あさぎの戦い
7月5日。スージーとサラはアヤセ公国でアルたちと対戦した。私と娘はラミアの事務所の更衣室で白のセーラーとミニスカートに身を包んだ。通訳は定番のテニスウェア。「どう?スージー。やれそう?」「そうね。ちょっぴり不安だけどね」「サラは?」「まだあの先生方とやるだなんて。いまいち実感が湧かないわ」私たちは毎日ヨガのエクササイズに励み、体幹を鍛えてきた。だからきっと何とかなるわ。私たちはラミアと一緒にアヤセ公国に着いた。対戦場所は廃牧場。「また逢えて嬉しいよスージー」「待たせたわねアル」「サラにまた逢えて嬉しいよ」「お待たせジノ」私たちはしばらく雑談に花を咲かせた。ナルシスからはほのかにいい香りがした。彼らは白のセーラーに白のズボン。そして白のスニーカー。いわゆる水兵さんスタイル。アームカバーはお揃いの白。たぶん同じメーカー。アルは私。ジノは娘と組んで柔軟体操を始めたが、世界線が違うせいか息が合わない。だが先生方は私たちに呼吸を合わせてくれた。優しいなあ。雑談タイムでは固さが感じられ、私たちは安堵した。「先生方も緊張してるわ」「何とかなりそうね」ナルシスも私たちと同じくマリアと1回訓練しただけ。私たちは彼らと距離を取り、アームカバーを装着した。アルたちの準備が整い、ラミアが合図を送った。対戦は私たち魔法戦士の上からのキックで始まる。私たちはからだをかがめてジャンプし、マジカルキックを繰り出した。私はアルをかすめたが、サラはジノにかわされて転がされた。2秒で起き上がったのは虫が湧くから。地上戦では私がミドルキックとローキック。娘はハイキックとローキックのコンビネーションで攻めた。私はハイキック。サラはミドルキックをアクセントに使いたいが、もとよりそんな余裕はない。だが早くも先生方に押し込まれ、序盤から厳しい流れ。何とか押し返し、私たちはハーフキックに逃げた。ハーフキックは近い距離から仕掛ける上からのキックをさす。「回転キック試そうか?」「ソレもありね」私たちはひねりを加え、回転キックを繰り出した。するといい感じ。アルたちにかわされたが彼らを脅かした。でも基本はやっぱりマジカルキック。初めは恥ずかしかったが徐々に慣れた。というか馴らされちゃった。「いいよスージー。惜しかったね」「いいよサラ。キレがあるね」ハーフタイム。私たちはラミアをまじえて話し合いを重ねたが、もちろん策なんてない。後半は私たちのマジカルキックから始めた。回転キックも捨てがたいが、まずマジカルキックを育てたいわね。すると先生方がまさかのスワッピング。い、いきなり!?私はジノ。娘はアルとやることになり緊張。だがコレはコレで楽しい。いつしか私たちはフローラルやバイシクルのことさえ忘れて別のパートナーにのめり込んだが、どうやらコレは彼らの作戦みたい。まずサラがフローラルを繰り出した。綺麗に放物線を描き、アルの懐に飛び込んだが、彼の方が早かった。だが娘は頭を撫で撫でされただけ。あ、危なかったあ。私は負けじとバイシクルを繰り出したが、ジノにかすり放物線がズレた。フワリと着地したつもりが失敗。だが彼は詰めてこず、私はホッとした。今度はサラが右腕のラリアートを繰り出したが、左のアッパーを受けられた。私はフローラルを繰り出したが、右のアッパーが虚しく空を切った。ココで先生方のスワッピングが解消され、私たちは安堵した。ナルシスに押し込まれるシーンが増えたが、ソコまでムリ攻めしない。私がハイキック。娘がミドルキックを繰り出せば彼らは急におとなしくなった。でもヒットしてないし。「先生方の狙いがいまいちわからないわ」「いいように遊ばれてるみたい」だが私たちにも可愛い生徒としての意地があるわ。私たちは引き出しを使い果たし、後半は精彩を欠いた。だがアルたちもまだ様子見みたいね。ラミアがいるせいか、いまいちおとなしいわ。私たちは初戦を引き分けで終わり、先生方と仲よくハイタッチを交わした。「やるじゃないかスージー」「ま、まあねアル」「サラは強いね」「ま、まだまだよジノ」帰宅した私たちは熱いシャワーを浴びた。対戦ノートをつけながらドロシーとルーラに質問責めに遭った。「先生方はどお?」「彼らはまだ様子見」「でも押し込まれたでしょ?」「まあね」私たちは最新号を読んだが、ヒルダたちは幼くされていない。ただ初めは緊張の連続。王族が庶民の手で管理される機会はなかなかない。だが徐々に緊張が解け、女王と第一王女は和やかな表情を浮かべた。まだ虜囚の初期のせいかヒルダたちに幼さは感じられないが、さっそく地元の幼稚園での交流が催された。黄色い帽子と園児服に身を包んだ女王たちはいかにも不釣り合い。だがヒルダたちは園児たちと遊びながら幼児化への第一歩を踏み出した。女王たちは園児たちと遊んだり雑魚寝したりして自らの幼児化を満喫した。