ベルダとカレンの虜囚生活2
8月18日。9時。私たちは目覚めた。2週間目。すっかり飼いならされた私たちだが、先生方との再戦への期待と不安で心が揺れる。エナオたちとはまだ力の差があるし、これ以上離されるわけにはいかない。ただメルティーキッスの集まりが悪く、合同訓練は厳しそう。私たちはナルシス対策を話し合ったが、なかなか打開策が見つからない。対戦場所にもよるし、コスチュームすら未定。だが秋服に変わる方がやりやすい。11月末まで固定された方がいい。だが露出度が低めだと先生方の受けが悪く、私たちも盛り上がらない。ナターシャが遊びに来たので秋服について尋ねた。すると2つの試作品を仮採用し、とりあえず秋服でいく。黒のタートルネックセーターに茶と深緑のチェックのミニスカート。厚手の白の長袖のカッターシャツに紺のブルマー。ブルマーは生地を若干厚めにし通気性を確保した。私たちは後者を訓練。前者を対戦に採用。ブルマーはリアルほどの生地の厚みがないので先生方のすまた責めにどれほど耐えられるのかが未知数。ミニスカートの丈は夏服よりも5センチ長めにしてもらえた。コレは秋を想定したもので、晩秋の夕暮れにはからっ風が吹く。だから少し長めがベスト。長すぎれば私たちは動きにくいし盛り上がりに欠ける。「やっぱりナルシスにはミニスカートだよね」「そうね。私たちだって彼らに褒めてもらいたいわ」あとはいかに早く実戦のカンを取り戻せるか。「復帰戦は前回みたいになる気がするの」「でもエナオたちのモチベーションがまるで違うわ」あの日はナルシスからすれば消化試合であり、私たちは花を持たせてもらえたのだ。「引き分けでも充分でしょ」「ソレじゃあ足元をすくわれちゃうわ」ハナから引き分け狙いの私たちに怖さはなく、下手をすれば前半で食われちゃう。負けるにても彼らに食いつき、ナルシスを脅かさないとダメ。「将棋で言えば形づくり?」「違うわよ。アレはね、負けを確信した棋士が[コレだけ僕は粘りました]というつめ跡を作らせてもらうだけよ」「そうなんだ」ナターシャは受け身ではダメだと説いた。「肉弾戦でもコチラから責めれば活路が拓けるはずよ」「そうね」エナオたちだって紅顔の美少年に過ぎないのだから。私たちは所長に意見を求めたが、冬の選手権で活躍した佐賀東を例に挙げた。「彼らに突出した選手はいなかったし、たいがい相手に押しまくられたわ」「何で勝てたの?」「攻める側にスキや油断が生まれるの」「ソコを突くのね?」「弱者には戦略が不可欠よ」ただいきなり下半身から責めるのは下の下だという。「上半身から責めるのは[と金]みたいなものね」と金は遅く見えて意外と早い。下半身を後回しにすれば先生方からも警戒されにくい。「でも毎回だとバレちゃうわ」「そこは臨機応変にやるしかないわ」時には下半身から責めてナルシスの反応をうかがうのもアリ。「エナオたちは何かしら変えてくるかしら?」「ベルダたちが成長すればソレに合わせて変えてくるわね」9月以降は虫が徐々に少なくなるのがありがたいが、晩秋にはからっ風が吹く。「先生方との力の差を埋めながらいかに腐らず粘り強く戦えるかね」魔王さまは[腐らないのも非凡な才能]だとみなす。「日本が腐れ落ちたのは器量も信用も知性も魅力もなく真面目な庶民を腐らせるしか能がないカン違い野郎しかいないからだ」と言い切る。「秋は追い風よ」ナターシャは続けた。「12月まで衣替えがないし秋服に慣れれば戦い方次第でエナオたちとの力の差を埋められるわ」「可愛い後輩たちも10月にはデビューするしね」9月になれば先生方は間違いなく攻勢に出てくるに違いない。「ベルダたちは佐賀東みたいに粘り強くカウンターを狙うしかないわ」「そうね」12月から2月は屋内戦がメインになる見込み。「年内に間に合いそう?」「たぶんね」廃スーパーや廃体育館を活用するが、廃スーパーには仮設ステージを設置する。「でもスーパーじゃあ天井が低すぎない?」「だから4階以上の廃スーパーを吹き抜けにするの」「なるほどね」角度がなければマジカルキックや回転キックが生きてこない。地上戦はステージ又は仮設ステージで戦う見込み。「でもマジカルキックや回転キックがステージの下にぶつかる可能性があるわ」「ステージの下には衝撃を和らげるクッションを接地するわ」ステージの奥の壁にスクリーンを設置する。「あなたたちの上からのキックのフォームをチェックできるわ」「ありがたいわね」空中戦でのキックのフォームをその都度チェックできれば訓練や対戦中での軌道修正が可能になる。ナターシャが帰ると私たちはエナオたちからの手紙を読んだ。彼らは山を探検した。ソコには廃屋や墓地やアダルト雑誌。そしてバカでかい蜂の巣を見つけた。木の枝でつつくとハチが2匹凄まじい勢いで飛び出してきて危うく眉間を刺されそうになり、彼らは肝を冷やした。