スージーとサラの虜囚生活
8月9日。7時。私は目覚めたがサラはまだ夢の中。起床時間は8時だが、ユミカたちはヨシワラ女学院高等部2年でクラスメイト。しかもチアサークル所属だから秋の県大会に向けて練習しておかねばならない。この女子校はバスケがとにかく強かった。その理由は定かでないが[ろーきゅーぶ]とかいうアニメにハマった女性教師が何を思ったのかサークルを立ち上げたのだ。「決勝まで勝ち上がれば6試合もやるんです」「それはダルいわね」他はたいがい初戦敗退なのに。しかもこの女性顧問は[DEAR BOYS]も好きらしい。今年優勝すれば秋は10連覇。春も今年で10連覇した。まだ全国大会がないだけマシね。なので見習い看守は毎日シャワーの時間しか来なかった。すでに先生方からの返信が届いたが、ラミアによれば校内の雑務と便所掃除で彼らは疲弊の様子。だが9月から私たちとの再戦があるし、10月にはコスチュームの衣替えがある。だが冬服は露出度が下がるため、私たちメルティーナイツは10月でも引き続き夏服でやれるよう懇願した。コレを受けた魔王さまは秋服と春服の試作品を作るよう命じた。実現すれば9月から11月が秋服。12月から2月が冬服。3月から5月が春服。6月から8月が夏服。となれば私たちは秋服からの再戦の可能性がある。聖天使のコスチュームは試作品と正規を問わず若い女性デザイナーの登竜門。バリエーションが増えたことで彼女たちが一躍有名になるチャンスが広がるのだ。魔法戦士の文化は異世界ではマイナーだが、ポテンシャルが高い。[アイドルを作らずキモオタを繁殖させない]のが異世界のスタンダード。嫁不足の解消に寄与するし、誰も陰で泣かない。ラミアは臨時スタッフとして採用された。ごみの回収や部屋の清掃。ナルシスへの手紙代行及び先生方からの手紙の翻訳。シャワールームの清掃やシャンプーなどの補充などに従事した。ようやくサラが起きた頃には9時を回っていた。すでに1週間目。私たちはすっかり虜囚生活に馴らされたが、思ったより快適。娘と野菜ジュースを飲んだが、本国と微妙に違う。「野ブドウかしら?」「私はスモモ」どうやらアヤセ公国では果物ジュースも野菜ジュースに含まれるようだ。もともと野菜ジュースのみの支給が果物ジュースを含むように時代が変化したのだろう。私たちは母娘でおまるに跨り小用を済ませたが、コレだけは慣れないわね。他の国の独房では男性用の水洗トイレを2基設置した事例があるが、受けはよくない。男性用トイレは立ち小便を強いるからだ。ソレは私たちが女性でいられなくされる。アヤセ公国はコレに反対し、あくまでも従来のおまる2基で押し通した。私たちは先生方に手紙を書いた。他にすることがない。後でラミアに翻訳してもらい、彼らに届けてもらう。私は未亡人だからアルと一緒になれるがベルダはいったいどうするのか?参戦は2年が目安だが、もちろん延長もできる。サラは5通出したが私はコレで7通目。「お母さま出し過ぎよ」「だって好きなんだもの」私たちは毎日来訪してくれるナターシャに甘えまくった。20歳の所長は面倒見がよくフットワークが軽い。彼女は私たちに同情的だし待遇改善にも意欲的。独房には8人しかいないから目配りが届きやすい。私たちは魔王さまに秋服のアイデアを求められた。「黒のタートルネックセーターのみなんてどうかしら?」「お母さま、それじゃあ私たち開始2分と持たないわ」「じゃあグレーのミニスカートも付けるわ」「悪くないわね。でも私、実はグレーのオーバーニーソックスでジノを悩殺したいの」「ミニと被るとダメ?」「深緑なんてどうかな」「秋なんだから茶系統も欲しいわね」「じゃあ茶系統と深緑のチェックのミニ」私たちは秋服のアイデアを魔王さまに提供した。彼らは私たちが虜囚の身に堕ちても以前と変わらず接してくれた。どころか春服のアイデアとかいろいろ求めてくるので嬉しい。[魔法戦士はファッションリーダー]だからだ。微量ながら最先端の香水を頂くこともある。虜囚服をデザインしたのは有名なデザイナーだが、当時は無名で貧しかった。庶民にどんどんチャンスを与えるのが異世界だが、ソレは法華の外道を反面教師にしたから。日本および法華会は真面目な庶民を食い物にしてブタの如くブクブク肥え太った。そんな外道どもを目の当たりにした異世界側は今もなお法華会の知られざる悪行について徹底調査を進めている。[日本と法華会が亡びるのは時間の問題]だと異世界側は結論づけた。現場を鼻で笑い[人を育てられる人材]を粗末にしてきた日本と法華会に未来なんてあるわけない。私たちはアヤセ公国での夏休みを満喫した。古いエアコンが壊れないのは屋外のダクトを風雪から完全にガードしているからだ。コレすらマトモにできていない名古屋の団塊のバカ大家夫婦がいると異世界で紹介され、善良な庶民に嘲笑された。