話が“俺=悪魔”前提で進んでるんだが?
だが、この“平和”が続くわけがない。
――3人に詰められて、俺は壁際ギリギリ。これ、もはや取り調べっていうか公開処刑に近いんじゃないか。
「なんで何にも起きないの?」
「俺に言われても……」
「ほら、なんか呼び寄せる儀式とかあるんじゃなくて?」
「知るわけないだろ!」
矢継ぎ早に飛んでくるツッコミと要求。俺の返事はどんどんしょぼくなる。
「がっかりだわ」
「残念な野郎だな」
――おい、俺そんなに期待外れなのか?
ただ呼ばれてここに座らされただけなんだけど。
「まあ出てこないものは仕方ありませんわね。気長に待つしかありませんわ」
「叩いたら出てきたりしないかしら?」
「やめろ! 出ない!」
このままだと、俺は物理的に叩かれる未来しか見えない。
そんな不毛な問答が続いていたそのとき。
――ガチャ。
生徒会室の扉が音を立てて開いた。
差し込んだ光に、目がくらむ。
そこに立っていたのは――
日焼けした健康的な肌。
風を切るように短く切りそろえられた髪。
明るさと活力をそのまま形にしたような、スポーツ少女だった。
「あ、ここにいたんだ。……生徒会室って、こんなに暑苦しい空気になるもんなの?」
……太陽の化身が来た。
この場の空気、一瞬でひっくり返りそうな予感しかしない。
――生徒会室に踏み込んできた少女は、涼しい顔で言った。
「失礼します」
その瞬間、室内の空気が一気にざわつく。
「誰?今大事なこと話してるんだけど」
「こっちも大事な話だよ」
――お前ら、即拒否から入るのやめろ。
「っていうか誰だよ?」
「……いた。ついに見つけた」
その目は、まっすぐ俺に突き刺さっていた。
「誰?知ってる?」
「……あれは亜里坂さんだ」
「なんで知ってる?」
「同じクラスだからな。知ってはいる。……向こうが俺を認識してるかどうかはわからんが」
――悲しい現実をさらっと言うな。俺も似たようなもんだわ。
そして次の一言が、地獄の幕開けだった。
「王よ、我が王よ。ついに悪魔の時代がやってきました」
「王? 渡瀬君やっぱり……」
「いやいや違う! 知らんし!」
「悪魔なら今すぐ俺が殺す」
「落ち着け! 落ち着け! 悪魔たちの罠かもしれないだろ!」
「その可能性はありますわね」
「ないんじゃない? 渡瀬君、悪魔っぽいし」
「何が!? 急に悪魔っぽいとか! 俺に悪魔要素ゼロだろ!」
「そう言われると……なんか悪魔な気がしてきたわ」
「よしっ! 殺るか?」
おい待て、ナチュラルに人間一人を処刑しようとすんな!!
そんな俺の焦りをよそに、亜里坂は一歩前へ出た。
その表情はやけに真剣で――
「精霊ども。我が王に対して無礼な! 王よ、後ろに控えてください。私がお守りします!」
……いやいやいや。
守るとか言い出したのはありがたいけど、そもそもお前のせいで混沌が加速してんだよ。
どうしてこうなった。
――その瞬間だった。
亜里坂さんの背中が、ぶわっと裂けるように膨らんだかと思うと、そこから巨大な翼が伸びていく。
黒い羽根が散り、影のように広がり――その姿は、まさしく「悪魔」だった。
「……っ!!」
俺が声をあげるより早く、彼女は右手を突き出す。
「【ダークボール】」
漆黒の球体がいくつも生まれ、弾丸のように俺たちへ襲い掛かってきた。
「無駄よ! 闇の精霊に悪魔の力は通用しないわよ!」
玲子が前に出て叫ぶと、黒い球はバチン、と音を立てて霧散した。
「な、なんだと!?」
驚愕の表情を浮かべる亜里坂。
けれど、すぐに冷静さを取り戻す。
「待ちなさい。私たちが争う必要はないわ。――私は渡瀬君を殺すつもりがないのだから」
「どういうことだ?」
「私は“精霊王”が不要なだけ。“悪魔王”には興味がない。渡瀬が悪魔王ならあえて殺す必要もないですわ」
「……そうなのか?」
「私は認めない!」水無月さんが食い気味に叫ぶ。
「精霊王の時代を作るのよ!」
「俺も悪魔なんて認めてない!」相模原も吠える。
――ちょ、ちょっと待て。
「おい……まずさ。話が“俺=悪魔”前提で進んでるんだが?」
「……」
「……」
全員の沈黙。
「いやいやいや! 俺、悪魔っぽい要素ひとっつもないからな!? なんか“俺悪魔だな……”みたいな自覚もゼロだから!?」
……なんでみんな目を逸らすんだよ。
ほんとにやめてくれ、この流れ。




