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恐怖の訪問



結局秋山さんに家付近までついてこられた為、スマホを確認する暇もなかった。

でも泣きじゃくったりはされなかったから良かった。


本当、なんなんだあの人、誰が本当の秋山さん?


荒れてた時代も根はあんな感じの面倒な対人関係だったのか?


ていうかそもそも付き合ってもないのになんでこんなに執着されてるの??僕そんなにいい男?そんな訳ない!!



だが自室に着いた今、ついに大道君とコンタクトが取れる。


早速LINEを開く。


緊張してきたな…。




大道:結論から言うと、秋山は不良だ。

目つけられてるなら気をつけた方がいい。




あれ?これだけ…?


拍子抜けした、全部自分が知ってる情報だった。


「うん、それは知ってる、昨日本人から聞いた、更生したいらしいけど…」


と、返信。



不良の面も見てるけど、正直僕に執着してる時の秋山さんの方が、怖い。


だけどーー


色々頭を巡る。


全ては僕を陥れる罠、とか?


いや、それはない、僕を陥れるメリットがないもん。


そうこうしている内に大道君からの返信が来た。



大道:そうだったのか!

中学の時の秋山は恋愛とかそういうの一切なしのドヤンキーだったから、鎌谷と付き合ってるって噂を聞いた時マジでビックリした、アイツが泣き縋るなんてあり得ないし笑

涙なんか見た事ねえ



…いや、大道君、付き合ってはないけど泣き縋って来たのは本当なんだよ…僕も信じれないけどさ。


ヤカラを蹴り倒し、僕の血に興奮し、小学生にガチギレしそうになり、そして僕に泣き縋る、変な人なんだよ…。


「ちなみに、秋山さんはどんなヤンキーだったの??」



大道:アイツは強かった、けど気に入らない奴は上級生でも教師でもすぐぶん殴るヤバい奴だった。


本当に怖かった、だから高校で再会した時最初誰か分かんなかったぞ、中学の時は髪が腰まである金髪だったし、もっと人を殺しそうな目してたもん。まあ、元々顔は良い方だったけど…。

更生したから中学の時の話は黙っててくれ、と言われた時は身の毛がよだったね!




怖っ…殴るのはダメだけど、更に先生ぶん殴るのはダメでしょ。


口止めされてるのに僕に伝えてくれるなんて、余程怖かったんだな…。




「秋山さんって当時誰かと付き合ったりとかしてた?なんか執着したりとか、血に興奮するとか、そんな話聞いた事ない?」


うーん、やっぱり中学の時からそういう節はあったのかな…?



大道:さっきも言ったけど、恋愛沙汰は一つもないと思うぞ、むしろ言い寄ってくるような奴から先にボコられてたから、男っ気は一切なし!


血は知らないけど執着はあったかな、なんか、負けた相手でも絶対リベンジしてボコボコにしてたっぽい、勝ちへの執着って言うのか?




……なんか思ってたのと違う、じゃあ執着されてるって僕の気のせいだったのかな?


いやいやいや。


「そうなんだ、ちなみに秋山さんが僕に泣きついてきたのは実話だよ、付き合ってないけどね、困っているんだ」




大道:ええ!!!??マジで!!?何で!?


いや、確かに今日はやけに鎌谷にベッタリだったし、変だなぁとは思ってたんだけど…目をつけられてはいるのは、恋愛の方だったか〜


まぁー更生したんなら良いんじゃね?可愛いし、付き合えば?





(なっ…!?大道君!?)


「つ、付き合えば?って、何を簡単に…!嫌だよ!!」


慌てて打ち返す。


大道:いやいや、俺からしたら秋山が人前で泣くってだけでも大事件だからさ。

それくらい鎌谷に入れ込んでるって事だろ?

お前も悪い奴じゃなさそうだし、良いじゃん?

ヤンキーの執着は怖えぞー笑


(いやいやいやいや……!)


全然良くないし!


僕がどれだけ昨日から振り回されてると思ってるんだ。


「泣き縋り」だの「手繋ぎ強制」だの、こっちは心身ともに限界なんだぞ!


「いや、僕は――」


と必死に打とうとしたその時、


別の通知。

画面に表示された名前に、背筋が凍りついた。


【麟】


……秋山さん。



麟:何してるの?



