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第16話 王宮へ

 中立地帯を抜けた俺たちは、途中何の苦労もトラブルも無く、無事王都に辿り着いた。


 嘘です。

 今の三分の一は嘘だった。


 無事王都についたのは本当。なんの苦労も無かったのも本当。

 何が嘘かというと、正直トラブルはあった。


 アダワナ子爵領の打ち捨てられた村を出てから、魔物はいなかったのだが、盗賊に襲われたのだ。



「ヒャッハー! 金目のもんを置いていきな!!」


 強ザコが六人。しかも服の色が青だからリプレイじゃねえか。せめて赤い服を着て出直して来い。


「我々は王宮に向かう聖女の一行です。これ以上手出しすれば、あなた方の死刑は確定。我々を殺せばじきにこの世界は滅びます。つまりあなたたちの死が確定します。お金を奪っても、それを使う世界は無くなります。あなたたちのせいでね。分かったらそこをどいてください」


 まあ、もう王宮も近いし、こいつらくらいにバラしても許容範囲だろう。


「うるせー! ごちゃごちゃ言ってねぇで、金目のもんを置いてけー!」


 もうやだ。馬鹿嫌い。

 地球でもそうだけど、どこの世界にも、話の通じない度し難い馬鹿はいるものである。


「ねえルル、お金を払えば見逃してくれるのかしら?」


 アイシャがそう言って革袋(オサイフ)に手をやる。うん、さすがは伯爵令嬢。


「駄目だよアイシャ。こう言うヤツに金を渡したら、今度は別の貴族を狙うようになる。成功体験を覚えさせちゃダメなんだ」

「なるほどぉ」


 納得したように革袋をしまった。聞き分けが良くて結構。


「おらおら、どうした? さっさと出せよ!」


 馬鹿がイキっている。

 お前らさ、この目の前のアイシャの格好を見て、聖女か、もしくはものすごく高潔な存在だって分かんないのか? 分かんないのか、馬鹿だから。


「おい、聖女様の正体を明かしても尚、こちらに手を出したのだから、貴様らはすでに死罪が確定した。ならば今ここで死んでも文句は言わんな?」


 俺が全開でドスの利いた声を出し、双剣を抜いた。

 魔物相手では両手剣(バスタードソード)がベストだが、こういう手合いには、双剣の方が良い。前世で鍛錬を積んでおいて良かったぜ。


「ねえ、ルルの魔法は、こいつらには効くの?」

「いや、当然効かない。魔物のみに有効だ」

「え? それっ……」


 俺は、アイシャの返答を待たず、賊に斬りかかった。


「うへあん!」


 情けない声を上げるな。お前らが絡んできたんだろうが!


 俺はサクッと三人の腕と足に斬り込みを入れた。さすがに殺すのは寝覚めが悪いしな。これで十分戦意喪失だろう。


「くそがぁ!」


 やぶれかぶれに斬りかかって来たもう一人の剣を躱し、ふくらはぎを斬る。

 これで勝負あったらしく、残りの二人は、剣を構えながら固まっていた。


 ふう。これで何とか。


「もうお止めなさい! "聖なる礫(セイクリッドヘイル)"!」


 急にアイシャが声を上げた。急に目の前で始まった人間同士の斬り合いにテンパったのだろうか?

 ってか馬鹿野郎! それは無数の光弾が飛んでく奴だろ!? 

 魔物が穴だらけになって消滅するくらいだ。人間に当たったら文字通りハチの巣だ。目を覆いたくなるようなスプラッタな光景が眼前に広がる事請け合いである。

 いや、そもそも、聖女の魔法って人間に効果あるのか!?


