真冬の夜の女夢
ある日の夜、俺は喉が渇いたのでパーカーを持って出た。
外は冷たく、背筋をなぞられたような震えが止まらなかった。
コンビニまでそう遠い距離ではなかったが、足早に道路を横断して、この暗闇から逃げた。
コンビニに入ってすぐに、温められた缶コーヒーを両手で覆って、しばらく外を眺めていた。
目の前の車のライトが見開き、明かりの下に残った煙が消えていくのを見ていると、その奥で女が倒れていた。
俺は走った。
「大丈夫ですか! 聞こえますか」
コートを着た女はゆっくりと目を開いて、掠れた声で言った。
「大丈夫です。私はただ買った同人誌の推しに対するか解釈違いに怒りが湧き、その熱を冷たいアスファルトで冷やしているだけなんです」
俺の体に先程まで忘れていた悪寒が走った。
「あなたは思いましたね。なぜそれをカテゴライズの段階で確認しておかなかったのかと」
「いや思ってないス」
「私は絵がいいなと思ったら初めの数ページだけ見てカウンターに走るタイプなんです」
「知らねえよ」
「最初は割りと良かったんです。あーわかってるね君は、みたいなさあ。でも後半に連れてなんか雲行き怪しくなるって言うか。なんかほら、割と平気でボディタッチ入ってすぐにキスして挿入すんのなんかあんま気分上がらないっていうかさ。なんかもうちょっとさ何もない段階からこうなんというか雰囲気を漂わせて欲しいというか。わかるでしょ?」
「いやわからんわ」
「いやほら、普通さ男と男が交わるなんてことはないじゃん? 普通ないわけ。ファンタジーなわけ。けどさなんかの間違いでさ、ああ、なんか、これ、なんだろう的なさー。いや別に間違いじゃなくて私の世界観では既定路線なわけなんだけど」
「あ、はい」
「なんつうのかな。なんかもう初っ端からできてる感が気に入らないっていうかさ。いやまあできてんだけどさ、できてないところ(友達のようなゾーン?)から楽しみたいっていうかさ。そっからキッカケを持って胸がざわついてくるってうか」
「あのもう帰っていいですか」
「そっから体が触れて確かめ合うみたいななんかもっとこう触りを丁寧いってほしいっていうかね? ああ私がイライラしてたのは単に受けと攻めが逆だったことになんすけどもね? あれ?」
俺は部屋に戻ってパーカーを下ろした。
ソファに腰を沈めてテレビをつけると、ちょうど先程のコンビニで事件があったらしく、二十代の女性の訃報が流れていた。
俺はコーヒーを一口飲んだ。
「冷めてるわこれ」