短い一文。

ただ、それだけなのに――

まるで監視されてるみたいで、心臓がギュッと縮む。


もー、今大事な連絡の最中だから邪魔しないでおくれよ…


だけど再び通知が。



麟:既読無視したね??


「あぁ!ヤダ!!この人!!!」


既読つけただけで、どうしてそんなに早く詰めてくるんだよ!?全然更生してないじゃんあの不良!!!!


やっぱり監視だよこれ、監視アプリでも仕込まれてんの!?


「既読つけただけで無視って言う!?数秒じゃん!」

思わず声に出してしまった。


慌てて指を滑らせる。

とりあえず当たり障りのない返事を……!


『宿題やってるよ』


よし、無難。これなら問題ないはず――


――ピコンッ。


麟:嘘。

麟:絶対スマホいじってたでしょ。



なにこの人!?

僕の部屋に隠しカメラでもあるんじゃないの!?


頭を抱えていると、また通知。


麟:ねぇ、誰とLINEしてるの?


(……バレた……ッ!?)


冷や汗が背中を伝う。

これは――返答を間違えたら終わるやつだ……!



「してない!!宿題の続きやるから、連絡して来ないで!!嫌い!!!!」


宿題もしてないけど。

これくらいキツい返信をしても泣き縋られる事はないだろう。



……



良かった、秋山さんからの追撃は来ない。




(ふぅ……やっと一人になれた……)

机に突っ伏し、さっきのLINEのやり取りを思い返していた時だった。


――コンコン。


(ん?)


「竜也!!アンタ何したの!?ちょっと降りてきなさい!!お友達が来てるから!!」


「え?」


(……お友達??)


嫌な予感と共に首をかしげつつ階段を降りる。

リビングの戸を開けた瞬間――


「うえぇ!?」



「………」


そこに座っていたのは、鼻を啜り、目を潤ませた秋山さんだった。


(!?!?!?)


母は眉間に皺を寄せて僕を見る。


「喧嘩したんだって?竜也、アンタただでさえ友達いないくせに、こんな可愛い女の子を泣かして、バカじゃない!?」


なんで怒ってんのお母さん…!


「ち、ちがっ……」


(喧嘩も何もしてない!!!)


秋山さんは小さくうつむき、か細い声で言った。


「……私が悪いんです、ごめんなさい……」


意味がわからない、なんで喧嘩したことになってるの??


わからないけど秋山さんが悪いよ!


母は完全に「仲直りさせなきゃ」モード。


「…どっちの言い分もあると思うから、二人でちゃんと話してらっしゃい、竜也の部屋でいいでしょ?」


(ちょっ…母さん!!!僕の最後の聖域がぁぁぁ!!!)


秋山さんはすっと立ち上がり、


「お邪魔します……」と僕の方を見て微笑んだ。


僕の部屋に侵入が、確定した。






「………」



「………」



「……えっ?なんで僕の家にいるの??」


「玄関ノックしたらお母さんが上げてくれたよ…?」


「そうじゃなくて…!なんで来たの!?自分の家帰りなさいよ!」


「…だってぇ…鎌谷君が冷たいLINE送ってくるからぁ…き、嫌いってぇ…うええ〜……」


「……」



情けない、非常に情けない。



大道君が見たと言うドヤンキー時代の秋山さんと今僕の目の前で正座しながら涙と鼻水を垂れ流し啜り泣く情けない女子は別人なのでは?



「……」


大道君に報告しよう。



「大道君、今、秋山さんが僕の部屋の中で、泣いている」


大道:おい!やめろよそういうセンシティブなの!!反応に困るんだよ!!付き合ってないけど突き合ってるってか!?このスケベ!



「………」


ダメだこりゃ、なんかすごい誤解をされている。




秋山さんが僕の足に縋り付く。

なんで家でもこんな事されるんだ…。



「…ねえ、鎌谷君…本当に…本当に私の事、嫌い………!?」



「……………」



「なんで黙るのぉ…!!」



「…僕は、秋山さんと…付き合ってるわけじゃない、友達ではあるみたいだけど、誤解は放っとけないから…昨日からのやり取りは友達の域を越えてると思う…LINEを強制したり、家に来たり…怖いよ…」


その言葉で彼女の肩が小さく震え、再び嗚咽が漏れる。胸が締め付けられたが、僕は引き下がらなかった。


「…なんで僕にそんなに執着してるの…?」


鼻を啜り、数秒の後、秋山さんはゆっくりと口を開いた。


「鎌谷君は……私を助けに来てくれたし……叱ってくれたし……」


????


