「それは知ってるけど……」
「王妃が死ぬ間際に神様に子供を託してね、神様達が養子にしたんだって」
<それは、まことか?>
「神々のご養子ですか?」
「その子を見てごらんよ。金色の髪に金色の瞳、神の証だろ」
「そう言われればそうね」
<慌てていたので気付かなんだ>
「それにしても可愛いというか綺麗な子ね~」
ウンディーネの腕から赤ん坊を奪い取って、シルフは抱いてみた。
「これ、シルフ何をするのよっ」
「いいじゃない、アタイにも抱かせてよっ」
<これこれ、騒ぐでない。赤子が起きてしまうじゃろう>
ふたりは交互に抱き、優しく髪を撫でたりしていた。
「……吾も抱きたいぞ……」
「ノーちゃんも抱きたいっ!」
少しくせ毛の赤い髪をした凛々しい顔の美女と長い茶色の髪をした美少女が赤ん坊を覗き込んでいた。
「サラマンダー、ノームおそいわよっ」
「すまぬ。ノームと一緒に火山を噴火させておった」
「そう、ドーーンって」
その後、四人の美女、美少女が交代で赤ん坊を抱き、口々に可愛さを褒め称えていた。
(このような者達が守りをしたら、この赤子はどうなるのじゃろうか?
我が守ってやらねば)
と強い決意をした神狼がいた。