【特殊案件2】遮断された生存ルート 7/14
9月22日 PM6:34
@埼玉県三郷市 TAGソリューション(株) システム管理部
山浦さんは不自然な程優しい笑みを浮かべ、水野さんの側に椅子を寄せた。
「水野さん、捜査に協力してくれて本当にありがとう。
もう少し、プランナーの人について詳しく教えて。
大丈夫。何かあったら、斉藤さんに聞いたことにする」
それは斉藤さんに迷惑ではないかと思ったが、口には出さなかった。
急に態度を変えたということは、刑事としての直感が何かを捉えたのだろう。
「はい……でも……」
「大丈夫。これ、俺の名刺。何かあったらいつでも相談して」
水野さんの強張った雰囲気が、わずかに緩んだ。
「はい、プランナー担当は菰池という30代半ばの男です。
社内で1番優秀なエンジニアです。業界内では有名な存在です」
「そうなんだ。どんな人?」
「機嫌がいい時は、表面上穏やかな人ですよ。ただ、機嫌が悪い時は
不機嫌な態度を隠さないし、怒鳴ったりします」
なるほど、菰池さんは人間性に大きな歪みがあるようだ。
山浦さんは何度も相槌を打ち、細かな愚痴を次々聞き出した。
更に内情を引き出すつもりだ。
「なるほど、それは厄介な人だね」
「トップエンジニアにありがちですが、実力が飛び抜けているから
周りを見下しているんですよね」
「他のエンジニアも文句を言わないの?」
「この会社は年功序列ではなく実力主義ですし、彼のコードを、あっ …」
何か、言うべきではない事が漏れ出たらしい。
山浦さんの目が、一瞬だけ鋭く光った。
「菰池さんのコードが何?教えて」
「…いえ何でも」
「本当に、何でもない?佐久間さんの事故に関わる可能性があるなら教えて。
絶対に君が言ったって事は表に出さないから」
「…斉藤さんにも内緒にしてもらえますか?」
水野さんは観念したようだ。
「ああ。警察官として、ここで約束する」
「さっき言った通り、菰池さんの実力は飛び抜けています。」
よく考えれば、水野さんの方が菰池さんより歳上のはずだが、立場は逆だ。
「なので、皆は彼が書いたコードを基にプログラムを作成しているんです」
「それは悪い事なの?」
「不得意分野を少し手伝ってもらう、ぐらいなら効率も良いと思いますが、
この部署では、完全に彼のコードに依存した状態になっています」
「彼の言う事に逆らえない?」
「はい」
「彼のコード無しでは仕事できない?」
「はい」
気付けば、完全に尋問の形になっている。
「さっき、プランニングに違和感があるって言ってたよね。
あれはどう言う意味?」
「…元々彼が中途入社して以来、AGVの高速化を推進しました。
社会的に半導体の需要が大きく高まった事も大きく影響しました。
昨年、彼が考案したのが人が不在の夜間に高速でAGVが部品を
運搬するシステムです」
「佐久間さんは、昨日夕方6時頃にAGVエリアにいたみたいだけど、
その時は高速運転モードだったのかな?」
「いえ、それは有り得ません。人が入室した時は安全最優先の低速モードです」
山浦さんと神妙な顔を見合わせた。
我々は事故の核心に近付きつつあるようだった。
山浦さんが低いトーンで聞いた。
「途中で認証カードが機能しなくなった場合は、どうなる?」




