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オルフェウスの影  作者: 里中 汪


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9/14

【特殊案件2】遮断された生存ルート 2/14

9月21日 PM4:16

@埼玉県三郷市 TAGソリューション(株) ロジスティクスCエリア


 倉田は意識的に、その事故調査員から距離を取った。差し出された名刺は

受け取ったが、自分の名刺は出さなかった。事故調査は警察の領分で、

部外者を介在させる理由はどこにもない。


 調査員は遺体と室内を一通り確認した後、斉藤に質問した。

「高温室から出るルートは他にもありますか?」

「AGV通路しかありません」

「AGVは安全でしょうか?事故率はどれくらいですか?」

なんだ、その質問は。倉田は舌打ちした。

「人を検知すれば、必ず停止します。弊社のシステムは稼働以来無事故です」

斉藤は先ほどより強い口調で答えた。

調査員は頷き、再び高温室内へ戻っていった。室外で倉田を中心に

今後の対応を協議した。労基を呼び、労働災害報告を早急にまとめる。

遺族対応・マスコミ対応も入念な準備が必要だ。


 諸々の段取りを組むのに15分程要した。誰もが調査員の存在を

忘れていたが、山浦が思い出し慌てて中に入った。

高温室から出てきた調査員は顔色が明らかに悪く、足もふらついていた。

「すみません、水分補給しながらの調査なら大丈夫と思ったのですが…」

スポーツドリンクを首から下げ、ストローで飲みつつ調査していたようだ。

何故こんな邪魔者がいる。倉田の苛立ちはピークを迎えた。

「今、真剣に捜査しているんだ。邪魔をするなら帰ってもらえないか!」

「では質問を1つさせて下さい」

その場にいた全員が、一斉に調査員を見た。

「なぜ、佐久間さんはAGV側に逃げなかったんでしょう?」

「何が言いたい」

「鑑識の方に聞くと、靴の足跡が何度か往復しているようなんですよ。

作業中にただ熱中症で倒れた人間としてはおかしくないでしょうか?」

誰も即座に言葉を返せず、空調音だけがやけに大きく聞こえた。

「高温室での作業中に暑さで意識を失った。それだけだ」

と倉田は鼻で笑った。

「個人差はありますが、20分もいれば倒れます」

と斉藤も補足した。

「それでも、暑さで倒れそうになったら這ってでも扉方向に向かうはずです」

「考えすぎだ。急に意識を失うこともある」

倉田は即座に切った。


 事故は事故だ。そうに決まっている。

だが、倉田自身が拠り所にしていた前提に、ほんの小さな亀裂が入った。

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