 俺の自問自答も空しく、アイシャの周りに浮かび上がった無数の光弾が、賊どもに襲い掛かった。


(ああ、うちの聖女様がついに殺人犯になってしまった。)


「痛てててて!」

「うわ、何だ、いててて!」

「クソー! 覚えてろよ!」


 テンプレとか言うレベルではない。もはや生きた化石ともいえるような捨て台詞を残し、賊は散っていった。


 なんだったんだ? ともあれ、アイシャが殺人鬼にならずに済んで良かった。


「えっと、アイシャ、今のは?」

「あ、聖女の魔法は、人間には少しだけ効果があるみたいなんです。致命傷は与えられないけど、ああいう人たちを追い払うくらいなら」


 あ、ソウデシタカ

 ……教えておいてくれよ。

 いや、先制攻撃をしかけたのは俺の方だった。


「にしても、凄いですねルル! すっごく強かった! カッコよかったですよ!」


 ガックリと膝をついた俺を、興奮したアイシャはひたすら褒めちぎるのであった。


 ……まあ、にしてもだ。


 聖女の魔法が人間に効果がある。

 それが分かったのは良かった。

 もしも魔法が人間には効果が無いなら、魔物の群れが現れた時に、俺が一人で先行し、アイシャが後方から爆撃、なんて戦法も考えていたからだ。巻き添えを食う以上、そう言った荒っぽい戦法は封印せねばなるまい。

 それに、さっきみたいに馬鹿な賊にまた襲われないとも限らない。その対応方法が俺の剣だけってのは心もとなかったので、まあ、良かったと思うべきだろう。



 そんな訳で、俺とアイシャは、公爵家を出てから二ヶ月弱、無事、王都へ辿り着いたのだった。


「こ、ここが王都、凄い」


 アイシャが感動している。

 そりゃそうだろう。

 フェリエラ期に産まれた者は、よほどのことがない限り王都になんて来られない。近隣領地ならばまだしも、中立地帯を抜けなくてはならない行程が挟まれば、十中八九魔物のエサだ。アイシャも例にもれず、初めての王都なのだろう。


 ついでに言えば、王都はとても栄えていた。

 デザインも華美で、建物も高く大きく、道を歩く人々は誰もかれもが高級そうな服装をしている。ラルアー大陸の贅の限りがそこにはあった。

 しかしそれは俺の過去の、いや、一つ前の前世の記憶であった。


 今の王都は、ヴィ・フェリエラ期に比べればかなり質素な感じがした。

 まあ、それでもアイシャが感動するくらいには十分に華美で豪華ではあったが。


 国王のお膝元(ひざもと)だから当然、と思うかもしれないが、明確に、俺には王都はここまで発展した理由が分かっていた。


 そう。

 ここにはなぜか魔王が現れないから、だ。


 国王から、魔法使いの居場所や、大陸中の領地の情勢などの情報を貰うのが俺たちのミッション。

 そして、何故王都には魔王が現れないのかを探るのが、俺単体の裏のミッションである。


「ルル、どうしたの?」


 アイシャが心配そうにのぞき込んでいた。しまった、こわばっていた表情をしていただろうか。


「ん、ああいや。世界中が大変だってのに、不謹慎にも王都は平和なもんだな、と思ってな」

「……本当に、ルルは公爵家の息子とは思えない事を言うのね」

「そうか?」

「だって、国王陛下は、ルルの従叔父上(いとこおじうえ)様でしょ?」


 正直、実感は湧かない。

 それに王都に魔王が現れない、その理由を秘匿しているのだとしたら、ワンチャン黒幕の可能性だってあるのだ。

 身内だからと言って、この王都の発展ぶりを好意的に見るなど出来なかった。


「会ったことも無いしな。それに、沢山の人達が魔物に殺されるのを見て来たんだ。国王とか公爵とか、そんなのは関係ないさ」

「……凄いのね、ルルは」


 アイシャが目を細め、天を仰ぐ。そして深呼吸をした後、そう呟いた。

 ここまでの旅ですっかりお馴染みであったが、それは彼女が心から感心した時にする動作だった。



 門番に声を掛け、王宮への取次ぎを頼む。

 ヴィ・フェリエラ期に学んだ記憶では、王宮、ひいては国王陛下への取次ぎは最速でも翌日以降、国王の状況次第では一週間以上待たされることもある、と聞いていた。しかし、そこはさすがにフェリエラ期。そして聖女一行である。

