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スージーとサラのレッスン

6月21日。16時30分。スージーとサラはアルたちにレッスンを受けた。私たちはベルダの家系ほど由緒正しいわけでもなく、かと言って彼女たちほどの輝きはない。だがアヤセ公国は私たちをベルダたちと同列に扱った。1週間遅れだが、私たちは彼女たちと同格なのだ。参戦すれば王族の家柄なんぞ交戦国からすれば二の次であり、いわばドラフトにおけるハズレ1位みたいな子たちが主役を食うのはよくある話。もちろんカバンには特集号を忍ばせているが、コレは後回し。ピンクのレオタードに身を包んだ私たちは黒のレオタード姿のナルシスとの雑談に花を咲かせた。彼らの男子校生活に私たちは興味しんしん。「ねえアル、最近何か楽しいことあった?」「やっと応援団から開放されました」彼らは運悪く応援団をやらされたが、とにかく全てがイヤだった。いったい何が悲しくて僕たちは男子校の応援なんかしなくちゃならないんだ。中には家出したまま帰らない子まで出た。しかも春のミヤン学園は今年で10連覇。「決勝まで勝ち進めば全部で6試合やるんです」「ソレはダルいわね」ただし内定が取れた順に彼らは辞めていくから秋はほぼ初戦敗退。「サラは?小説を書いてるそうだが」「まずまずね」まだジノに見せられるレベルではないが、内容は[牝牛たちの嘆き]と変わらない。アルは私。ジノは娘と組んで柔軟体操を始めた。世界線が違うせいか勝手が違う。だが先生方は私たちに呼吸を合わせてくれた。ラミアが実にいい仕事してくれてるわね。会話が途切れないようにうまくサポートしてくれてる。雑談タイムでも私たちは冗舌。レッスンはゆるくてホッとした。ナルシスはレッスンプロでないと正直に明かしたが、私たちにはソレで充分。ヨガの大会を目指していないし、私たちは体幹を鍛え所作が美しければソレでいいのだ。もちろんこの後のドライブデートも織り込み済み。彼らは香水のセンスがあるし飽きさせない。アルたちは素人であるがゆえに気さくで親しみやすいわ。ドライブデートでは私がアルの左後ろ。サラがジノの左隣に座った。通訳の運転は慎重だし、あおり運転もない。ごく稀にひねくれた老害がしてくるが、今日はない。喫茶店[カササギ]はヨーグルトとたまごサンドがうまい。女給さんのコスチュームは水着エプロン。6月から8月まで限定だがエプロンの後ろはたいがいビキニ。エプロンは日本の銘仙をモチーフにした斬新なデザイン。「銘仙?」「流行ったのは大正とか昭和初期ね」「じゃあ100年くらい前?」「そうなるわね」ナルシスはたまごサンドに舌鼓を打ち、私たちはヨーグルトに舌鼓を打った。「スージーはいいお店知ってますね」「実は利用するの今日が初めてよ」女給さんのエプロンはみんなデザインが違うが、中には白のビキニを身にまとう子が少なくない。しかも年齢層は10代後半から20代前半。異世界は喫茶店文化が爛熟し、独自の進化を遂げた。私たちはおもむろに特集号をカバンから出し、一気に盛り上がった。ソコに描かれているのは私たちではないが、私たちの近未来の姿でもあった。いわば自分たちのセミヌード写真集に近いが、自分じゃないからこそこうして見せられるのだ。[牝牛たちの嘆き]は特集号が出るほどの人気を得た。特集号は不定期だが、たまに出るのが嬉しい。割引券はないが500ワイオンと安いし内容が濃密。挿し絵が豊富で踏み込んだ描写が目立つ。いわば凌辱系アダルトゲームの設定資料集に近い。キリコは勉強家で初期のアダルトゲームをたくさんプレイするなど意欲作。彼女は名古屋の事務所に知り合いが勤めていて時おり事務所を訪ねては泊まり込む。ソコでしかゲームをプレイできないからだ。キリコは昭和末期のアダルトコミックや少女漫画を見て画力を磨いた。時にはアダルトゲームの原画集を見て画力を磨いた。あまりにも前衛的な画風は世間の支持を得られなかった。だがようやく時代が彼女に追いつきつつあった。アルたちはコレまでこんな画風を見たことがなかった。昭和初期はまさに挿し絵作家が爛熟した時代。新聞小説で川端康成の師匠横光利一の[旅愁]が新進作家の永井荷風に敗れたのは横光がフランスに行っても何にも感じられなかったからであり、不運としか言いようがない。だが荷風はプロの女性とのつかの間の恋を鮮やかに描き出した。おそらくは実体験だろう。私たちはナルシスとの初めてのデートでかなり踏み込んだ。彼らを他の女に取られたくない。私たちにだって意地がある。帰宅してもなお私たちは興奮がおさまらなかった。まるで自身の恥部をさらけ出されたかのような不思議な気分。もしかしたらコレが対戦に近い感覚なのかも。私たちはプロの女性じゃないからつかの間の恋で終わらせる気は毛頭ないわ。ドロシーもルーラも特集号は購入済み。もちろん明日のデートに持参させるわ。娘たちは私たちの話を聞き、期待に目を輝かせた。

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