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イルマとミレーヌの虜囚生活

8月12日。8時。私たちは目覚めた。1週間目。単調だが充実した日々。ナターシャが遊びに来て私たちは雑談に花を咲かせた。所長は[8月お休み制度]は日本の惰弱な小説から生まれたと教えてくれた。「どんな小説?」「つまらん理由で6月に学校辞めたビッチのお話」「タイトルは?」「真夏のエルニーニョ」「じゃあそのビッチは熱中症で辞めたのね?」「違うわね」「エルニーニョは?」「さあ。いつ絡むのかしら?」異世界の90パーセントは日本の惰弱な文化を反面教師にして生まれた。だからこそ繁栄したのだ。日本に学ぶべきは失敗のみであり成功を真似れば必ず亡ぶ。「6月から始めるあたりに地雷しか感じないわ」「しかもコレからどんどん汗臭くなるわね」「誰がこんなビッチと物語を紡ぐのかしら?」「そもそもビッチに魅力も信用も感じないわ」「現代ドラマというジャンルもよくわからないわ」「作者は自分で付けたタイトルに陶酔してるわね」「だから熱がこもらないのよ」ナターシャは庶民だが日本の惰弱な文化には否定的。「太宰に憧れてる時点でオワコン」「志が低いし甘えが強すぎるわ」異世界では玉川上水で心中した秘書よりも田邊あつみの評価が高い。「あつみは宮澤トシ子よりも上だと思うわ」「日本では忘れ去られてるけどね」あつみは上京して間もなく内縁の夫に去られた。彼はあつみを残して郷里の広島へ帰ってしまった。「もし彼女が書けばきっと名作ができたはずよ」「同じカフェーの女給さんでも林芙美子とは全然違うもんね」森鴎外に振られたエリスと比べても何ら遜色ないはず。樋口一葉は夏目漱石の兄と結ばれる可能性があった。たまたま父親が大蔵省で同じ職場。もともと樋口家は山梨だから一葉は漱石と違い生粋の江戸っ子ではない。「彼らが身内になったらどうなったのかな?」「華麗なる一族になったか?逆に共倒れしちゃったか?ね」荷風は親の遺産を独り占めしたから異世界では低評価。新聞小説で晩年の横光利一に勝ったが、当時横光が取材で行ったパリは戦時中。活気などなくナチス侵攻前のフランスは迷走していた。中には「ソ連を叩くべし」などと叫ぶ国会議員がいたという。そんな体たらくだから[旅愁]が振るわないのもムリはない。荷風はプロの女性としか遊ばなかったし、彼女たちとの実体験をイキイキ描けるのは当然。しかも荷風は鴎外の娘の茉莉にリスペクトされていた。「そこまでの魅力が荷風にあったのかしら?」「なぜか鴎外の娘たちには好かれるのよね」宮澤賢治の[永訣の朝]はトシが亡くなった日に書かれたが[あめゆじゆとてちてけんじや]と4回繰り返されるフレーズの解釈が日本では分かれている。コレは戦後に出たある詩人が賢治の大ファンで[けんじや]を[賢治や]と訳したせいだ。すると[雨雪取ってきて賢治]となり何ら不自然ではないが、賢治はわざわざ注釈に[けじや]は岩手の方言で[〜してください]だと明記している。しかも[けじや]は気持ちがこもれば[けんじや]と聞こえることがある。なので[雨雪取ってきて賢治]は誤訳。「でも誤訳の方がロマンチックじゃない?」「4回のリフレインはトシの死と掛けてるわね」「中には2つの意味を掛けているという解釈もあるそうよ」「さすがにソレは読み過ぎな気がするわ」生前トシは兄のことを賢治ではなく[ケンちゃん]と呼んでいた。彼はその後樺太まで足を伸ばしたがトシの魂には会えず。賢治は帰路に就く岩手軽便鉄道の車内で[銀河鉄道の夜]を構想する。「私は[チュウリップの幻術]が好き」「私は[セロ弾きのゴーシュ]かな」中原中也は親友の長谷川泰子を親友の小林秀雄に寝取られて精神を病んでいく。だが[春と修羅]を読んだ中也は賢治の才能を認めていた。「出会うべきは小林秀雄なんかじゃなかったよね」「訪問魔の中也はなぜ賢治を訪ねなかったのかしら?」「もし訪ねたらゴッホとゴーギャンみたいになったかも」「鋭敏な中也はソレを懸念したのかもね」私たちはディエゴたちからの手紙を読んだ。彼らは地元のゴルフ場の近くの川でカラーボールに惹かれた。色とりどりのゴルフボールをしこたま拾い集めたが、ヘタを打ち担任の先生に大目玉を食らった。私たちは腹を抱えて笑い転げた。彼らの日常はファンタジー。またある時は帰りの電車で酒臭い輩が乗ってきた。その駅はJR埴生駅みたいに近くにオートレース場がある。負けたヤツラがワンカップ小結とチクワを両手に赤ら顔。ワンカップ小結はワンカップ王関のパクリであり、その光景はJR埴生駅のホームと変わらない。幸いにも絡まれはしなかったが、電車の揺れと同時に彼らは次々に倒れた。その光景はまさに世紀末。先生方は青くなった。見知らぬ駄菓子屋に立ち寄れば身持ちの悪そうなおばさんに絡まれた。[活路]とかいうナゾの本を売りつけられたり「私のボディーは・・・」とナゾの言葉を投げかけられたりした。

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