扉 ー始まりー
私はその扉の前に立ち尽くしていた。何故此処に居るのか分からず、ただ呆然としていた。
この状況を把握する為、周りを見渡したが、この扉が見知らぬ深い森に在るという事以外は分からず終いであった。
困り果てていたその時、背にしていた扉が音を立てた。その音はまるで、小鳥の断末魔のようであった。途端に風が扉へと吸い込まれていくのを感じた。
その時私は言い難い恐怖を覚え、その場から逃げ出したくなり、遂には走り出した。だが、先には崖があり、此処からは出られないということを悟った。如何にも私には、あの扉でしか出られる所はないと言っているように思えた。
震える手を抑えながら元の位置へと戻り、扉の前へ立った。周辺からやって来た風が一点に吸い込まれている。その扉の先は何も見えず、暗黒の世界が広がって行くばかりである。
私は固唾を呑み、思考を巡らせた。
これは本当に現実なのであろうか。
これから私はどうなるのであろうか。
私の家族… 友は無事だろうか。
そこであることに気が付いた。私の家族、友、仕事、思い出、更には自分自身の事すらも一切思い出せないのだ。何かが有りそうな気がしたが、何故か空白だけが存在している。いや、元々は何かがあったはずだ。と、考えているうちに扉が音を立て始めた。
閉まってしまっては後がない。そう直感した私はすぐさま扉の中へ飛び込んだ。
それは一瞬だった。




