武術修行 水編②
水の精霊武術の特徴は、川の流れのようにゆったりした動きで相手の力を利用することである。
初期段階では徹底的に力の受け流し方を鍛錬し、上達するにつれ攻撃を学んでいく。
ウンディーネはまず、初期段階の動作をまとめた型をアーサーに教えた。
「アーサー様、まず肩幅に足を開いて身体の力を抜いてください」
アーサーは言われた通り、肩幅に足を開き身体の力を抜いた。
「その姿勢が基本の構えになります」
「ウンディーネ、戦うのに力抜くの?」
「アーサー様、身体に力を入れて立ってみてください」
ウンディーネは脱力して立つアーサーをいきなり突き飛ばした。
アーサーは吹っ飛んだ。
「今度は身体の力を抜いて立ってみてください」
ウンディーネは同じように突き飛ばしたが、アーサーは仰け反りながらも立っていた。
「お分かりですか?」
「へぇ~ おもしろいね」
「それでは、初歩の型をお教えいたしますので、ご一緒にやってみてください」
ウンディーネは型を教えながら、ひとつひとつの動作の意味・用法も丁寧に教えていった。
ウンディーネは数回一緒に型をやっただけで、アーサーの練習を見ていた。
はじめはぎこちなかった動作が徐々にスムーズになっていき、とても今日はじめて覚えた型とは思えないくらいに上達していった。
ひとりで型の練習をしているアーサーを見ながらウンディーネは、ほんの数百年前に中位精霊が精霊神殿の神官に護身術として武術を教えていたのを思い出していた。
当時の大陸は小国が多数あり勢力争いが続き、治安が最悪の状態であった。
そんな中、神官達は遠方の神殿に赴任したり、赴任先からもどったりする旅をしていたのだが、途中で山賊や野盗に襲われ命を落とすことも珍しく無い状態だった。
中位精霊達は自分が加護を与えている神官に、自分の属性の武術を教え、神官はお互いに教えあったりして大陸中に武術が広まっていった。
そしてローレンシア神聖王国にある精霊神殿には、当然大陸中の神官が集まることから精霊武術の総本山として有名になったのである。
しかし、年月が経つうちに各属性の武術が混ざり合い属性の特徴は薄れ、大陸が平和になったこともあり見栄えのする動作だけが伝承されていった。
特に水属性の武術は、緩やかな動作で受け流すことが基本であるために殆ど残っていなかったのである。
実際には、濁流のような荒々しさで相手を飲み込むような手法もあるのだが、そこまで極めた人間は過去に存在しなかっただけなのだ。
ウンディーネはアーサーの様子をみながら素直な性格と驚異的な素質で、全ての属性の武術をマスターできることを確信していた。