 慌てふためくあちらサイドの様子を見るに、あらゆる面倒な手続きをすっ飛ばして、即、謁見という流れになったようであった。


 立派な甲冑に身を包んだ、騎士らしき男に連れられ、俺たちはそこへ通された。

うん、これはあれだ、いわゆる謁見の間、って奴だ。

 長い赤い絨毯。サイドに並んだ騎士や文官たち。そして奥に鎮座ましますは、この国の最高権力者。

 その名も、ハイロドウェインバージ・リュドエード・ラルアゼート陛下。

 絶対に覚えられないわ。


「おおおお、よくぞ参った! 聖女アイシャ・フィアローディ。そして、魔法使いルレーフェ・ハーズワートよ! 私は、ハイロドウェインバージ・リュドエード・ラルアゼートである」

「お初にお目にかかります、陛下。伯爵位、ジェイク・フィアローディが娘、アイシャ・フィアローディと申します。この度、聖女としての力を授かり、こうして馳せ参じました」


 アイシャが臣下として完璧な挨拶をする。こういう挨拶は慣れないが、まあ仕方ない。


「お初にお目にかかります、従叔父上(いとこおじうえ)様。ハーズワート公爵家が三男、ルレーフェ。魔法使いとしてここにまかり越しましてございます」


 良し、噛まずに言えた。

 ちなみに国王に対し、公式の場でも「陛下」ではなく「従叔父上」と呼べるのは公爵家の特権であった。


「おお、そなたがルレーフェか。よくぞ参った。父グレットンは壮健であるか?」

「は、相変わらず、でございます」

「ははは、そうかそうか、相変わらずか! 何より何より!」


 陛下は俺の返答がツボだったらしく、声を上げて笑った。

 普通の人間ならば、陛下の機嫌をうまく取れたことに安堵でもするのだろう。


 しかし、俺はこの時、全く別の事を考えていた。


 ふうん、意外に気さくな性格のようだ。

 しかし、どんな表情も見逃さない。

 正直言って、今の俺は国王を信用していない。

 魔王フェリエラの発言が本当だとすると、『魔王は何故か王宮には出現出来ない』のだ。その理由は不明だが、確実に王宮、ひいては国王に関係があるはずである。

 この男の性格を、本心を、しっかりと把握する必要があるのだ。


「……して、聖女アイシャ・フィアローディよ」

「はっ!」


 ひとしきり笑った後、陛下は改まって、俺たちに向き直った。アイシャは緊張ながらもそれに応えた。


 さて、救世主である聖女に対して、どういう態度に出る?

 「選ばれし救世主として、見事魔王を打ち倒してみよ!」とか偉そうに言っちゃう?

 「余が命ずる、魔王を打ち倒せ! 失敗は許さん!」とか命令しちゃう?

 さあ、見せてもらおうか! 国王陛下の性能とやらを。


 陛下は、その場からおもむろに立ち上がり、ゆっくりと、跪いている俺とアイシャのもとに歩み寄って来た。


(なんだ? いったい。何をする気だ?)


 そして、俺たちの前に立つと、その場で片膝をつき、俺たちの手を取った。


(ん? あれ? 何?)


「……ぅに……ぁぬ」


 そして、変な鳴き声が聞こえた。

 え? 今の陛下? 今、なんておっしゃいました?


「……すまぬ……本当に……すまぬ。そなたらのような若者に、かような使命を押し付けてしまい……本当に、すまぬぅぅ」


 良く聞くと、国王陛下が小さい声で、そう言葉を漏らしていた。

 見ると、その目からは、大粒の涙があふれ出していた。


 ええええ!!??


 いや、え?!

 ちょっと、想定と違う!

 いくら聖女と魔法使いだって言ってもさ、年端も行かないガキ相手に、この広大な大陸の国王陛下が泣く?!

 このおっさん、めっちゃ良い人なんですけど!?


 国王は重大な秘密を隠匿(いんとく)しているに違いないと決めてかかっていた俺の出鼻が、綺麗にくじかれたのは言うまでも無かった。




(第17話『光』へつづく)



毎日正午に投稿致します!

明日もお楽しみに!

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