付与されたミッション
6月25日。17時。ベルダたち8人にミッションが与えられた。7月27日までに参戦しておいでという異例の申し出。しかも8月は丸1ヶ月休ませてあげるという寛大な措置。対戦相手は先生方だから見知らぬ殿方じゃない。翌日に説明会があるので私たちは急きょ集まって協議したが、もちろん家族会議。私はまず娘たちの意見を聞いた。カレンとミレーヌは乗り気だが、イルマは不安げ。「お母さまは?」「もとより私はみんなと運命をともにするわ」ホントはしばらく留守にして政務を代行してもらいたい。「イルマは?」「まだ不安です」「イルマ、事前不安の9割は実現しないわ」「そ、そうかしら」「魔王さまが私たちを不幸にするはずないわ」確かにそうかも。「サキが取材したのはアヤセ公国の独房よ」「でもお母さま、教護院は?」「教護院は私たち王族専用の独房よ」魔王さまは便宜上、リアルの女の子を収容する独房を更生院。私たち王族の女の子を収容する独房を教護院としたが、待遇はあまり変わらない。ただし独房への耐性は私たちの方が弱いとされる。だが特集号を見る限り、アヤセ公国は私たちへの待遇改善に意欲的。「問題はその後よ」「9月からの再戦ね」「お母さまは?9月からの再戦をどう見る?」「お休みに入るまでのプロセスにもよるわ」「たとえ先生方と互角にやりあえたとしてもブランクがあると厳しくなるわ」「でも9月さえ乗り切れば何とかなるわ」10月に衣替えがあり、私たちはコスチュームが夏服から冬服に変わる。しかも異世界はリアルほど自然破壊がないから天気が安定してる。「冬服になれば露出度が下がるからね。私たちは思い切りよくやれるはずよ」「でもお母さま、初戦から躓いたら?」「だとしても最悪3連敗で済むわ」だがたぶん3戦もやらないだろう。「確かに立ち上がりは不安よ。でもソレはナルシスだって同じはずだわ」エナオたちは一介の庶民だし魔王さまのお膝元でエリート教育を受けていない。格闘経験も皆無。「先生方は職業軍人じゃないし戦闘のプロでもないわ」「でもミヤン学園って赤い波が押し寄せてきそうだわ」「あなたは冬の選手権を見過ぎたのよ」「だってお母さま、鹿児島実業は強いわ」「ソレは20年も前の話でしょ?」「この前だって10連覇したじゃない」「ソレはサッカーの話。私たちはサッカーをやるわけじゃないわ」なんでこうもウチの娘はサッカーにこだわるんだろう。だがカレンとミレーヌはコレを聖戦とみなした。「私たちが立ち上がるなら今しかないわ」「なんで?」「だってお姉ちゃんもう日本文化イヤでしょ?」「生まれる前から大っきらいよ」「その怒りを参戦にぶつけるのよ」「ミレーヌ、たまにはいいこと言うわね」「お母さまだってもう日本文化イヤでしょ?」「当たり前じゃない」「惰弱な日本文化への怒りを参戦にぶつけるのよ」「確かにそれは悪くないわね」王族がアンチ日本なのは政務の99パーセントが日本文化絡みだからだ。お姫さまたちの99パーセントが田舎リアンである以上、娯楽が乏しく、あたかも私たちのせいにされがち。「私たちが悪いんじゃないわ」私は続けた。「あの包茎国歌日本が全てにおいて悪いのよ」「お、お母さま、ほ、封建国歌の間違いでは?」「間違いじゃないわ」私は続けた。「日本なんざ包茎国歌で充分だわ」「確かにね」娘たちはうなづいた。日本は3000年かけて[サッカーボーイズ]と対抗戦と冬の選手権と魔法戦士しかマトモなモノを生み出しはしなかった。まあおおむね事実だから仕方がない。政務は激務ではないが、全く責任のないことを責められたらたまらない。議論は白熱したが、参戦したい理由はさまざま。魔王さまへの絶対的な信頼。先生方やラミアへの想い。[牝牛たちの嘆き]への同化。政務からの逃避。魔法戦士への憧れ。教護院への憧れ。特に最後がトドメとなり、私たちは参戦を決意した。同じ頃。スージーたちも参戦を決意し、いち早くラミアに報告済み。そのためスージーとサラには[あさぎ]。ドロシーとルーラには[もえぎ]というコンビ名が付与された。平仮名のコンビ名には魔王さまの期待が込められていた。スージーたちは悦びに打ち震えた。先陣を任された悦びが凄いが、アヤセ公国ではスージーたちへの庶民の支持が急速に広がりつつあった。決断の早さが評価され、彼女たちには褒美が与えられた。それは特製コスチューム。スージーたちは紺のスク水に白のミニスカートを巻いた夏服を与えられた。正規のコスチュームである白のセーラーに紺のミニスカートも与えられた。訓練や対戦が終わればそのまま泳ぐこともできる。つまりデートにマリアやナルシスを誘いやすくしてもらえた。私たちにはオプションとして白の半袖の体操服に紺のブルマーが与えられた。リアルよりも生地が薄くて通気性がいい。でも彼らにすまたで責められたら?私たち果たしてどれだけ持つのかしら?