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オルフェウスの影  作者: 里中 汪


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12/15

【特殊案件2】遮断された生存ルート 5/14

9月21日 PM5:43

@埼玉県三郷市 TAGソリューション(株) ロジスティクスCエリア


 AGVエリアに足を踏み入れた瞬間、数え切れない数のAGVが

所狭しと動き回っていた。人の入室を感知した瞬間、一斉に停止した。

倉田さんは、これが危険なはずがないと勝ち誇った表情を浮かべている。


 高温管理室の前に立った瞬間、また喉の奥が乾くのを感じた。

まだ室外だというのに、金属と焼けた埃のような乾いた匂いが漂ってくる。

倉田さんは無言で頷き、腕を組んだまま扉から視線を外さない。

鑑識の山根さんは無言で白手袋を装着し、証拠保全袋から認証カードを

指先でつまむように取り出した。


 佐久間さんが死亡時に身につけていたカード。

表面に薄いマット調のシールが貼られている。山浦さんが口を挟んだ。

「斉藤さん、このシールは見覚えありますか?」

「人の認証カードをしっかりと見る機会は無いのですが、こんなシールは

貼っていなかったと思います。あれば目に付くので…」

「会社で支給されるシールでは?」

「いえ、全くないですね」

「これ、QRコードの右半分を覆う形で貼ってありますね」

山浦さんの指摘に、全員が一瞬言葉を失った。

最も驚いた表情を見せたのは倉田だった。

認証カードの細工という仮説を立て、事前に予想していたとはいえ、

この悪意ある加工を実際に目の当たりにすると背筋に冷たいものが走った。


「まずは、高温室を開錠できるか試しましょう」

山根さんが慎重に認証カードをリーダーにかざした。

短い電子音が鳴る。扉が静かに解錠された。

「……問題は無いな」

 倉田さんが言う。

「閉じ込められたわけじゃない」


 一旦、全員で高温室に入る。倉田さんは自身の来客用認証カードを外し

佐久間さんの認証カードを装着した。そして、AGVエリアへ向き直った。

一旦照明が落ち、天井の誘導灯だけが規則正しく点いていた。

複数のAGVが、摩擦音ひとつ立てずに走行している。


「まず、正常な同型カードで比較します」

斉藤さんは一歩、エリア内へ踏み出す。

AGVが即座に反応した。減速し、進路を滑らかに変更した。

「人検知、正常です」

斉藤さんが言う。


 次に、問題のカード。QRコードにシールが貼られた状態だ。

先程と全く同じ位置から、倉田さんが歩みを進めた。

AGVは、反応しない。速度を一切落とさず、

最短ルートを維持したまま接近する。


「……来るぞ」

全員が息を呑む。

倉田さんは怯む事なく直立している。

AGVはそのまま脛に鈍く衝突した。衝突を検知し、エラー音が鳴った。


「生命の危機を感じる程じゃないな」

倉田さんが言った。

「被害者は右半身に打撲痕があった。実際にぶつかったのかもしれない。

だが、軽傷だ。この程度の恐怖では、人は高温室に逃げ込まない」


 扉越しに、AGVの挙動を見つめ続けた。

減速しない機器の群れが、人の存在を無視するように次々と通り抜ける。

自動ブレーキシステムや障害物検出センサーは備えていないようだ。


 斉藤さんがその意見に賛同するように言った。

「結果は明白ですね。カードの不具合と本事故の関連性が示されなかった。

 作業の効率が落ちるので、現場検証は以上で終了にしましょう」


 倉田さんはこちらに人差し指を突き出し、吐き捨てるように言った。

「お前の仮説は間違いだった。もう捜査に関わるな」

感情的な人物を見ると、冷静になれた。穏やかに切り返した。

「事故当時のAGVの挙動を正確に再現できているか、

エンジニアの方にヒアリングしてもいいですか?」

「ダメだ。これ以上無駄な検証に時間を割けない。

事件性が否定された以上、労災としてまとめる」


 それ以上、言葉を重ねることはしなかった。

この場で口にできる確かなことは、もう残っていなかった。

ただ一つだけ、揺るがない確信があった。

佐久間誠は、この空間で「人であること」を失った。


山浦さんが柔和な口調で口を挟んだ。

「別々に調査するのはどうですか?皆さんは労災として捜査し、

私と片瀬の2人だけが別の可能性を調査する」

倉田さんは少し考える仕草を見せた。

「いいだろう。その代わり、こちらの捜査とこの会社の業務を

一切邪魔しないでくれ。邪魔した場合、即刻2人で東京に帰ってくれ」

山浦さんは笑みを浮かべて頷き、斉藤さんの方に向き直った。

「社内で色んな方に話だけ聞いてもいいですか?」

「はい、社員がOKすれば大丈夫ですが、AGVは作業中ですので

わざとぶつかったりしないようにお願いしますね」


山浦さんと2人、AGVエリアに取り残される事になった。

「さて、これで煩い奴の顔色を伺う必要も無くなったな。

軽く飯を食って、エンジニアに話を聞きに行こう」

山浦さんは晴々とした表情を浮かべた。

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