最初に助けられたのはこっちなんだけど…。



「元々、良いなって思ってたし……」



うわぁ…趣味悪…。



「…だとしても、だとしてもだよ?強引過ぎない??相手が嫌がってるじゃん…」



「だってぇ…鎌谷君もそんなに嫌がんないじゃん…」


「意思表示はしてるけど!?嫌がっても泣くか圧力かけてくる相手にどうしろと!?」



秋山さんは僕の足にしがみついたまま、涙でくしゃくしゃの顔を上げる。


「…鎌谷君のこと、考えると……苦しいの……」


「…………」


「嫌われたくないって思うと…怖くて…だから……!」


声が詰まり、再び泣き声に戻る。


(普通に答えになってないし、こっちは怖がらされてんだけど…)


僕は深くため息をつき、足を振り払うでもなく、その場で固まった。


「……秋山さんさ、僕の事を少しでも思ってるとしたら、少しは僕の気持ちも考えてよ」


秋山さんは目を丸くして、ぽろぽろ涙を零しながら黙り込む。


「泣かれるのもしんどいし、強制されるのも嫌だし…そういうの、違くない?僕には秋山さんに助けられた恩もあるし、中学時代の秋山さんをもっと知りたいって思ってる、だから…」


「…それ、今の私には興味ないって事だよね…嫌いって事だよね…なんで…?なんでそんなに聞こうとするの…?私にとっては消したい過去なのに……昨日あれだけ言ったのに…言うのが嫌だって、わかんないの…?鎌谷君が好きなヤンキー漫画とかそういうのとは違うんだから…」



多弁になった。


そう、僕は好奇心だけで何度も秋山さんに過去の話を聞いた、そして今日も大道君から情報を仕入れた。迂闊だった、身勝手だった。


確かに、本人にとっては黒歴史なんて蒸し返して欲しくないモノだ、だけど確実に存在する被害者も同じ事を思っているわけで、加害者側が蒸し返して欲しくない、と言うのは些か虫の良い話ではないのか?


(ん?コレ、僕はどう答えれば良いんだ?)


反論すれば僕の身勝手さは更に加速する、謝罪すれば丸め込まれそう、じゃあどっちも言う?


ダメだ、自分の思考がまとまらない…。



「…嫌われたくないから昔の話、しないのに…知られたくないのに……」


いや、秋山さん、大道君から大体聞いたから、知ってるんだ、僕は。


僕は軽く咳払いをした、そして


「秋山さん、まず、嫌な事を僕の好奇心を満たす為だけにしつこく聞いて、ごめん…でも…」


「……でも??」


「蒸し返されたくないのは分かる、黒歴史なんて、誰だって触られたくない、でもさ、過去には相手もいたでしょ、被害を受けた人も、きっと忘れたいって思ってる、恨んでるかもしれない、加害した側だけがなかったことにって言うの、僕は違うと思うよ…」


秋山さんの肩がびくっと震えて、また涙がぽろぽろ落ちる。


「…あと圧力をかけるのは良くないよ、僕に対しての行動は紛れもない圧力だよ」


「…でも…でも…!!」


「でももしかしもない…!僕は過去の秋山さんも今の秋山さんも含めて、知りたいと思っているよ…

僕だって、責めたいから言ってるんじゃない…ただ、僕が何も知らないままそばにいる方が、きっと不自然になると思ったから」


秋山さんは涙を拭わないまま、じっと僕を見ている。子供みたいな目で。


「…だから、もう急かさない、話すタイミングは、秋山さんが決めて、僕は待つ、だけど――圧力とか、そういうやり方はもうやめてほしい、それだけは約束して」


「…………」


「…僕からの提示は以上だよ…嫌なら僕には関わらないで…簡単な事でしょ…?」


自分が思っているほどに吐き捨てた言葉は低く、響いた。


「…やだっ…!嫌だっ……!!!!」


秋山さんの悲痛な声に胸がチクっとする。


僕はこの女子をどう扱えば良いのか、本当に分からない。


彼女になされるがままになれば僕の尊厳は無くなる、かと言って少しでも避けようとすると、このザマだ、手の施しようがないのだろうか。



奇策、荒療治を思いついた、こうなれば、もう、仕方ない、

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