表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/50

ベルダとカレンの虜囚生活

8月11日。魔王さまがある声明を発表した。それは[メルティーキッス]。私たちの後継者を育成していく。4組8人を目安に9月からエージェント活動に従事し10月に参戦予定。対象者はリアルの女の子だが名古屋は厳しい。異世界の事務所は三重や徳島や新潟にもあるが、知名度が極めて低い。名古屋を含めても支店はわずか4県にとどまり、定員が埋まるかどうかさえ未知数。ナターシャが来訪し、私たちは自慢師ゲームを始めた。まず所長が広島に行き、友だちと一緒に弁当を買って食べた。するとあるモノが目に留まった。友だちに言われるままにお茶に入れたが結構いける。「ソレはなあに?」「なめ茸よ」こ、この女。なかなかやるわね。次にカレンが友だちとゴルフコースを回った話を始めた。この日は接戦で迎えた14番ホール。私はティーショットから豪快な一打を放ったが、どこを見渡してもボールが見当たらない。すわホールインワン!?かと思いきや隣のコースに打ち込んでいた。「カレンはプロゴルファー猿でも目指してるの?」「私あの主題歌が大好きなの」いや主題歌かい。最後に私が高等部に入学し、帰りに電車を乗り間違えた話をした。あの当時は高等部のみ校舎が離れていた。私は居眠りをし、気がつけば海底トンネルを抜け隣の県まで来ていてあ然とした。「入学して1週間目?」「2ヶ月よ」「乗り換えが関西みたいに複雑なのね」「単線だから上りと下りしかないわ」自慢師ゲームは私が優勝し、景品に香水を頂いた。微量ながら最先端。自慢師ゲームはいかにしょぼい自分を偉く見せるか。わかりやすく言えば[課長バカ一代]みたいな世界観であり、勝つか負けるかのギリギリのクロスゲーム。ナルシスはあの漫画に出てくる面々に限りなく近い。イケメンでもジャニーズでもホストでも細マッチョでもない。野暮ったくて都会に出ても洗練されないタイプ。私はナターシャに相談した。「夫は寛容な人だけど。別れてエナオと一緒になるべきかしら?」「[ゆるやかな重婚]を魔王さまは検討中よ」異世界で重婚はダメだが、魔法戦士のみ例外的にゆるやかな重婚を認める。「週に3日はエナオ。4日は夫と過ごすの」「ソレならいいわ」ナルシスやマリアは夫以上の時間を過ごせない。原則として私たちは通い婚になる見込み。唯一の懸念はブランクだが、私たちメルティーナイツとメルティーキッスの合同訓練をやろうという企画が出た。合同訓練は通常訓練ではないから[同じ回数訓練してから戦う]という異世界の対戦ルールに抵触しない。兼ねてから魔法戦士のブランク問題は国会で審議されてきた。[空中戦の方が地上戦よりブランクが空くと不利]という論調は異世界で急速に浸透してきた。合同訓練を1回でもやれば少しはカンを取り戻せるはず。ただ公正を期すため先生方にも何かしらプラスアルファーがいる。そこでナルシスにメルティーキッスを訓練してもらう。そうなれば私たちに貸し借りはなく、先生方に心置きなくぶつかれる。こうした合同訓練は私たちのマナー向上に寄与する。男子ゴルフの凋落はマナーの悪さに起因した。青木功やジャンボ尾崎はもちろん最近のゴルフコンペでも「タバコ吸っていいですか?」という男子プロの問い合わせが相次いだ。不倫花盛りな女子は論外だがマナー問題は意外と根深い。訓練や対戦場所の整備や見直しも国会で審議された。10月から3月は日照時間が短くなり屋外戦が難しくなる。アヤセ公国は廃体育館を活用して屋内戦のインフラ整備を進めた。リアルは日本限定をやめ、北欧や東欧からも魔法戦士を募集する。北欧や東欧は近年問い合わせが急増し、素質のある子が多い。名古屋限定から王族。そして北欧や東欧。名古屋の凋落は必然的に対象エリアの拡大に繋がった。新市長への期待度はなく名古屋はますます衰退すると異世界は結論づけた。名古屋に常駐した男性エージェントの実に90パーセントがカン違い女の被害を受けている。そのため彼らは屋外で自由に端末を持ち歩けずデジタル社会への順応を阻害された。三重や徳島や新潟に事務所を移転した彼らは呪詛を込めて名古屋を[ガッデムシティー]と名付けた。佳代と美月が手厚く保護されるのは確保すべき人材が圧倒的に足りないからであり、事務所の予算が潤沢なわけではない。事務員の給与は低く、イベントの日限定でひつまぶしにありつけるという歪さが名古屋の悲惨な現状を如実に表していた。新市長の器量不足。夏と冬しかない歪な天気。相次ぐ事務所の閉鎖。そして何よりカン違い女の跳梁跋扈がトドメとなり、20年にわたる名古屋の時代は終焉した。魔王さまでさえ次はどこから魔法戦士が参戦するのか予測不能。私たちはエナオたちからの手紙を読んだが、うめくような哀愁に満ちていた。果てしなきいらん雑務と汚臭に満ちた便所掃除。もちろん報酬はなく、ナルシスは行きつけの喫茶店にすら通えない有り様。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