表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰と精と超と悪  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/27

存在理由がなくなると、ただ消えるだけ

女性だ――。

身体のラインにぴったり沿ったワンピースを着こなし、すらりと伸びた肢体。

長い髪をかき分けながら、月明かりを背にゆっくりと歩いてくる。


「起きないでよぉ。せめて魂吸ってから起きてよぉ」


「魂吸われたら起きれないよ」


「そうなのぉ?」


「会話は無駄よ!!」


水無月さんが銃を構え、容赦なく引き金を引いた。

連射される水弾が夜気を切り裂く――


「身体を綺麗に洗ってくれているのかしらぁ?」


――無傷。

まるでシャワーを浴びているかのように、女は恍惚と微笑むだけだった。


「効いてない? ダメージ0?」


「じゃあお返しに――幸せをあげるわねぇ」


甘い声が耳をかすめた瞬間、意識がぐらりと揺れる。


「ぐっ……そんなもの……ZZZ」


「水無月さん寝た!? ずるくない!? 俺の幸せな夢は途中で終わったのに!!」


「さあ、もう1回……!」


「あらぁ、良い子ねぇ」


とろんとした視界に、朝の光景がよみがえる。

ついさっき見た“続き”が――。


あぁ……幸せすぎて……。




ズドンッ!!!


後頭部に鋭い衝撃が走る。

「いってぇぇ!!全然寝れない!!」


慌てて振り返ると、そこには銃口をまだ煙らせた水無月さんがいた。


「撃った?」


「撃ったわよ!」


「殺す気か!?」


「死なないわよ。出力を弱めて撃ったんだから。むしろ魂を取られるところを救ってあげたのよ。感謝して欲しいくらいだわ」


「なんでぇ? もう幸せな夢、見始めてたでしょぉ?」

悪魔の女が小首を傾げ、甘ったるい声で笑う。


「人間と一緒にしないで欲しいわ。私は精霊だから、あんな夢にかかっても多少は抵抗できるのよ」

水無月さんが冷たく言い放つ。


「幸せな夢……」

俺はつい呟いてしまう。


「まだ言ってるの!? 死にたくなかったらシャキッと起きて戦って!!」


「……はい」


「ひどいわねぇ。せっかく幸せ気分に浸ってたのに。起こしたら可哀想じゃない」

悪魔はうっとりと笑う。


「死ぬよりはマシよ」

水無月さんがピシャリと切り捨てた。


……いや、俺としては「死ぬ直前まで幸せ」っていうのもアリだったかもしれないんだけど。



「空気圧縮弾!!」

水無月さんの掌から放たれた圧縮された空気の塊が、弾丸みたいな音を立てて飛んだ。


ゴキャァァァッ!!!


「いっったぁぁぁああああ!!!」

俺の首が――直角に曲がった。え、待って、これ……完全に人体の限界突破してない!?


「なんてことするのよぉぉぉ!!!首が折れたじゃないぃぃぃ!!!」

思わず絶叫したけど、俺の声はちゃんと出ている。……首がぐにゃりと折れたままなのに。


ギシギシ……ギギィ……。


体はバランスを崩すどころか、むしろ普通に歩き出す。

いやいやいや!冷静に考えておかしいだろ!?


「完全にホラーね」

水無月さんは、銃を持ったまま眉をひそめた。


「怖すぎるんだけど……」

俺は涙目で言い返す。しかも――


(……あ、やば。今の衝撃でちょっと漏れた……)


戦場で失禁とか、どんなバッドイベントだよ!?

精神的ダメージが首の痛みより強いんですけど!?


「完全にホラーね」

水無月さんの冷静すぎるツッコミ。


「怖すぎるんだけど……」

俺も叫び返すけど、その声すら裏返って震えていた。

っていうか――(びっくりしすぎてちょっと漏れた……!誰にもバレてないよな!?)


水無月さんは銃を構え直し、眉をひそめる。

「効いてないのかな?全然元気そうだけど……」


「いや効いてるよ!? これ以上やったら死ぬよ!?」


「とりあえず攻撃しつづけるわよ」

宣告と同時に、空気が爆ぜた。


「空気圧縮弾!! 空気圧縮弾!! 空気圧縮弾!! 空気圧縮弾!! 空気圧縮弾!!」


ドカドカドカドカドカッッ!!


次々と襲いかかる衝撃波。俺の体は左右にねじれ、手はありえない方向に折れ、足はスクリューみたいに回転して固定され、首に至っては……すでに直角どころか三百六十度以上ひねられていた。


「な、なにしてくれてるのよぉぉぉ!!!!完全に形が変わったじゃないぃぃぃぃ!!!!」


鏡があったら直視できないレベル。いや、もうこれ人類の枠から脱落してる。

その場に立っていたのは、もはや“俺”と呼んでいいのかわからない。

手も、足も、首も――すべてひん曲がって、ぐちゃぐちゃにねじれた……“何か”。


「やば……原型とどめてない……」

水無月さんが一歩後ずさる。


「……あの、言っとくけど俺、まだ生きてるからな!!」

必死で叫んだ。けど、声だけは元気なせいで逆にホラー感が増していた。




「攻撃を続けるのよ!」

水無月さんの号令が飛ぶ。


「いや、ごめん……腰が抜けた」

俺はガクガク震えながら地面にへたり込んでいた。


「ビビらないでよ!!」


「ヒッヒェッ!!アァァァァア!!!朝!!朝!!朝はいやぁぁぁ!!!」

叫び声が裏返り、もはや悲鳴なのか歌なのか分からない。


「な、なんだ?」

水無月さんが眉をひそめる。


次の瞬間、世界がゆっくりと白み始めた。

闇を切り裂くように――朝日が差し込んできたのだ。


「朝日よ!朝になって日が出てきたわ!」


「朝が来たぁぁぁぁ!!!夢が覚めるぅぅぅぅ!!!!」

絶叫を残して、幸せの悪魔の姿は煙のように揺らぎ……そして霧散した。


……静寂。

残されたのは、俺と水無月さん、そして朝の光。


「……ああ、朝だもんね。夢は覚めるわね」

水無月さんが、なんでもないように言った。


「そんな理由……?」

俺は呆然と問い返す。


「そんなもんよ。悪魔も精霊も、存在はうつろ。存在理由がなくなると、ただ消えるだけ」

水無月さんは銃を下ろし、淡々と続けた。


「人間だって同じよ。居場所も理由も失ったら……簡単に消えるわ」


……その言葉がやけに胸に刺さって、俺は思わず黙り込んだ。


「ま、あなたは簡単に死にそうにないけどね」

さらりと笑う水無月さん。


「……フォローになってねぇよ」

俺は小声でぼやいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