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何もかも全部僕からアクションを起こしたわけじゃないのに、なんて不条理なんだろう。


きっと滝川さんもすぐに秋山さんのように僕の事を無かったことにするに違いない。


滝川さんは別れ際


「それでは鎌谷さん、また明日です〜」


なんて言っていたけどそれも社交辞令なのだろう。


言葉はそんなに無責任なものばかりで良いのだろうか、一喜一憂する人だっているのに。


「ふうぅ…」


短く、そして重く息を吐く。



そしていつものように電車に乗り込む。



憂鬱だ、満員な訳でもないけど座れるほど空いてないこの車内、ところどころに学生がいて、目線に困る。


ぼっちを殺す為の空間、と言っても差し支えない。




揺れる車内でよろけないように必死で耐える、これだけで鍛えた事にならないだろうか、そんな事を思っていた矢先、気配みたいなものを感じてふと顔を上げると


「鎌谷さ〜ん、おはようございま〜す」


超絶ニコニコ顔の滝川さんが僕の目の前にいた。


「滝川さん…?…おはよう…」


「車内から鎌谷さんが駅ホームにいるのが見えたので追いかけちゃいました〜」



うわあ、「また明日」が達成された…普通のことなんだろうけどなんか、じーんと来るものがある…。


「滝川、いつも1人なので、鎌谷さんがいてくれると心強いです〜」


「それは僕も同じだよ〜…」


少しの感動でかなり猫撫で声気味になってしまった、ヤバい、気持ち悪いかも。


「…じゃあ両想いって事ですね〜」


そう言って滝川さんは肩を寄せてきた。


ふぁさりと滝川さんの長い髪が僕の肩にかかる。


髪なのか、滝川さんの香りなのか分からないけど、特有の良い匂いが充満して酷い罪悪感を覚えた。


「ひぃっ、そ、そういう意味ではなくて…」


「いひっ鎌谷さんは面白い方ですね〜滝川、面白い人好きです〜」


社交辞令、か。


僕は乾いた笑いを返すしか出来なかった。







教室に入った途端珍しい人から声をかけられた。


「鎌谷、滝川さんと一緒だったな」


大道君。


チャラい、それしか言葉が見当たらないクラスメイト。


「あー…うん、そうだね」


話した事なんかあっただろうか、そんなレベル。


「…付き合ってんの?」


すぐそういう事言う…。

僕だって望んでそうなった訳じゃないのに、発展する可能性なんて皆無だよ、秋山さんと同じように気まぐれに付き合わされてるだけだと思う。


「………」


「あ、いや、野暮な事聞くつもりじゃなくてさ…俺は滝川さんの事はもう諦めてんだよ、だから別に二人の関係にどーのこーの言うつもりは数ミリもなくて…」


なーにをこの人はごちゃごちゃと能書きを垂れているのだろうか。


「俺が聞きたいのはさ…滝川さんにどうやって近づいたの…?キッカケは…?」


「えっ、近づいてないよ…滝川さんが定期券落としたから僕がそれを拾って…それから…」


「そんなの俺だってあるぞ、この前滝川さんが廊下でノートとか教科書とか落としたから俺も拾い集めたぞ?そしたら会釈だけされてそれで終わりだぞ??」


もしかして滝川さんって結構物落とす人なんだろうか。


「つい最近も話しかけたら

うるせーです

って言われて終わったぞ!?」


君が「そういう人」だからじゃないのかな…?下心見え見えの悪印象なんじゃないの?

…というか滝川さんもうるせーとか言うんだ、その事に驚きだ。


「よく分からないけど…滝川さんの気まぐれじゃないかな、別に良い関係とかじゃないと思うよ…」


「良い関係だろ!俺滝川さんが男と歩いてんの初めて見たぞ??あんだけのハイスペなのに浮いた話もないし、もう女好きなのかと…」


(浮いた話がない…?本当かな?)






と、再び下校が一緒になったから流れで今日大道君に言われた事を滝川さんにぶつけてみた。


「ふぅん、あの人ですか〜…しつこくて、や〜な人だと記憶していました」


やっぱり大道君は悪い印象しか与えてないじゃん。


「浮いた話がないのは本当なの?」


「はい、滝川ガードクソ固いので!」


ガード固い人が僕みたいな得体の知れないのと一緒に下校しちゃダメでしょ。


「鎌谷さんには浮いた話、ありますよね〜」


「え、僕?」


心当たりがなさ過ぎる、ある意味浮いてはいるんだけど、話題には絶対ならない。


滝川さんはゆっくりと自分を指差して、ニヤリと口角を上げた。


「鎌谷さん×滝川の浮いた話です〜!!!!このままだと噂で持ちきりですよ〜!!!!」


だとしたらキャッキャしているどころではなく、滝川さんはその噂を止めるべきでしょ、何一つ得がないじゃないか。


僕が単純なだけなのか分からないけど、こういうやり取りで秋山さんからのダメージを忘れるほどに心は軽くなっていた。






そこから数日、1週間と滝川さんとの登下校が続いた。


もはやそれが当たり前となっていた。



「鎌谷さんは、好きな人とかいるんですか〜?」


こんな質問を投げかけられた。


「そ、そんなの…いないよ…」


「ふぅん…まぁ、いたらおかしいですよね〜」


「おかしい…?」


「だって鎌谷さん、滝川とずっと一緒にいますよね?もし好きな人がいたらそれどころじゃないですよ〜」


「………」


何日も滝川さんと一緒に登下校を繰り返していたから、滝川さんが前に言っていたように、噂がとてつもないくらい立っていた。


滝川さん本人に届いているかは分からないけど、もはや「公式カップル」と化している。


それがとても申し訳ない。



「あれ〜?その沈黙はまさか〜?」


悪戯っぽく顔を近づけてきたが勿論その顔を凝視する事は出来ない。


「……」


滝川さんは僕に顔を近づけたまましばらく動かなかった。


「…滝川は、そうなっても良いですけどね…」


ポツリと呟いた滝川さんは笑っているけど、その表情に何か違和感を覚えた。


何か、無理しているのだろうか。


(なら僕の方から、言わなくちゃ)


「滝川さん、僕と登下校するのが嫌だったらすぐにやめてほしい…迷惑かかるから…」


「えっ、」


「無理してない?惰性みたいに、後に引けなかったのかな?」


噂にしても相手が僕なんだから、滝川さんにかかる迷惑は計り知れない。


「…なんで…」


滝川さんは体と声を震わせていた。


いつもニコニコしているのに、こんな滝川さんは初めて見た。


「鎌谷さんの大馬鹿野郎〜!!!!」


「うっ!!?」


聞いたことのない暴言と共にガッと足を踏まれた、いや、蹴飛ばされたような感覚に近かった。


そして


滝川さんは勢いよく走って行ってしまった。


違う、絶対違う…なんか、僕が思っていた反応と、違い過ぎている。


引き止めるのも絶対違うと思った僕は足の痛みに顔をしかめてその場に立ち尽くすしかなかった。



(物凄い余計な事を言ってしまったんだ、僕は…本当、どうしようもないな…)


拒否しているわけでもないのに、人間関係を壊してしまったんだ、いや、色々言い訳なんてしてもそれは完全なる拒否じゃないか。



こんなロクでもない思考でこんな事しか出来ないなら僕なんて死んだ方がマシなんじゃないか?


卑屈にも程があるのではないか?


この卑屈さに勝手に気持ちよくなっているだけじゃないか?




謝った方がいいのはわかりきっている、でも僕にはそれすらする勇気もない。

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