渡瀬君なら殺せるわ
「しょうがないわね。簡単に説明すると――」
高峰さんが胸を張り、授業の先生みたいに語り出す。
「一万年に一度、精霊が活性化する年があるの。そのとき必ず“精霊の王”が誕生し、精霊たちは王のもとに集う。そして王から命令が下され、それに基づいて精霊は行動するのよ」
「ふむふむ……って言っても、全然わからんけどな」
俺は頭を掻きながら返す。
「じゃあ一万年前はどんな指示が出てたんだ?」
「“地上を汚す生命を抹殺せよ!!”」
「…………え?」
「妖精たちは命令に従い、地上の生命体を片っ端から殺しまくったのよ」
「いやいやいや! 物騒すぎるだろそれ!! 絶滅戦争じゃねえか!」
「事実そうよ。そしてその暴虐を止めるために人間の英雄が立ち上がった。英雄は命を賭して精霊王を封印し――その封印が一万年ぶりに解けた。つまり、精霊の時代が再び来る……はずなんだけど」
高峰さんは顎に手を当て、首を傾げる。
「けど?」
「肝心の“王”が誰なのかはっきりしない。相模原君が暴走したのもイレギュラーすぎるわ」
「……いやいや、待って。そもそも俺のほうがよっぽどわからんからな!? 精霊だの王だの、一万年に一度の世界滅亡イベントとか勝手に始めないでくれよ!」
俺のツッコミは、暴風の中むなしくかき消されていった。
「でも精霊たちはもう目覚め始めている。だったら――王を探し出して合流すればいいだけの話よね」
高峰さんが当然のように宣言する。
「渡瀬徹! あなたも協力しなさい!」
「はぁ!? なんで俺が!? 精霊の王って人類の敵なんだろ?」
「まだ敵と決まったわけじゃないわ。王はまだ姿を見せていないし、命令も下していない。可能性はゼロじゃない」
「ゼロじゃないって……その“前科”が一万年前にあるんだけど!?」
「うるさいわね。とにかく人手は多いほうがいいの。――従いなさい」
「理不尽すぎるだろ!? ていうか俺、ただの一般人(超能力ランキング357位)なんだけど!」
「言い訳無用!」
「あーもういいから!」
水無月さんがバンと銃を構えた。
「ここにいる四人、みーんなまとめて王探しに協力するのよ!」
「なんで銃口向けられて強制参加なんだよぉぉ!?」
そして放課後――。
俺たち四人は、生徒会室に集まることになった。
……よりによって、生徒会室。
陰キャ界の最底辺を疾走している俺が、学校の上位グループに所属する人しか出入りしない聖域に足を踏み入れることになろうとは。
もうそれだけで胃がキリキリしてくる。
「――で、結局なにをするんだ?」
俺は恐る恐る口を開く。
「知らん」
「知らないわ」
「私が知るわけないでしょ」
三人が見事にハモった。
「……はい解散」
俺は即決で椅子から立ち上がろうとした。
「待て待て」
「そうよ、何にも解決してないじゃない」
「そもそも解決する気が見えないわ」
「いや解決もなにも、俺は精霊とか王とか何も知らんのだが。頼りにされても困る」
「頼りないわね」
「頼りにするな」
堂々と返してやったが、三人ともまるで聞く耳を持たない。
「しかし、このままでは何にもならない」
「でもやることは明確よ。とりあえず精霊王を探す。そしてどうするか、よ」
「今度こそ殺すわ。精霊に王などいらない」
高峰さんが当たり前のように物騒なことを言った。
「いや、危害を加えられないんじゃなかったっけ?」
「そのために渡瀬君がいるんですわ?」
高峰さんが当然のように俺を指さした。
「渡瀬君なら殺せるわ」
「はぁ!? 俺!? なんの恨みもない“王かもしれない人”を!? いやだよそんなの!」
「あなたがやらなくて誰がやるのよ?」
「そうか……だからか」
相模原(仮・王)がポツリと呟く。
「精霊でもないただの人間がここに混ざっているのは不自然だと思っていたが――つまり、お前はそのための存在なんだな」
「いやいやいやいや! 俺そんな役目を背負った覚えは一切ないんだが!?」
……やっぱりこのメンバー、無茶苦茶言いやがる。
 




