武術修行 水編
精霊は基本的には争うことをしない。
下位精霊は具現化できず実体がないので、外敵が存在しないからだ。
しかし、上位精霊は世界の理を知らしめる為にあえて具現化したり、加護した者を守る為に具現化することがある。
具現化した精霊に攻撃する者や捕縛しようとする者と止む終えず戦うことがある。
精霊の魔術を行使すれば容易く相手を倒すことはできるが、地形が変わったり精霊への恐怖から精霊を悪とする思いを抱かせてしまうことになる。
そこで精霊は精霊武術と呼ばれる武術を作り上げた。
基本となる体術と剣や槍を用いた武器術である。
人間の武術家がいくら鍛錬したところで5~60年であるのに対して、精霊は永遠ともいえる時間を鍛錬にあてることができる。
その中でも精霊王は群を抜いた技量をもっている。
神気を抑えた動きにも慣れてきたアーサーにウンディーネが声をかけた。
「アーサー様、今日から武術の鍛錬を始めます」
「ぶじゅつ? ぶじゅつってなあに?」
「戦い方でございます」
「僕、しってるよ。かみついたり、爪でひっかいたりするやつ」
「それは獣の戦い方でございます。アーサー様には鋭い牙も爪もないでしょう?」
「うん」
「人間には人間の戦い方がございますので、それをアーサー様にお教えいたします」
「わかった。よろしくね、ウンディーネ」
「まず最初はお座りになって、足をいっぱいに開いてもらえますか?」
ぺたっ
アーサーは座って180度開脚をした。
「次にそのまま身体を前に倒してみてください」
ぺたっ
アーサーはそのまま前屈でぺたりと地面に身体をつけた。
(さすが子供ですわね。柔軟性は問題ありませんわ)
「アーサー様、その動作は毎日練習なさってください」
「はいっ」
「では次に、わたくしに攻撃してみてください」
「いくよ~ えいっ!」
アーサーは地面に転がされていた。
「あれ~ なんで僕ねてるの?」
「それはですね、アーサー様の勢いを使って少しだけ力の向きを変えたからなんですよ」
「すっご~~~いっ ねえ、どうやったの?」
目をキラキラさせてアーサーはウンディーネを見つめた。
「ではアーサー様、今の動きをもう一度ゆっくりやってみてください」
アーサーは拳を握りゆっくりとウンディーネに踏み込んだ。
ウンディーネは少し前にでて、アーサーの伸ばしてきた腕の肘の内側を持ち下に押し下げただけだった。
「お分かりですか?」
「え~と 僕の手を下に押しただけ?」
「さようでございます。後はアーサー様がご自分の勢いで倒れただけでございます」
「ふ~ん よく分かんないけど、すごいね~」
「これから、こういった戦い方をお教えするのですよ」
「僕、ウンディーネより強くなれるの?」
「それはアーサー様の頑張り次第でございます」
「僕、がんばるっ!!」