ドロシーとルーラの訓練
6月29日。ドロシーとルーラはアヤセ公国でヘルガたちと訓練を行った。私と妹はラミアの事務所の更衣室で嬉々として紺のスク水に着替えた。通訳は白のテニスウェア。私たちは[時の間]でひざまづき呪文を唱えた。すると目の前のゲートが開き、3人はアヤセ公国にいた。訓練場所は廃公園。私たちはマリアに温かく迎えられた。「初めましてドロシー。私はヘルガ。よろしくね」「よろしくヘルガ」「初めましてルーラ。私はリミア。よろしくね」「よろしくねリミア」まずはジャンプの練習。私たちは30メートルを目指したが、とてもムリ。でも10メートルじゃダメと言われた。「もっと高く飛ばないと角度がつかないわよ」高度が低いほど角度がつかないから先生方も怖くない。だが30メートルまでいくと逆に感覚がマヒしてくる。次々に上からのキックだが、ナルシスを模した人型のサンドバッグを2体使って行われた。初めはなかなか当たらなかったが、徐々に当たり始めた。マジカルキックのコツは17を描くイメージで股をグッと開くこと。理想はやじろべえになりきることだが、果たしてコレが先生方の前で恥じらいなく披露できるかな?次は守備。私たちは地上戦を想定し、マリアのキックを受けた。ヘルガたちは5分の力から徐々にギアを上げていく。私たちはマリアのスピードとパワーに圧倒されながらも何とか対応。休憩に入るとホッとした。「あとは攻めと基本線を磨くだけね」「ソコまでいける?」「あなたたち次第ね」後半は私がミドルキックとローキック。ルーラはハイキックとローキックのコンビネーションを磨いた。左右両方バランスよく繰り出さないといけないが、どうしたって攻めは右に偏る。だがヘルガたちはあえて左を磨くよう諭した。「キックもパンチも左を磨いてバランスを取るのよ」するとラリアートを左右どちらからでも繰り出せるが、まだ充分ではない。次の技までいかないと見せ技が生きないのだ。私はハイキックを序盤から使いたいが、後半バテてしまう。だが妹はミドルキックをアクセントに使ってる。私もハイキックをアクセントに使ったが、ソレだと他のキックとのバランスが難しい。フローラルは華やかな技だが、ルーラ向き。小柄で俊敏でないと次のアッパーまでいかせてもらえないわ。バイシクルは私やお母さま向け。大柄だし足が長いし、フローラルほどのスピード感を求められない。前者はスピード。後者はパワーというかフィジカルが求められた。ある程度のサイズ感がないと先生方を圧倒できないし、くるりと後ろに1回転してからが怖い。見た目は気持ちよく飛んでるようにしか映らないが、キックした直後をナルシスに狙われそうで怖いの。だがコスチュームは動きやすいし、女の子同士はやりやすい。地味にラミアのテニスウェアもセクシーだしマリアのチア姿も眩しく映る。慣れてくるとついついチラ見えする下着姿を追う自分たちがいて恥ずかしい。残念ながら基本線を固める前に訓練は終わったが、初めての訓練は刺激に満ち溢れていて充実したわ。私たちはようやく小説のヒロインの追体験ができるんだ。ありがたいのは私たちの近未来が詳細に画かれてること。だからこそいざ現実に直面しても違和感がない。小説ではヒルダたちが教護院に収容されたが、すでに私たちは特集号でその先を知らされている。女王たちは所長や看守に貶められたり辱められたりしない。どころか彼女たちはヒルダたちに献身的。「コレからが楽しみね」「そうね。私はミランダに注目してるわ」ヒロインはみんな私たちと同い年だから感情移入しやすいし、私はインゲに惹かれた。異世界では仮投降は恥ではなくむしろ潔くて清らかな姿だとみなされた。女王と第一王女は娘や妹を守る立場だから初めは緊張の連続。だが教護院が最適な休息の場だと知り、ヒルダたちは安堵した。女王たちは改心し、完全なる虜囚になるべく奮闘。4人は男性用トイレとおまるを選べたが、あえて後者を選択した。理由は単純。女性でいられなくされてしまうからだ。おまるは幼児用だが女性用には変わりない。もちろん屈辱には違いないが、ヒルダたちは9月にエイジたちとの再戦を控えていた。釈放式は魔力封印の儀式を受けた場所で行う。ソコでしか封印された魔力は開放されないからだ。ソコはナルシスに武装解除された場所。女王たちの再生はココでしかあり得ない。ヒルダたちは夏の日差しを背に受け、まるで女神のような復活を夢見ていた。1度は彼らに屈したが今度は私たちが見下ろす番だわ。だが密やかな決意とは裏腹にヒルダたちは教護院で甘やかされ、より幼くされていった。参戦は三十路やナマイキな女性をより幼くすることに重きが置かれた。訓練や対戦に疲れ果てた頃に収容された教護院はまさに絶好の場所。ソコには女王も王女もない。ヒルダたちはすっかり虜囚服に馴らされ、姿見に映し出された自身を見てうっとりした。