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陰と精と超と悪  作者: 南蛇井


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9/27

ああ。最下層さ

「関係なくない?精霊は精霊同士、悪魔は悪魔同士でなんかすればいいじゃん! 超能力者を巻き込まないでよ!」

俺が必死に声を荒げても、みんなは神妙な顔をして頷きあっていた。

「でもよく考えたら……精霊石は渡瀬君に反応してたのよね」

水無月さんが俺をじっと見つめる。

「……つまりやっぱり精霊王なんじゃ……?」

「いやいやいやいや!そんなわけないから!」

俺は即座に立ち上がって全力で否定した。

「俺に精霊感なんて欠片もないし!そんな認識もないし!っていうか、そもそも精霊ってなんなのかすらわからないんだよ!」

「精霊は概念よ。この世を形成する概念」

水無月さんはまるで授業でもしてるみたいにさらっと言う。

「……概念ってなんだよ」

「人だって概念よ。概念が崩れれば人は消える」

高峰さんまで腕を組んで真顔で言い放った。

「精霊はそれが、より“うつろ”な概念の存在だということですわ」

「……ちょっと意味がわからん」

俺は額を押さえた。頭が痛い。

「そもそもなんで、自分が精霊だってわかるんだよ……?」

一瞬の沈黙。

そして――

「それね。感じるのよ」

高峰さんは胸に手を当て、うっとりとした顔で言った。

「あっ……私、闇の精霊なんだって」

「……」

どう返せばいいのか、誰か教えてくれ。

「私は去年の秋ぐらいかな……」

「私は先月」

「俺は先週だ」

「全員最近じゃん!」

俺が思わずツッコミを入れると、三人は真顔で頷く。

「だからお前にも、急に“あ、俺精霊だ!”って瞬間が来るかもしれん」

「今のところないし、来る気配もゼロなんだけど」

「気づいてないだけだったりして?」

「そうですわね。渡瀬君、鈍そうですし」

「急にディスるな!」

三人がじっと俺を見つめてくる。……なんだよ、その“お前もこっち側だろ?”みたいな目は。

「ちょっとこう、力を使おうと意識してみたら?」

「そうそう。この世の物質と意識を共有する感じで」

「共有ってなんだよ!?Wi-Fiかよ!」

俺は渋々、目を閉じて深呼吸してみる。……何も起きない。風も揺れないし、机の上のプリント一枚すら動きやしない。

「……何も感じないんだが」

「ダメだな」

「ダメですわね」

一斉に切り捨てられた。胸に刺さる、容赦のないジャッジ。

「才能ないのかしら。まあ流石に渡瀬君が精霊王って可能性はないわね」

「じゃあなんでやらせたんだよ!」

「さあ?」

「ノリで」

「ノリで命の根源試させるな!!」

俺の叫びが、放課後の教室に虚しく響いた――。

「じゃあなんでやらせた?」

「さあ?」

「……いや“さあ?”じゃねえよ」

俺のツッコミを完全にスルーして、会議は急にシリアスモードへ切り替わった。

「そんなことより今後の方針よ。悪魔が絡んでくるとなると、単純に精霊王を探すだけじゃなくて――殺し合いが始まるかもしれない」

「でも今のところ狙われてるの、渡瀬だけっぽいしな。放っておいてもいいんじゃね?」

「それもアリかも」

「対精霊王の切り札としては、しばらく死なれても困りますわ」

「私は困らないわ。精霊王を殺そうなんて思ってないし」

「俺も」

「……おい待て。お前ら、俺が殺されるのは“別にいい”ってこと?」

「ひどくないか?」

「そうでもないわ」

「全然だ」

返答が秒で帰ってきた。速い。無慈悲すぎる。

「……もういい、もういい。これ以上聞いたら心が死ぬ」

机に突っ伏した俺を、精霊たちは特にフォローするでもなく眺めていた――。

「あっ、でも家に悪魔が来られると困るんだけど。この前みたいに巻き込まれるし……私だけが負担するのって不公平だと思うの」

「じゃあどうしろと?」

「みんな交代で渡瀬君を預かるってどうかな?」

「嫌ですわ。男の人を家にあげるだなんてあり得ません」

「俺も男とは住みたくない。家狭いし」

「えー……私も嫌なんだけど」

全員の拒否感すごいな。俺、たらい回し確定じゃん……。

「まあ、じゃあ仕方ないわね。しばらくは――うちの犬小屋で渡瀬君を預かるとして」

「犬小屋!? 人権は!?」

「そうね。じゃあ話を戻しましょう。なぜ渡瀬君が悪魔に狙われたのか。そして今後悪魔が来たとき、どう対処するか」

「とりあえずこいつ泳がせて、出てきた悪魔を捕まえて尋問しない?」

「えー、それだと学校以外で悪魔に遭遇したら、私だけが戦うことになるじゃない」

「確かにそうね。しかも二人だけじゃ捕獲も難しいわ」

「だったら……俺も水無月の家に泊まればいいんじゃないか?」

「それはいいわね。渡瀬君の部屋なら全然使ってくれていいわよ」

「よっし!」

「それと渡瀬君。基本ひとりでの行動は禁止。なにかあったらすぐ連絡すること」

「……はーい」

なんか釈然としないまま、俺は解散後、帰宅することになった。

「なあこれはなんだ……?」

「これか? これはな、犬っていうんだぞ」

「そんなことはわかってる!」

「じゃあ大丈夫だ」

今日もお犬様たちが元気に家の中を飛び回っていた。毛だらけの床、食べかけのドッグフード、そして意味不明なテンションで俺に飛びついてくる柴犬とゴールデン。

――ここ、俺の仮住まい。地獄の犬小屋だ。

「全然大丈夫じゃない! 水無月の家って聞いていたんだが……?」

「両親は水無月の家にいるぞ」

「おまえは?」

「犬小屋だ」

「……違う。想像してたのと違う」

「何を想像してたんだよ」

「あるだろ! ラブコメみたいな、高校生の男女が急に一緒に住むことになって、ドキドキして、ちょっとずつ距離が縮まっていく……ってそういうやつ!」

「わからんでもないが……現実は違うな」

「なんかすごく騒がしいし、お前よくこの状況で寝れるな」

「まあ慣れだよ、慣れ」

「だって犬臭いぞ、この家」

「犬小屋だから仕方がない。俺は犬より身分が低いんだ」

「おまえ……かわいそうだな」

そうだよ。俺もそう思う。

同情はもういいから――早く自分の家が欲しい。

「何にも起きないな」

そう、何も起きない。

犬は吠えるし、毛は抜けるし、エサやりも散歩も大変だけど――悪魔も精霊も現れない。ただただ平和な毎日だ。

「まあこれで俺が無関係なことが証明されたんじゃないか?」

「無関係かどうかなんかどうでもいい……女子と一緒に生活できない挙句に、なんで犬の世話までさせられるんだ?」

「お犬様だからだ。俺たちはあくまで“お犬様の家”に居候させてもらっている身なんだよ」

「お前の身分、低いな」

「ああ。最下層さ」

犬の下、雑魚キャラ以下の生活。

これが俺の青春って……どうしてこうなったんだろうな。

「まあ、渡瀬らしいっちゃらしいけどな」

「慰めになってない」

そんなくだらない相模原との会話をしながら、俺たちはいつもの生徒会室へ向かう。

――何事もなく、平和に。

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