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第13話 彼女のバースデー大作戦 その3

 無事にミューへのプレゼントを購入して、ニコニコ顔で馬車に戻った。


 うん、主語を抜いて話すのは良くないな。


 編集部時代、よく部下に「曲がりなりにも、文字と作品を取り扱う仕事の者が、主語を抜くな!」と叱っていた手前示しがつかない。


 ……では、改めて。


 無事にミューへのプレゼントを購入したエフィリアはニコニコ顔で、俺は冷や汗を垂らしながら、馬車戻った。


「良かったですね、坊ちゃま! エフィリア様に素敵なアクセサリーをプレゼント出来て」


 ミューはそう言うと、幸せいっぱいの笑顔を俺に向けた。


 どうして自分が何かを買ってもらったわけでもないのに、人の幸せでここまで笑顔になれるのだろう。それはこの世界の住人だからか、それとも彼女だからだろうか。まあ、正確には実は本人が知らないだけで、これはミューの為の買い物なのだけれど。

 前世で腐りきっていた俺には、ミューのその笑顔が眩しすぎた。


 いやいや、見惚(みと)れている場合ではない。買い物が完了したのはエフィリアだけで、俺はまだ何一つミッションを達成できていない。

 アクセサリーが「二人からのプレゼントだ」と勝手に誤解していたのは俺なのだ。しかし、日頃のミューへの感謝という意味合いを考えれば、別々に用意すべきなのは当然だろう。

 しかし、たった今その誤解から解き放たれた今の俺には、何を贈るべきかのその目途(めど)すら立っていないのだから。


「そうですわ。折角街に来たのですから、少し兄上様もお買い物を楽しまれてはいかがですか?」


 うう、エファ……ありがとう。


 このまま馬車に乗ってしまっては、後は屋敷への一本道。分岐の無いバッドエンドルートへ一直線である。

 そんな、女子をどのように買い物に誘えばいいか分からず戸惑っている俺に、エフィリアが助け舟を出してくれた。

 危ない危ない。お陰でなんとか、冬山のペンションで殺人犯に全滅させられルートだけは回避出来たようだ。


「ああ、そうだな。それも良いかもしれない。二人とも少し付き合って貰えるかな?」

「もちろんです、坊ちゃま」

「ええ、兄上様」


 まだ目標の店も決めていないのに、一軒一軒馬車で乗り付けて回るのはさすがに面倒である。

 俺は御者に、銀貨を三枚程渡し、街の入口にある停馬車(ていばしゃ)場にて待つように告げた。停馬車場とは、まあ、平たく言えば、馬の世話場が用意されている駐車場みたいなものである。もちろん有料だが、一日中()めるならまだしも、数時間程度だ。銀貨三枚で十分だろう。


 宝石店の前で馬車を見送り、俺は考える。


(さて、どこに向かうべきか)

「どこに向かわれますか?」


 俺の心の声と、ミューの声が被る。


 ギギギギ……


 もしもアニメだったらそういう効果音が出ていたに違いない。俺はそれくらい首の関節をきしませてエフィリアに助けを求めた。


「折角、領都の繁華街に降りたのです。のんびり散策するのも良いのではありませんか、兄上様?」

「ああ、そうだな、そうしよう」


 もう俺はエフィリアのイエスマン。略してエフィリエスマンと呼んでくれ。


 ――二時間後。


 俺は自分の不甲斐なさに、心の中で頭を抱えていた。


 あれから様々な店に回った。


 日用衣料屋、ドレス屋、お菓子屋、日用雑貨屋、小物屋、武器屋。しかし、どれもミューが喜んでくれそうなピン来るものは無かった。

 いや、ぶっちゃければ、何をプレゼントしてもきっとミューは喜んでくれる。それは分かっている。しかしだ、折角送るのだから、どうせなら大切にして貰いたい、使ってもらいたい、宝物にして貰いたい。そんな気持ちになるのは欲張りなのだろうか?


