第32話 続・メガミッション
俺は二度死んだ。
しかし、いずれも記憶をもって、この転生待合室に来ている。
それは俺が、ベル様の管轄の世界の魂だからだ。
当然、俺と同様に、ミューやエフィリアの魂をどうこうできる存在が居るはずである。
そして、今確認した感じでは、女神様たちの時間軸はとても自由である。
その二つの条件を符合するに、少なくとも、仮に魂だけでも、ミューやエフィリアをなんとかする方法はありそうな感じはした。
とにかく今は、そのあたりの状況を把握するしかない。
「ベル様。一度目の生であの世界の情報はかなり把握致しました。それを元に、またお聞きしたいことがございます。宜しいでしょうか?」
『はい。一度あの世界を生きた貴方にならば、お伝え出来る事は増えているでしょう。勿論、前回と同様に限られる部分もあるでしょうが』
俺の質問に、ベル様はすんなりと了承してくれた。まあ、ここで断る意味は無い。
それに、今はあの世界の事よりも、もっとマクロに、世界の外の事を知らねばなるまい。
「ありがとうございます。ではまず最初に。ベル様は地球の……いえ、太陽系の女神さまですよね。その女神さまが、管轄内の魂である俺をここに呼び寄せられたという事は、あの世界の人間の魂は、ラルアーの女神さまならばここに呼び寄せる事は可能、という事になりますでしょうか?」
『ええ、そういう事になりますね』
いきなりの直球の質問をベル様はあっさりと肯定した。
「では、その女神さまを、ここにお呼びすることは出来ますでしょうか?」
疑問には思っていた。
もうこの際、ベル様のような超存在が何なのかは分からないので『女神』で押し通すことにするが、ともかくベル様は、太陽系担当の女神様だ。
であれば、仮に救世主足りえる俺を呼び出すところまでは良いとしても、その俺に『別の世界を救え』と依頼までするのは筋が違う。本来であればラルアーの女神様がすべきことなのではないだろうか? 少なくとも人間社会においてはそれが道理というものだ。
『そうですね、本来ならばそうするべきなのでしょう。ですが今はそれが出来ない状況にあります。ですので、私が代わりにあなたにお願いしたわけです』
うん、やはり、そうではないかと思っていた。
「ベル様、今仮に、その女神さまの名前を俺が決めても構いませんか?」
『ええ』
この先『ラルアーの女神様』といちいち呼ぶのは面倒だし、ひとまず仮の名前をつけさせてもらいたかった。
しかし、そう言ったは良いけど、思い浮かばない。が、適当に名付けて忘れてしまっても困るし……。
まぁ、仕方無いか。流れってヤツだ。
「そうですね、ではウルd……いえ、ウルさま、とでも呼ばせて頂きます」
この名前に関しては、もうスルーで勘弁してくれ。
「つまり、ウル様は何かしらの事情により、ここに姿を現せない、とそういう事で宜しいですね?」
『はい』
「それは、ずっと前からですか?」
『時間という概念ではうまくお答えできませんが、恐らくそうなります』
「では、それはラルアーが出来て以降ずっと、という事でしょうか?」
『はい』
なるほど。
「つまり、この『世界を救って欲しい』という依頼は、ウル様からベル様にお願いされたと言う訳ではなく、ベル様の独断、というか、おせっかいと言うか、つまりそんな感じで決定されたものという事でしょうか?」
『はい。そうなります。しかし、我らとしても、今の、その、ウル、の状況は困った状態ですので、問題はありませんよ』
少しずつ読めて来た。
ウル様は世界を創った。それも地球の異世界ものを参考に。しかし、その世界に、地球とは違い、色んなルールや制約をも設定してしまった。だからそのシステムの維持に力を取られている、とそういうことなのではないだろうか?
