2.姉との約束
それから5年が経ち、ライトは15歳になった。ヤミはますます活躍し、ヒューマン国内で知らない者はいないほどの有名人となった。Aランククラン「魔滅」のクランマスターとして、多くのハンターを率いていた。ライトは、そんな姉の姿を尊敬の念で見つめていた。
「姉さん、僕も…ハンターになりたい…」
ある日、ライトは、ヤミにそう打ち明けた。
「え…?」
ヤミは、驚いた。
「ライト…本当…?でも…」
ヤミは、言葉を詰まらせた。ライトが、幼い頃のトラウマを克服し、ハンターになりたいと願っていることに感動した。しかし同時に、危険なハンターの世界に、愛する弟を送り出すことへの不安もあった。
「…うん。本当だよ。僕も、姉さんのように、強くなりたいんだ」
ライトは、真剣な表情で言った。
「…わかったわ。ライト。もし、あなたが本当にハンターになりたいのなら…私は、全力で応援するわ」
ヤミは、ライトの頭を優しく撫でた。
「ありがとう、姉さん!」
ライトは、満面の笑みで答えた。
こうして、ライトは、ハンターになるための訓練を開始した。ヤミは、多忙な日々の中でも、時間を作ってはライトに剣術や魔物についての知識を教えた。ライトは、姉の教えを忠実に守り、日々努力を重ねた。
しかし、そんなある日、悲劇が訪れる。
その日、ヤミは、ギルド本部でクランメンバーとの会合を終え、一人帰路についていた。
「今日は疲れたわ…」
彼女は、そう呟きながら、夜の街を歩いていた。
その時、背後から、人の気配を感じた。
「…誰?」
ヤミは、警戒しながら振り返った。
そこに立っていたのは、クランの副リーダー、ジルだった。
「ジル…どうしたの?こんな時間に」
ヤミは、少し驚いた。
「ヤミさん…お話があります…」
ジルの表情は、どこか硬かった。
「お話…?どうしたの?何かあった?」
ヤミは、ジルの様子に不審な点を感じた。
「…実は…」
ジルは、言葉を詰まらせた。
「…何?」
ヤミは、ジルの目をじっと見つめた。
「…ヤミさん…申し訳ありません…」
ジルは、そう言うと、懐から短剣を取り出した。
「…え…?」
ヤミは、何が起こったのか理解できなかった。
次の瞬間、ジルは、ヤミに襲いかかった。
「うあっ…!」
ヤミは、とっさに剣を抜いて防御したが、ジルの攻撃は容赦なかった。
「な…なぜ…?」
ヤミは、信じられない思いでジルを見つめた。
「…すまない…ヤミさん…」
ジルは、冷酷な目でヤミを見下ろした。
「…お前…一体…誰に…?」
ヤミは、苦痛に顔を歪めながら、そう言った。
「…それは…」
ジルは、ニヤリと笑った。
「…教えてあげない…」
ジルは、再び短剣を振り上げた。
「…うぐっ…!」
ヤミは、ジルの攻撃を避けきれず、胸を刺された。
「…ば…かな…」
ヤミは、その場に崩れ落ちた。
「…さよなら…ヤミさん…」
ジルは、冷酷な言葉を吐き捨てると、その場を立ち去った。
ヤミは、意識が朦朧とする中、ライトのことを思った。
(ライト…ごめん…なさい…)
ヤミは、力なく目を閉じた。
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ライトは、ギルド本部からの連絡を受けて、急いで駆けつけた。しかし、既にヤミは息絶えていた。
「姉さん…!」
ライトは、ヤミの冷たくなった体にすがりつき、泣き崩れた。
ヤミの遺品を整理していたライトは、小さな箱を見つける。中には、日記と、一枚の写真が入っていた。日記には、ヤミの心の葛藤、ライトへの深い愛情、そして、ジルへの疑念が綴られていた。写真は、ヤミと、クランの仲間たちの笑顔が写っていた。その中には、ジルもいた。
「…どうして…」
裏切りと陰謀、そして、魔族への憎しみ。様々な感情が渦巻く中、ライトは決意する。
「姉さん…僕は、強くなる。そして、必ず魔族を倒す。姉さんの仇を討つんだ…」
ライトは、故郷を離れ、ハンターとしての道を歩み始める。愛する姉を失い、深い悲しみと怒りを胸に秘めながら…