「少し、休憩しましょうか」


 エフィリエスマンの俺は、妹のその申し出に、赤べこ人形のように首を縦に振った。


 それなりに落ち着いた雰囲気の喫茶店に入ると、さすがに奥の特別テーブルに通された。まあ、領主の嫡男だから致し方ない。無下にするのもはばかられるので、素直に案内に従った。

 俺はミューがトイレに行き席を外したところで、エフィリアに泣きついた。


「うおおお、エファ、俺は何を贈ったらいいんだろうか?」

「兄上様からの贈り物であれば、ミューは何でも喜ぶと思いますが?」


 確かに、ミューの性格上、道端に生えているぺんぺん草を桐の箱に入れて送っても喜んでしまいそうではある。いや、しかしそういう問題ではない。そうである以上、尚の事ミューが喜ぶかどうかを論点にしてはいけないのだ。それは彼女への甘えに過ぎない。


「いや、それはそうなんだが、何と言うか、ミューにはそれなりに実用的なものを贈ったほうが良いと思うんだ。華美なアクセサリーは、他の使用人の手前、普段からつける訳にもいかないし、何よりエフィリアの真似になってしまう。ドレスも私服も着ていく機会がないし」


 ミューにドレスを贈ったところで、着ていく機会は無い。それに、街にプライベートで出向く機会が無いミューにとっては私服もそれと同然である。俺やエフィリアと一緒、或いは屋敷のお使いで街に出る時は、辺境伯家の紋章の刺しゅうが入ったメイド服が基本かつ、最も安全な服装なのだから。

 同様の理由で、香水やバッグも必要なさそうである。


 彼女は物欲というものを一切どこかに置いて来てしまったかのように思えた。港区女子の対極にいる人間だな。……いや、完全にイメージと偏見で語ってしまった。こういうのは良くないな。いや、こういう時に使える便利な言葉が、前世には確かあったはずだ。そう! 「港区女子の対極にいる人間だな。知らんけど!」


「確かに、ミューが何かを欲しがっている姿は見たことがありません。ミューが喜ぶときは、私や兄上様に良いことがあった時。彼女が悲しむのは、私や兄上様が悲しんでいるときですから。でもだからこそ、(わたくし)たちは、こうしてわざわざ内緒で街に連れ出しているのですけど」


 エファはそう言って、少し考えた。彼女の中にも、ミューにあげたいと思うモノの選択肢が既に無かったのであろう。


「ミューが戻ってきたら少し、お話をしてみましょう。それで何かわかるかもしれません」


 ひとまず、俺はエフィリアのその意見に賛同した。


 ミューが戻ってきて、注文を済ませる。二人は紅茶を、俺はコーヒーを頼んだ。


 そう、この世界にはコーヒーがあるのだ!

 これはとても助かる!


 前世では、激務のデスクワークを切り抜けるためのコーヒーは必須だった。というか、紅茶なんて、一般に出回るのは17世紀のヨーロッパでのことである。それが中世風のこのファンタジー世界にあるのは僥倖である。


 たしか、黄巾の乱の時代に、劉玄徳が病気の母の為にお茶を買いに行く、という逸話があった覚えがあった。つまり高級飲料としてのお茶は大昔の中国からあったわけで、お茶の存在自体は、この時代にもあってしかるべきなのだが。まあ、ともあれ、女神様がどこの作品の世界をパクったのかは知らんけど、俺はこの世界のご都合設定に感謝した。



「兄上様の味覚は独特です。どうしてそんな黒くて苦い飲み物を飲めるのでしょうか」


 美味そうにコーヒーをすする俺を見て、エフィリアはしきりにそう言っていた。この辺の感覚は地球の子供と大差ないようであった。「大人になれば分かるさ」とでもドヤ顔で言ってやろうかとも思ったが、コーヒーの味が分からない、俺よりも一歳年上のミューが、落ち込んでしまいそうだったので止めておいた。


「そういや、ミューもうちに来て随分になるけど、孤児院の暮らしはどうだったんだい?」


 一息ついて、俺は世間話のように切り出した。いや、実際世間話なんだけど。


「孤児院、ですか? ……そうですね。あまり覚えていませんが、シスターの言う通りにしていれば大丈夫と、言われたことをただ言われた通りにやる毎日でした。そうすればご飯が食べられましたので。」

