【特殊案件2】遮断された生存ルート 8/14
9月22日 PM6:52
@埼玉県三郷市 TAGソリューション(株) システム管理部
水野さんは一瞬、こちらの意図を測りかねたような表情を見せた。
「途中で認証カードが機能しなくなる?そんなことは理論上起こりませんが、
AGVは夜間高速運転モードに移行します」
「仮に佐久間さんがその状況に置かれた場合、どう行動すると思いますか?」
「…昨日の運転速度は通常時の約4倍です。人がいればかなり危険な状態なので、
走行ルートから退避するはずです」
沈黙が流れ、室内の空気が張りつめた。
まだ引き出せる情報がある。そう判断し、水野さんに問いを重ねた。
「分かりました。他に、昨日のAGVログで不自然な点はありませんか?」
「そうですね……プログラム構造が複雑で、意図的に隠された部分もあります。
私の権限では閲覧できない領域もありますし……」
「どうすれば確認できますか?斉藤さんを呼んでみます?」
「それか……」
水野さんは言いかけ、止まった。この人は思考より発話が先に出る傾向がある。
「それか、とは?」
間髪入れず、山浦さんが踏み込んだ。
「…菰池さんに直接聞くか…」
「確かに。出社されていなかったので、完全に頭から抜け落ちていました。
申し訳ないですが、電話していただけますか?」
「…出なかったら諦めてくださいね…」
菰池さんは電話に出なかった。水野さんは分かりやすく安堵の表情を浮かべた。
山浦さんは、今後の捜査方針を深く熟考しているようだ。
正直、事故調査員としての責務はもう果たしたように思える。
山浦さんは、水野さんを見て言った。
「このシステム管理室は、社員の入退場記録も管理していますか?」
「はい、管理しています」
「昨日夕方6時に会社に残っていた人を全部リストアップしてもらえますか?
あと、AGVエリア付近の監視カメラはありますか?」
「はい、リストアップはすぐできます。
監視カメラの映像のチェックは、斉藤さんの承認が要ります」
「お願いします。斉藤さんの承認は私が取ってきます。緊急なので」
返答を待つこともなく、山浦さんは部屋を飛び出して行った。
2人だけが残され、重い沈黙が流れた。水野さんはモニターに向き直った。
「ちょっと先に、カメラの映像だけ切り出しておきますね」
「はい、どうぞ。あ、菰池さんのデスクを見て良いですか?」
「あ、あそこです。物は触らない方がいいと思います」
指差されたデスクに、近付いてみる。
キーボード、トラックボール、マイク付きヘッドフォン。
全てのガジェットが黒色で統一されている。しかも、全て高機能品だ。
デスク周りも整然としており、塵1つ落ちていない。
ゴミ箱には、色んな物が無造作に放り込まれて雑然としている。
「本当に、触らない方がいいですよ。ミリ単位で位置を調節してますから…」
異常なまでに神経質な人物像が浮かび上がる。
1つだけ、そのデスクにそぐわない物があった。
色鮮やかなポプリが小袋に入って置かれている。
「菰池さんってポプリが好きなんですか?」
「ポプリって何ですか?」
指でその花袋を指し示す。
「いや、知らないですね。最近買ったんですかね。
ストレス解消目的かもしれませんが、意外ですね…」
「菰池さんと佐久間さんって、親しい関係でしたか?」
「いや、話しているのは見た事ないですね。業務内容も別ですし、
誰からも好かれる人気者の佐久間さんと、菰池さんは真逆のタイプですし」
「そうですか」
その時、水野さんがPC画面に反応した。
「カメラの映像を提出していいと、斉藤さんから連絡ありました。
もうすぐまとまります」
山浦さんが扉を開けて帰ってきた。急いで戻って来たようだ。
獲物を目前にしたハンターの目をしている。
ちょうど、水野さんも全ての準備を整えたようだ。
「ご指定の時間に会社にいた従業員が6人。映像もまとめました
どちらから確認しますか?」
山浦さんはレストランのメニューを選ぶかのように楽しそうだ。
「じゃあ、まずは映像を見よう」




