アーサー空を飛ぶ
アーサーが魔術を習い始めた頃、昼食の後シロを枕にお昼寝をしていた。
ズシーーーーーン ズシーーーーーン
エルザの洞窟が揺れ動いた。
シロはむくりと身を起こし洞窟の入り口を見つめた。
金髪に金色の目をした青年が洞窟に入ってきて
「エルザ殿はいらっしゃるか?」
とたずねた。
<母は狩りに出てるぞ>
「そうか、しばし待たせてもらっても良いか?」
<ああ、勝手にしろ>
青年は入り口近くの岩に腰掛け、シロを枕に寝ているアーサーを見つめた。
「その子が御子様なのか?」
<ああ、名はアーサーと言う>
「まだ、随分幼いようだな」
<今年5歳になったばかりだ>
気配を感じたのかアーサーは目を覚まし欠伸をしながら入り口のほうを見つめた。
「おじさん、だれ?」
「御子様、我が名はアレク、神龍でございます」
アレクと名乗った青年はアーサーに深々とお辞儀をした。
「しんりゅう?」
「神に仕える龍でございます」
「りゅう」
ぽかぁ~んとしか顔でアーサーはアレクを見た。
「もしや御子様は龍をご存知ないのかな?」
「うん、しらな~い」
シロは吹き出しながらアレクを見た。
<天下の神龍殿も形無しだな>
「御子様、龍とは地上で一番強い生き物なのですよ」
「ふ~ん。人間と同じ姿なの?」
「いや、我は魔術で人の形をしているだけでございます。
本来の姿では大きすぎて、この洞窟に入れませぬゆえ」
アーサーはトコトコとアレクに近づき手をひっぱった。
「お外なら龍の姿になれるんでしょ」
「ご覧になりたいのですか?」
「うん」
目をキラキラさせ見つめるアーサーにアレクは微笑んで洞窟の外に出た。
「少し離れててくださいませ」
アレクは少し離れた場所で目を閉じ、カッと目を見開いて上を見た。
アレクの身体が光輝き、みるみる大きくなっていき体長15mを超える金色の龍の姿になった。
「すっご~~~い」
<御子様、いかがですかな>
「大きくなったら念話なの?」
<この姿では人間の言葉は話せません>
アーサーはシゲシゲとアレクを見つめ羽に目をとめた。
「アレクさんは飛べるの?」
<ええ、飛べますぞ>
アレクは羽を羽ばたかせ空へと舞い上がり、再び元の場所に降り立った。
アーサーは手を羽のように羽ばたかせジャンプしてみた。
「僕は飛べないの?」
<あはははは、御子様は羽がないからのお>
「え~~~~、僕も飛びたい」
<我に乗ってみられるか?>
「乗せてくれるの?」
<お安い御用だ>
アレクは身を屈め背中にアーサーを乗せた。
<御子様、しっかり掴っておくのだぞ>
アレクはアーサーが鬣を持ったのを確認して飛び立った。
「うわぁ~~~~~、すごぉぉぉぉぉい」
アーサーは眼下に神狼の森を見下ろし、遥か遠くまで見渡せる景色に歓声をあげはしゃいだ。
「綺麗だね~~~~~」
ゆっくりと神狼の森上空を飛び回りアレクは地上に戻った。
「アレクさん、ありがと~
僕も飛べるようになりたいなぁ~」
<我がいつでも乗せてやろう>
この後アーサーは風の精霊王シルフに風の魔術で飛ぶ方法を教わろうとしたが、実体を持ち重さのあるアーサーは飛ぶことはできなかった。