爆発して死んで頂戴!!
翌日、生徒会室。俺はおそるおそる切り出した。
「――あの、高峰さん。来週いっぱい、ちょっと“超能力協会”の関係でここに来れないんだけど」
「別に問題ありませんわ」
即答かよ!
もうちょっと驚くとか、せめて眉ひそめるとか、なんかあるだろ!?
「……もう少し困るふりぐらいはしてほしいんだけど」
「でも困りませんし」
完璧な論破。
こっちは心苦しくて説明してんのに、これっぽっちも揺るがないのかこの人。
「じゃあさ……喧嘩とかしない? 俺がいない間に」
「しませんわよ。もめる原因になっているあなたがいないのですから、喧嘩する理由がありませんわ」
「そう……俺がもめる原因……」
ズシンときた。胸に。
いやまあ、そうかもしれんけど!もうちょっとオブラートってやつがあるだろ!?
「……渡瀬君が、もめる原因」
横から香春が追い打ち。
ちょ、やめろ!ダメ押しやめろ!!
「香春さん……追い打ちいらない」
俺は机に突っ伏したくなる衝動を必死で抑えた。
――かくして俺は、“世界超能力協会・日本支部・虎の穴課”へと派遣されることになった。
……名前からしてもう嫌な予感しかしないんですけど!?
とある雑居ビルの一室。
「虎の穴課」とかいう名前からして怪しい部署は、案の定、照明がチカチカしてる不気味な部屋だった。
俺はその場で待たされること――一時間。
……いや、長い。
時間の流れが止まったのかと思うくらい長い。
もう時計の秒針の音が、俺を嘲笑ってるように聞こえるレベルだ。
ようやく扉が開いた。
「あーごめんごめん、待った?」
入ってきたのはスーツ姿の年上の女性。
普段接点ゼロの“社会人カテゴリー”という人種に、俺の緊張メーターは一気にレッドゾーンへ突入。
「ちょっと先に地下駐車場に行っててくれる?」
……は?
俺は思わず固まった。
いやいやいやいや。
だったら最初から駐車場に呼んでくれればよくない?
なんで俺は一時間もこのホラー映画の待機室に座らされてたわけ?
文句は山ほどある。
あるけど――初対面の年上スーツ女子に突っ込めるほど俺のコミュ力は高くない。
「……はい」
蚊の鳴くような声で返事をして、俺はおとなしく地下駐車場へ向かうことにした。
――俺の受難は、まだ始まったばかりだ。
地下駐車場――天井の低いコンクリートの空間に、俺の心臓の鼓動だけがやけに響く。
「渡瀬徹!! おまえを会長候補としては認めない!! ここで死んでもらう!!」
突然の怒声。見知らぬ男が両手を上げると、近くに止まっていた車がぶわっと宙に浮いた。
「誰? なに? 待て!! 俺も会長候補になりたくないんだってば!!」
必死に抗議するが、男の目は狂気に満ちている。浮いた車がゆっくりと俺の方へ迫ってくる。
「待て待て! そんなのぶつけたら死んでしまうぞ!!」
「殺すためにやってんだ!!」
……そりゃそうだろうけど、殺される側はたまったもんじゃない。
俺は必死にサイコハンドを伸ばす。空気を操り、車を止めるつもりだった。
だが重さが桁違いで、全然ビクともしない。逃げるにしても背後はコンクリートの壁。逃げ場がない。
そのとき――
「そこまでよ!」
ボンッ!!!
轟音とともに、宙に浮いた車が爆発した。火花と煙が薄暗い空間を包む。
煙の中から、さっき部屋に来たスーツ姿の女性が涼しい顔で現れる。
「ボマー掛川か!」
「爆発して死んで頂戴!!」
「させるかよ!!」
女性と男が向かい合うと、数台の車が宙を飛び交い、次々に爆発する。
轟音が駐車場内に鳴り響き、爆風が壁に反射して地響きのように伝わる。
そして――
男の姿は跡形もなく消え去った。
煙が晴れると、女性は火花の残る地下駐車場に一人立っていた。冷静そのものの表情で、俺の方を見下ろす。
「ふう……危なかったわね、渡瀬君」
俺は膝から崩れ落ち、胸を押さえながら震える声で呟く。
「……え、えっと、えっと……あ、ありがとう……」
今日、生き延びたのは――間違いなくあの女性のおかげだった。
そして俺の虎の穴課での修行は、こんな過激な形で始まることになるとは、この時の俺にはまだわかっていなかった。




