ベルダたちの試着会
6月7日。ベルダたちは地元の小学校の体育館にいた。そこでは地元の読者たちによる試作品の試着会が催された。参加者は10歳児から40代の女性までと幅広い。もちろん庶民がメインだが、知り合いの姿もチラホラ見える。このイベントは雑誌社ではなくアヤセ公国主催。魔王さまは終始上機嫌だが、庶民の子たちにも何がしかの舞台や役割を与えようと目を細めた。参戦資格は王族限定だが、庶民の子たちの士気は高い。王族はベルダたちを含め8人。庶民は32人。まずは4人ずつのグループに分け、ステージで晴れ姿を披露してもらう。10グループのうちベルダ組はラスト。他の王族組は5番目。先陣を切るのは10歳児の4人組。試作品は4色のチア。赤とパープルとブルーと白。その子たちは全員白を基調にしたチアに身を包んではにかみながらも誇らしげに頬を紅潮させた。ステージの照明は増設された。色とりどりに照らされた華やかやスポットライト。BGMにはまるで凌辱系アダルトゲームの主題歌みたいにノリのいいメロディーライン。その子たちの左胸には[まい][かな][ゆりな][りえ]と可愛らしく自分の名前が刺しゅうしてある。試作品は正規のコスチュームと比べても遜色なく、チープな素材が彼女たちの魅力を存分に引き出していた。かと言ってあざといほどミニスカートの丈を短くされはしなかった。ローアングルからビデオカメラを回されもしなかった。このあたりのさじ加減は絶妙で、幼い子ほど甘やかされた。だが徐々に年齢が上がるにつれ、様相が変化した。12歳児にもなれば歌詞を渡され、マイクを持ち主題歌を歌わされたりした。どうやら外国語のようだが、何となく卑猥な響き。だがもちろん幼い子たちは気づかない。14歳になると丈をより短めにされた。このあたりが一番短め。だがソレ以上になると控えめになり、私たちは安堵した。最年少のミレーヌが一番短めだが、他の3人はそこまで短めにされはしなかった。5番目。私たちの知り合いがステージに上がった。左から順に36歳のスージー。14歳のルーラ。16歳のサラ。18歳のドロシー。ふだんおとなしい一家だが、ステージに立てば変わる。スージーは赤。ルーラは白。サラはパープル。ドロシーはブルー。ミニスカートがユラユラ揺れるのは空調の関係だろうか?確かに会場は熱気に包まれていた。司会を務める魔王さまはそつがなく進行がスムーズ。彼らは終始上機嫌で親しみやすい印象を受けた。最後にベルダたちがステージに立った。左から順にベルダ、ミレーヌ、カレン、イルマ。ベルダは赤。ミレーヌは白。カレンはパープル。イルマはブルー。4人は華やかな舞台に立ち、恥じらいながらも誇らしげ。ミニスカートがユラユラ揺れるが、かと言ってめくれ上がりはしない。試作品のお披露目が終わると今度は懇親会。私たちはお菓子やジュースをつまみながら読者同士の交流を始めた。王族も庶民もなく、みんなでコスプレ会の雰囲気を満喫した。そこで提案されたのが聖天使隊の創設。4人1組で地域の治安を守る。いわば自警団のようなもの。ただし10歳児や12歳児のグループには必ず父兄が数人同伴することが盛り込まれた。新選組のようなアウトロー集団ではなく、むしろ幕府見廻組に近い。兼ねてから変質者の跋扈に脅かされていたからこの聖天使隊創設は渡りに船。原則として変質者とはやり合わず、まず地元の交番に助けを求める。カレンとミレーヌは大喜び。毎年のように文化祭の5月開催を求めてもなかなか実現しない。チアガールだから被害率が高いわけでもないが、やはり可愛い子は狙われやすい。40人が常時稼働するわけではないが、やはり自警団の創設はありがたい。テレビ局は来ず、新聞記者が数人来ただけの小さなイベント。だがベルダたちからすれば大きな一歩。魔王さまはカタコトのノッコミ語で訴えた。「君たちは現代のファッションリーダーである」歓声が上がった。「コレからは君たちが時代をリードしていくんだ」彼らは決してノッコミ語がうまくないが、それでもなお如実に説得力を感じた。初めての試着会は大盛況に終わり、女王たちは大満足。なにしろ毎週自分たちをモデルにした小説や新たなるマリー像を提示した小説を読めるのだ。しかも可愛らしい挿し絵付き。更にはコスプレ会まで開かれた。娯楽に飢えたお姫たちは大喜び。世界線を超えた国の主催なのに彼らは何も求めなかった。「ふつうは何かしら求めてくるよね」「でも彼らは何も求めなかったわ」4人はなおも興奮が冷めやらず、しばらくそのままで過ごしたほどだ。近年は地域社会の繋がりが希薄になり核家族化が進んだ。性被害の増加は地域社会の疲弊でもあるが、ようやく光が見えた。学校側だって対策は講じている。だが電話ボックスは毎年増設されたが、防犯カメラやブザーはない。警察は巡回を強化するが、事件や事故が起きれば手薄にもなる。