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森に仕掛けた猪用の罠に、帝国最強の騎士団長が逆さ吊りでかかっていました。  作者: カトレア


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第2話 狭い我が家に「熊」が来た


 その日、私は薬草の調合に追われていた。


 ゴリゴリと薬研やくげんで乾燥した根を挽いていると、突如として家全体が揺れた。


 ドンドンドン!!

 扉を叩く音だ。

 いや、叩くというより、攻城兵器か何かが衝突したような音だった。


 私はビクリと肩を震わせ、恐る恐る玄関へと向かう。


「は、はーい……どなたですか?」


 ギギ、と軋む木の扉を開ける。

 そこには、茶色の壁があった。


 いや、壁ではない。


「……よう」


 視線をずずいと上げると、ようやく顔が見えた。


 先日、私の猪用罠にかかっていた「銀色の缶詰」こと、自称・帝国騎士団長様だ。



 今日はあの目立つフルプレート鎧ではなく、上質な革のジャケットに身を包んでいる。


 だが、その隠しきれない胸板の厚さと、丸太のような腕は、一般人のそれではない。


「……何の用ですか? 怪我ならもう治ったはずですが」


「口封じに来た」


「はい?」


「あの日、私が逆さ吊りになっていたことは国家機密だ。お前が誰かに喋らないよう、監視しに来た」


 彼は大真面目な顔でそう言うと、ズカズカと我が家に上がり込んできた。


 狭い。

 六畳一間の我が家に彼が入ると、圧迫感が半端ではない。


 天井に頭を擦りそうだし、肩幅が広すぎて家具との距離感が狂う。


 まるで野生の熊がリビングに座り込んでいるようだ。


「監視って……私、仕事中なんですけど」


「安心しろ。ただ見ているだけではは悪いからな。……騎士として、借りは作りたくない」


 彼はそう言って、背負っていた大きな麻袋をドンとテーブルに置いた。


 中から出てきたのは、霜降りの牛肉ブロック、高級ワイン、そして見たこともないような新鮮な果物たち。


「手土産だ。……これで、先日の件は忘れろ」


「どうぞおかけください、騎士様!!」


 私は即座に直角のお辞儀をした。

 プライド? そんなものは高級肉の前では無力だ。

 今日の晩御飯はステーキに決定である。


「それで、お前は何をしている?」


「薬を作っています。この根っこを粉末にして、丸薬にするんです」


「ふむ。力仕事か。なら私がやろう」


「えっ、いえ、そんな悪いですよ」


「貸せ」


 彼は私の手から薬研をひったくると、自信満々に腕まくりをした。


 その腕の筋肉が、彫刻のように盛り上がる。


「帝国の剣と称される私の腕力を見せてやる。どのくらい回せばいい?」


「あ、あの、優しく……ゆっくりでいいので……」


「任せろ。ふんっ!」


 バキィッ!!!

 凄まじい音が響いた。


 彼が軽くハンドルを回した瞬間、石でできた薬研が、まるでクッキーのように粉砕されたのだ。


 中に入っていた薬草の粉末が、ボフッ! と爆発にように舞い上がる。


「「…………」」


 もうもうと立ち込める粉塵の中、私と彼は顔を見合わせた。


 私の大切な商売道具が、ただの砂利になっている。


「……す、すまん。手加減したつもりだったのだが」


「私の薬研んんんん!!」


「弁償する! 王都から最高級の、ミスリル製の薬研を取り寄せるから!」


 彼は慌てて立ち上がろうとして、今度は天井から吊るしていたドライフラワーの束に頭をぶつけた。

 バラバラと落ちてくる花びら。


 その拍子に、狭い部屋の中で私と彼がぶつかる。


「っと、危ない」


 太い腕が、私を支えようと腰に回された。

 至近距離。

 目の前に、端正な顔がある。


 革の服越しに伝わる体温と、微かに香る高級そうな石鹸の匂い。


 彼は私を抱き留めたまま、固まっていた。

 なぜか、耳が赤い。


「……近い」


「あ、あの、離してくださればいいんですよ」


「……そうだな。……すまない」


 彼はパッと私から離れると、咳払いをして視線を逸らした。

 

「と、とにかく! 私は役に立ちたいんだ! 次は薪割りか? それとも水汲みか? 何でも言え!」


 その必死な様子は、まるで飼い主に褒められたくて空回りする大型犬のようだ。


 帝国最強の騎士団長。

 クールで冷徹な男だと聞いていたけれど。

(……意外と、ポンコツ?)


 私は壊れた薬研の残骸を見つめながら、深いため息をついた。


 どうやらこの「監視」とやらは、私が彼のお世話をする時間になりそうだ。


「じゃあ、とりあえずそのお肉を焼いてください。……あ、フライパンは握りつぶさないでくださいね?」


「善処する」


 狭いキッチンに、男ふたりぶんくらいの背中が並ぶ。


 彼の不器用な包丁さばきを見守りながら、私は「まあ、お肉が食べられるならいいか」と自分を納得させたのだった。

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