「言われた通り、とは?」

「庭の草を抜いたり、お掃除をしたり、食事の後片付けをしたり、みたいな感じです。三歳くらいでしたので、役に立っていたかは分かりませんけど。不自由はありませんでした」


 そういえば、あまりミューの過去の事を深く聞いたことは無かったな。この際だし、もっとミューの事を知るのも悪くないのかもしれない。


「辺境伯家に来たのは三歳の終わりころでした。その歳で奉公に出されるのはとても珍しい例みたいです」

「その時は、嫌じゃなかった?」

「他の孤児のお兄さんやお姉さんたちに『奴隷にされるぞ』とか『ペットにされるぞ』とか脅されて、はじめは怖かったです。特に男の子たちは、いじめっ子ばかりでしたから。

 でも、ヴァルクリス坊ちゃまは、出会った頃から今まで、ずっとお優しくて、何でも出来て。私が粗相をしても、怖い顔一つ、嫌な顔一つせずに、いつも優しく包んで下さって。私は坊ちゃまにお会いできて、坊ちゃまにお仕え出来て本当に幸せ者です」


 そんなの当たり前である。精神年齢が良い大人の俺が、俺の為に一生懸命尽くそうとしてくれる幼い女の子を虐めたり、からかったり出来るはずがない。

 今まで見て来た数多くの異世界作品でもそうだったが、幼少期から大人の知能を持っているというのは、それだけで計り知れないほどのチートなのだと再認識した。


「ねえ、ミューは何か夢は無いのかしら?」


 面と向かって称賛された気恥ずかしさからか、それとも、どこかズルをしているんじゃないかという罪悪感からか、俺が口ごもっているのを見て、エフィリアがそう挟み込んでくれた。

 なんというか、異世界転生していないこの妹のこの優秀さは、本当に説明がつかないな。


「夢……ですか」

「ええ、将来思い描く理想、というか、なんかそんなのです」


 エフィリアの質問に、ミューが少しだけ遠い目をした。物心ついてから孤児院で過ごし、すぐに辺境伯家に奉公に出されて、今までずっと働いて来た。そんな謙虚なミューが、そんなに大それた夢を語ったりはきっとしないだろう。

 俺はそう思った。


「はい、あります」


 しかし、思った以上にしっかりとした口調でミューはそう言った。


 一瞬俺とエフィリアの目が合った。

 きっとここに良いヒントが隠されているに違いない。


「それはどんな? 良ければ聞きたいなあ。力になれるかもしれないし」


 俺は身を乗り出すのを堪えて冷静にそう言った。ミューの事だ、どんなに恥ずかしい、大それた夢だろうと、俺やエフィリアには語ってくれるに違いない。


 しかし、その希望は脆くも崩れ去った。


 ミューは少し俯いて考え込んだ。そして再び顔を上げると、力なく笑い、寂しそうに言った。


「いえ、絶対に叶わない、叶いっこない、私なんかが考えてはならない大それた願いです。ここで申し上げても坊ちゃまを困らせるだけですので、生涯、私の胸の内にしまっておきたいと思います」

