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陰と精と超と悪  作者: 南蛇井


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あっ俺、精霊だ!”って瞬間がな

朝――。

通学は水無月さんと別々。


「変な誤解をされたくないので、別で!」

ときっぱり言われてしまったので、俺は一人で家を出ることになった。


(……いや、別にいいんだけど。なんか、地味に傷つくよな)


通学路を歩いていると、途中で相模原と合流した。


「眠い……」


「眠い……だと……?」

相模原が目を細めて俺をジロリと見る。

「渡瀬、貴様まさか昨晩……水無月と……」


「ないない!お前が考えてるような楽しいことは一切ない!」


「……本当か?本当か?本当だろうな?」


「本当だよ!むしろ殴られて痛めつけられただけだ」


「そういう趣味か……?」


「違うわ!」


……朝からひどく不毛な会話だった。


ふと、相模原が歩きながら真面目な顔になる。


「……精霊王が出てこない理由。悪魔が関係してるのかもしれんな」


「ありそう、なのかな……わからんけど」

俺は曖昧に返事をした。


さっきまで夢に囚われていた悪魔の姿が脳裏をよぎる。

ぞわりと背筋を冷たいものが走った。


(――もし、あれが序章だとしたら……?)


そして放課後――。

俺たちはいつもの部室に集まり、定例の“精霊会議”が始まった。


水無月さんが真剣な顔で手を叩く。

「さて、これまでに起きたことをまとめるわよ」


相模原がすかさず手を挙げる。

「簡単に言うと――渡瀬の家が燃えて、水無月と同棲することになった」


「おい待て!端折りすぎだし、誤解しか生まないまとめ方やめろ!」


「なにぃ……!渡瀬、やはりお前……!」

相模原が目をギラギラさせる。


「違うって言ってるだろ!第一、同棲なんてできてない!」


「ほう……否定の仕方が妙に具体的だな」


「おい疑うな!」


すると水無月さんがフンと鼻で笑った。

「当たり前じゃない。こんな野獣、家の敷居なんてまたがせられないわ」


「野獣言うな!」


「事実でしょ?」


「ぐぬぬ……」


部室の空気は、深刻さゼロ。

だが――このどうでもいいやり取りの裏で、精霊王が未だ姿を見せない現実がじわじわと重くのしかかっていた。




水無月さんが椅子に腰かけ、真剣な顔で切り出す。

「悪魔と精霊の関係についてよ」


俺は首をかしげる。

「いやそもそも精霊と悪魔って、何の関係もないんじゃないの?」


相模原が腕を組んでうなずく。

「確かに。精霊史の書物でも、悪魔とどうしたとかはあんまり聞いたことないぞ」


すると、唐突に委員長タイプの女子が挙手した。

「過去に、精霊と悪魔が駆け落ちした……っていう記録があったかと思いますけど」


「……は?」俺は思わず声を裏返す。


「あーあったあった!そんな話あったな!」

相模原が妙にノリノリだ。


「結局最後、別々の道を歩むところが感動だったんだよな」


「泣けたわよね、あれ」


「いや待て待て待て!なんだよ精霊と悪魔の駆け落ちって!?意味わからん!」

俺だけ完全に置いてけぼり。


「それって今回の件と何か関係あるの?」


「無いんじゃないかな?」


「私も無いと思いますわ」


即答すんなよ!


「関係のない話で俺を置いてくな!早く本題に入ろうって!」


水無月さんが軽く咳払いして仕切り直す。

「――じゃあ本題。悪魔が精霊王の命を狙っているのは、どうしてか?」


空気が少しだけ引き締まる。


俺は昨夜のことを思い出す。

「そうだよな……昨晩は俺も水無月さんも狙われた。あれって何が狙いだったんだ?」


部室の空気が、ほんの少しだけ重たくなった



「精霊じゃなくて、渡瀬君が狙われているって線はないのかしら?」

水無月さんが唐突に爆弾を投下した。


「はぁ!?なんで俺が狙われるんだよ!」


「……超能力者だから?」


「関係なくない!?精霊は精霊同士、悪魔は悪魔同士で勝手にやればいいだろ!なんで超能力者を巻き込むんだよ!」


俺の叫びを無視して、相模原が顎に手を当ててうんうん頷いている。

「でもよく考えたら、精霊石は渡瀬に反応してたんだよな……。つまりやっぱりお前が精霊王なんじゃ……」


「そんなわけあるかぁぁぁ!!!」

俺は机を叩いて全力で否定した。

「精霊感ゼロだし!そんな自覚も認識もないから!そもそも精霊って何なんだよ!」


水無月さんがすかさず解説を始める。

「精霊は概念よ。この世を形成する概念」


「……概念ってなんだよ」


「人だって概念よ。概念が崩れれば消えるの」


横で委員長まで真面目に補足する。

「精霊はそれがより“うつろ”な概念の存在だということですわ」


「ちょっと意味わからん!ていうかそもそも、なんで自分が精霊だってわかるんだよ!」


「それね――感じるのよ」

水無月さんが胸に手を当ててうっとりした表情をする。

「あっ、私……闇の精霊だって」


「……」


「わかるわー!急に来るのよね!」

別の女子が勢いよく頷く。

「あっ、私……水の精霊だって!水そのものなんだって!」


「なんだそれ!?いつそんなのおとぎ話みたいに感じるんだよ!?」


「私は去年の秋ぐらいかしら」


「私は先月」


「俺は先週だな」


「全員最近じゃん!!!」


「そうだ。だからお前にも、急に来るかもしれないぜ」

相模原がニヤリと笑い、俺の肩を叩いた。

「“あっ俺、精霊だ!”って瞬間がな」


「いや来ねぇよそんな瞬間!!!」


部室の空気が妙な期待感に包まれていく。

……やめろ、やめろよそんな目で俺を見るな!


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