悪名高き4月入学
5月22日。カレンとミレーヌは登校した。ジュスティーヌ女学院は初等部から高等部まであるが、王族と庶民が通うごくふつうの女子校。だが唯一の弊害は4月入学。創立者が日本かぶれだったせいだが、そもそも4月入学は農家のために定められた制度。異世界にも農業はあるが、マホロバ公国は農業国ではない。他にも弊害はあり、5月に文化祭を開けない。4月は健康診断など煩雑な手続きがめじろ押しだからだ。となれば11月に文化祭を開くことになるが、ソレだと10月に準備をしなくてはならない。この時期に変質者が本気を出してくるのは日本だけではなかった。文化祭は他校の男子が来てくれるが、その前に性被害に遭う子が後を絶たないのだ。異世界でいまだに4月入学を貫くのはナルシス指定校とジュスティーヌ女学院のみ。ナルシス指定校はリアルの魔法戦士と戦うから4月入学でないと彼女たちが不安になる。かと言って自分たちの学校がいつまでも4月入学を貫く理由があるのか?創立者は他界したから9月入学に変えても問題はないはず。異世界は日本の教育制度をゴミカスだとみなし、受験も生徒会もPTAも部活もない。ましてや社会経験皆無な先生が教職に就くなど有り得ない。異世界は安易な日本追随をせず、アメリカがいいとも思わない。生徒の割合は王族が2割。庶民が8割を占めたが、深刻な対立はない。安易な日本追随が深刻なトラブルを生んだ事例は枚挙にいとまがないが、唯一の例外が対抗戦。カルーセル女学院はまるで山口の厚狭高等学校の校舎をそのまま異世界に移転したかのようなヤンキー女子校として知られていた。香水の身にまとい方もろくすっぽ知らんようなヤンキーどもが何を思ったのかいきなりジュスティーヌ女学院に侵攻したのだ。彼女たちは放課後に山深い校舎から自転車をこぎこぎし、ようやくジュスティーヌ女学院にたどり着いた。だがすでに生徒たちは全員帰宅。ヤンキーどもは先生方にケンカを売るわけにもいかない。そこに現れたのがラモン先生。彼はたまたま用事があり、ジュスティーヌ女学院に来ていた。帰りにヤマンバみたいな連中に絡まれたが、見た目は[スクールウォーズ]における松村雄基に似ていた。彼は読みかけの[キャプテン翼]を渡し、ピンチを脱した。ソレはまさに若林源三と大空翼の運命的な対抗戦を描いていた。ソレを読んで感動したヤンキーどもはさっそく先生方に対抗戦を要求し、長きにわたる対抗戦の歴史が始まるのだ。だが異世界でキャプテン翼は人気が出ず、なぜか[サッカーボーイズ]が[ツバサ主将]というタイトルでアニメ化した。異世界で週刊少年ジャンプの世界観は受け入れられず、いまだにアニメ化した作品は皆無。[ウイングマン]ですらコミック累計の売り上げが3万部に届かない。バブル崩壊後の[りぼん]ですら酷評された。[10年前と比べても明らかに質がガタ落ち]というのが定説。平成以後の作品は見向きもされなかった。ヤマンバどもはあまりにもオーバーヘッドキックの練習に明け暮れ過ぎて試合当日はベンチスタートを余儀なくされた。江川卓を擁する作新学院がセンバツの準決勝で広島商業に敗れたエピソードに似ていないが、首を寝違えたのだ。ヤンキーどもがジュスティーヌ女学院に勝つまで実に7年を要したのはあまりにも首を鍛えるヤマンバが多すぎたからだ。対抗戦は庶民主体のチームだし、カレンたちはチアガールに駆り出された。試合は毎年白熱したが、カルーセル女学院は伝統的にガラが悪い。しかもなぜか敵味方関係なく削りまくるディフェンダーが必ずいて[ヤマンバハリケーン]として恐れられた。今日はカルーセル女学院との練習試合。カレンとミレーヌが初めてのベンチ入り。カレンはプレーの視野が広く唯一ハンドスプリングスローができる。ミレーヌに上背はなく足元の技術も未熟だが、ドリブルが速い。前半はスコアレスで終了。向こうのGKルイスはイギータに似て攻撃的なショーマン。スイーパーはレナタ。デカブツでどう猛。MFはクリス。天才的だがムラが激しい。FWはリロス。長身だが守備にはあからさまに手を抜く。ウチのGKウィーダは長身だがナイーブ。スイーパーのファナは献身的だが熱血タイプ。MFのニノンは孤高のナルシスト。FWのコルンは小柄だがテクニシャン。残り5分で2人はピッチに立った。だが1点ビハインド。カレンはスローインからいきなりゴール前に30メートルも飛ばし、ヤマンバどもの度肝を抜いた。こぼれ球をミレーヌが頭で押し込んだが、ルイスに左手1本で阻まれた。だがコレでウチに流れが来た。向こうはカレンのロングスローを恐れ、タッチに逃げられなくされた。ラストワンプレイ。今度はショートコーナーからカレンがセンタリングと見せかけてミレーヌにスルーパス。彼女はレナタを何とかかわしてコルンにパス。だがシュートは惜しくも枠を外れ、0対1で敗れた。