「……そうか。わかったよ」


 沈黙が訪れた。

 ミューは、話の流れを止めてしまったことに、申し訳なさそうな表情を浮かべた。


 エフィリアは気づいていただろうか。いや、きっと気づいていたに違いない。そんな含みのある真剣な表情をしていた。

 ミューは、「俺やエフィリア」ではなく、「カートライト家の皆さま」でもなく、「俺を困らせる」と言った。つまりはそういう事なのだろう。

 献身的で、一途で、そして低い身分の彼女の、普段は口にしない、口に出来ない、しかし気持ちを消化するための精いっぱいの発言であった。


 その瞬間。

 俺の頭が、思考が、高速に回転し始めた。

 まるでアドベンチャーゲームの選択肢を選ぶかのように未来をシミュレートしていく。


 そして、カチリとピースがはまった俺は顔を上げ、二人に向かって口を開いた。


「すまない、買いたいものを思い出した。少し時間がかかるだろうから、二人は先に帰っていてくれないか?」


 俺は思わずそう口にしていた。

 エフィリアは俺の方を見ると、少しクスリと笑った。そして立ち上がって言った。


「了解しました、兄上様。さあミュー、馬車に向かいましょう」

「え? あの、その、私、なんか変な事を言いましたでしょうか? ごめんなさい」

「いえいえ、そんな事はありませんよ。大丈夫です。では兄上様、私たちはお先に失礼いたしますね」


 そうして二人は慌ただしく出て行った。

 きっと俺は、この世界に来てから、これほどまでに決意に満ちた表情をしたことは無かったと思う。少なくとも、ずっとフォローしてくれていたエフィリアが一目で安心するくらいには、説得力のある表情だったに違いなかった。


 それから、俺は、たっぷり三時間かけて、一つのプレゼントを購入した。当然馬車は無かったので、徒歩で屋敷に帰宅した。




 ――その日の夜。



 俺とエフィリアは、俺の自室にて落ち合い、そして頃合いを見てミューを呼びに行った。

 すると暫くして、ミューがわざわざ淹れたお茶とカップをもって、楽しそうに部屋にやって来た。


「失礼いたします……あれ?」


 入って来たミューは、怪訝そうにそう言った。


 ミューからすれば、自分が選んだアクセサリーをつけて着飾ったエフィリアを見るという、天使様ファッションショーを楽しみにやって来たのだ。そのエフィリアが就寝用のワンピース姿だったのだから、まぁ、その反応は頷けた。


「いらっしゃいミュー。さあ、こちらに」


 エフィリアが姿見の鏡の前へ行き、ミューを呼び寄せる。


「え? あ、はい」


 良く分からず、ミューはトレイをテーブルの上に置くと、エフィリアに促されるままに鏡の前に移動した。


「では早速、今日買ったアクセサリーをミューに見てもらいましょう」


 そう言ってエフィリアは、柔らかい布にくるまれたアクセサリーをミューに見えないように取り出すと、ミューと鏡の間を塞ぐように立ち、彼女のリボンタイの中心に付けた。


 そして、くるりとミューの背中に回った。


「……え?」


 自分の首元に光る、鮮やかに青く輝く瑠璃色のブローチを見て、ミューはその場で硬直した。


(これは、あのお店で私が一番素敵だなと思ったブローチ。なんでそれを? いや、そもそも、なんでそれが今、私の首元に?)


 明らかに状況が呑み込めず、パニックになっているミューに、肩に手を添えたエフィリアが静かに言った。


「ミュー、お誕生日おめでとうございます。日ごろからお世話になっている、これはそのプレゼントです」

「あ……あの、エフィリア様、わたし、これ、どうして……」

「あのお店でのミューを観察して、それが一番のお気に入りだろうなと思ったのですけど、違いました?」


 エフィリアがちょっとおどけたように言う。

 いかん、今日の事といい、俺の天使が、少しずつ小悪魔にクラスチェンジしていっている様だ。


 小悪魔エフィリア。

 いや、クソ可愛いじゃねぇか。


 そんな俺のクソみたいな感想をよそに、ミューは、その姿で立ち尽くしたまま、目から大粒の涙をあふれさせていた。


「ぅあぁぁん。う、あ、ありがと、ございます。わたし、こんな、生まれて、ヒック、はじめて、こんな、うれしい、おくりものを、わたし、おつかえしている、ヒック、みぶんなのに……あああん」


 話しているうちに感情が抑えられなくなったミューは、声を大にして泣いてしまった。それを、エフィリアがよしよしと撫でる。

 うんうん、本当に良かった。ここまで喜んでもらえるなんて、さすがはエフィリアである。


 そして、ミューは、泣きはらした顔のまま、俺の元に駆け寄って来た。


「坊ちゃま、ありがとうございます。一生大切にしますね」


 ん?