「ウル様がここに来られないのは、何者かに囚われている、という事でしょうか?」
『……それとは少し違うかもしれません』
「ウル様がここに来られないのは、手が離せないから、という事でしょうか?」
『……そうですね、そちらの表現の方が近いと思います』
やはりそうか。
何と言うか、アレだ。新しいソシャゲーを作ってみたはいいが、めちゃ重く、しかもやることが多すぎて、毎日のデイリーミッションに20時間かかる。しかも止めてはいけない。そんな感じなのかもしれない。それで、ベル様が『うちの地球にいいプログラマーいるわ』と、俺にゲームのシステムの変更を依頼してきた、と。
ちなみに地球は、ログインすらも必要無い、もう全部オートでやってくれる放置ゲーム、って感じなのだろう。
うん、だいぶ分かり易くなった。
ゲームがラルアー大陸の世界。
手が離せないシステムが魔王とその復活という繰り返しのルール。
プログラマーの仕事が、ルールの、魔王のブレイク、と。
つまりは、そういう事か。
本筋とはずれてしまったが、ウル様がここに来られないのならば仕方ない。
「ベル様、俺がルールブレイク……あ、いえ、あちらの世界を救うことが出来たとしたら、ウル様は自由の身になると、そういう事でしょうか?」
『はい、そうなります』
「ウル様が自由になられましたら、ウル様はラルアー世界にどれくらい干渉できるのでしょうか? その、例えば、隕石を落とすとか、誰かに凄い力を授けるとか、他には……死んだ人を生き返らせられるとか」
これは答えて貰えるはずだ。なぜならばこれはベル様が地球にどれくらい干渉できるか、という質問にも置き換えられるし、ラルアー世界の俺の知らない前情報には当たらないはずだ。
それに言っても創造神である。人間の一人や二人、あっさりと蘇らせてくれそうなものではないか? そう思い、本命の質問をふわっと混ぜておいた。
『どれも出来ませんね。世界に大きな衝撃を与える事も、死者を蘇らせることも不可能です。我々は、その世界にそれほど大きくは干渉できません』
……なんだって?
絶望的な答えだった。
少なくとも、『禁じられているが、それくらいは出来る』くらいの答えは期待していたのに。であれば、何とか恩を売って、一度きり、一度限りという事で何とか目をつぶって貰えるように交渉しようとしたのだが。
となると、やはりあの世界のルールをブレイクした後に、ミューやエフィリアの魂を呼んでもらって、みんなで転生してやり直すしかないのか。
でもそれって間に合うのか?
時間軸がいい加減とはいえ、彼女たちの死からかなりの時間を要することになってしまう。もう既に成仏して、きれいさっぱり、まっさらな魂にされたりはしないのだろうか? もしそうなっては手遅れである。
俺は、見るからに落ち込んだ、とベル様にはそう見えたのだろう。その後、何を聞いて良いのか思考を巡らせていると、今度は珍しくベル様の方から俺に話しかけて来た。
『あなたは、なぜ、そんな事を聞いたのですか?』
俺は一瞬ためらった。別にベル様を信用していないわけじゃない。ただ性格上、大切な人たちが殺されたから、何とか生き返らせるでも、転生させるでもして欲しい、なんて泣きつけなかったのだ。
でも、ベル様は人間ではない。それに、出来ることとできないことを正確に把握するには、この際、真正面から聞いてしまった方が早いような気がした。
「ベル様は、俺のラルアー大陸での人生をご覧になられましたか?」
『いいえ、それは私の管轄ではありませんので』
まあ、そりゃあそうか。地球担当だもんな。まあ、それならそれで都合が良かった。
「実はあちらの世界に、とても大切な人たちが……大切な人が出来ました。不運が重なって、守り切れずに、殺されてしまいました。本当なら、悲しんで、悲しんで、何日も何日も泣いて、酒におぼれて、それでも少しづつ立ち直っていかなきゃいけない事なんだって、それは分かっています」
ベル様は黙って俺の話を聞いていた。
「でも、俺は死んで再びここに戻って来た。記憶をもって。だから、どうしても諦められなかったんです。あの世界が好きでした。あの世界の、周りの皆と過ごした時間が。だから何とかして、女神様たちのお力で、何とかできないかなって、そう思って……」
話しているうちに苦しくなってきた。もちろん実体がある訳では無いので、イメージではあるが。それでも、もしも俺の肉体が今ここに在ったなら、年甲斐もなく号泣していたに違いない。
『私達は、あくまでも見守り続ける存在。世界を設定した後に、何かしらの手を加えることは出来ません』
ベル様の答えはなんとなく分かっていた。何だってそうだ。そんな都合のいい展開を用意できる訳じゃない。それは創造神だって同じことだ。俺はそう思った。
その後のベル様のお言葉を聞くまでは。
『ですが、あなたの願いがそういう事であるならば、何とかなるかも知れません』
「……え?」
俺は、顔を上げた。
ほとんど表情を変えない、俺の創造神であるその女神様が、俺に微笑みかけていた。
いや、俺にはそんな風に見えた。
何とかなる?
どういう事だ?
よく聞く文学的表現というやつは、なかなか実際に経験したりはしないものだが、俺は今この時ほど、一縷の望みに縋った事は、無かったかもしれなかった。
(第33話 『目標へ向かって』へつづく)
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