 ああ、俺とエフィリアの二人からのプレゼントだと思ったのか。


「ああ、そうしてやってくれると、エファも喜ぶよ」

「え?」


 さすがにこのニュアンスに気づいたのか、ミューが一瞬戸惑った。


「ふふふ、ミュー? それは(わたくし)からのプレゼントですよ。それで、兄上様はミューに何を贈られるのですか?」

「え? え?」


 もう、予想を遥かに超え過ぎた流れに、ミューの膝が笑っていた。身に余る光栄すぎてどうしていいか分からない、と言った感じなのだろう。

 直木賞と芥川賞を同時受賞したらこんな感じになるのだろうか。いや、でもまあ、歴代の受賞者の方々は、泣きながら膝をガクガクさせたりはしていなかったケド。


「ああ、少し待ってね」


 俺はそう言うと、自身の部屋の隅の死角に立てかけておいたソレを手に取った。そして包んである布をほどいた。


「エファのプレゼントには負けるかも知れないが」


 そう言って、俺はそれをミューの前に差し出した。


「坊ちゃん、これは……」


 それは、ミュー専用の槍だった。

 女の子に槍かよ、とも思ったが、これ以上無い選択だと俺は思っている。

 親友達の婚約の時にヒューリアから話を聞いて以来、俺はひとつの選択を未来に思い描いていた。

 そして今日のお昼に聞いた、ミューの夢の話。

 いずれ戦いに赴かねばならない俺のそばで、共に戦いたいというミューの願い。


 それら全てを叶えるための何か。そう考えれば、答えはこれしかなかった。


「ミュー、今日聞いた君の夢はなんだか俺には分からない。だけど、もしもそれを叶えられる道があるとすれば、きっとこれはその役に立つはずだ」


 ミューは差し出された槍を、恐る恐る手に取った。


「……持ちやすい」


 ミューはそう感想を漏らした。


「それは、ミューの為の、ミュー専用の槍だ」

「私専用の……」


 あの短時間で一からのオーダーメイドは難しい。しかし、領都の専門店では、既にそのパーツとなるように加工済みのものを選ぶことが出来た。柄はこれ、穂先の形はこれ、留め具の部分はこれ、装飾はこれ、と言った具合である。それでも、本来は一日仕事となるところを、金額を積んで無理を言ってお願いしたのだ。店主がちょうど暇を持て余していて助かった。


「柄は、刃を受ける事よりも、軽さと速さを優先した。それでいて折れにくく、斬れにくい、丈夫なキャリクの木で作られている。刃の部分には返しは敢えてつけなかった。ミューの戦い方なら、ひっかけてダメージを負わせるよりも、素早く手元に戻せるほうが良い。穂先の根元から二股に分かれた刃は、殺傷能力よりも、折れにくく、相手の武器を絡めとる用途をメインにしてある。そして長さは……」


 俺が少し熱く語っている間に、槍を抱きしめたミューは再び、大粒の涙を頬から伝わらせていた。


「あ、ありがとう、ございます、坊ちゃま。凄く、凄く、嬉しいです。わたし、まものがきても、もしかしたら、お優しいから……坊ちゃまは、お優しいから、戦いに連れて行って下さらないと、おもって。わたし、ずっと、坊ちゃんのおそばで、ご一緒、します」

「ああ、ミューが強くなった暁には、一緒に戦おう」


 俺の言葉に、ミューは今日一番の笑顔を見せた。そして、


「坊ちゃま、今だけは、ご無礼をお許し下さい」


 ミューはそう言うと、俺の胸に飛び込んできた。

 俺がミューを抱きしめその頭を撫でてやると、ミューは大声を上げて泣いた。

 エフィリアはその光景を、幸せそうに眺めていた。


 きっと、今日という日は、ミューにとって忘れられない一日になったに違いない。

 いや、そうだったらいいな。



 ちなみに、次の日。

 エフィリアに、プレゼントの評価を訪ねてみた。


 さすがに女の子にあれはどうなの? なんてエフィリアに言われようもんなら、俺はショックで、身体中の穴という穴から謎液を垂れ流してしまう。


「とっても素敵でしたよ。色気を出した華美な装飾なんかよりも、よほど考えぬかれた、兄上様らしい贈り物でした」


 良かった。どうやらこの優秀な妹の兄としての面目は保たれたようだ。


 俺はひとまず、胸をなでおろしたのだった。




(第14話『ミューの決意』その1 へつづく)

毎日、正午に投稿致します!

明日もお楽しみに!

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