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唯一の春  作者: 兎田
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02平凡な日常<嵐の前>

「春麗、さっきの講義のノートって取った?」

「中山先輩!今日こそバイト先に遊びに来てくださいよ~。」

「授業終わったらバスケするんだけど春麗もどう?」

昼食時、春麗と唯人が大学の食堂でお昼ご飯を食べているといつものように多くの人が春麗に声を掛けてくる。


春麗は親切で人懐っこい性格をしているためにすぐに友達が出来るタイプだ。そのため、どこに行っても友達に声をかけられることが多い。

よく告白もされているみたいだが、大学卒業後は帰国することが決まっているので恋愛に興味はないらしい。


かえって大学での唯人は物静かで、顔も隠れて暗い印象がある。自身の稼業のこともあり一般人とは関わららないようにしているために、大学での友人は春麗だけだ。


「春ちゃんは相変わらず人気ものだね。」

春麗への周囲の声掛けが落ち着いてやっと話しかけることができる唯人。今日のランチはカレーライスだ。


「そうかな?中国ではあまり友達いなかったから本当嬉しいよ。」

ラーメンを頬張りながら笑顔で答える春麗。春麗は食べることも大好きで今日のランチはラーメンと豚の生姜焼き定食である。小柄のわりにたくさん食べる春麗だが運動量も多いので太ることはない。

唯人はいつも小さな身体に吸収されていく食べ物たちが不思議でならない。口いっぱいに頬張る姿はハムスターそのものだ。


「春ちゃんは今週末は何か予定あるの?」

さりげなく春麗の予定を確認する唯人。


「いつも通りゲームしまくるよ!」

春麗はゲームが大好きで学校や友人からの誘いがない場合はゲームをしていることが多い。特に去年発売されたオンラインゲームにハマっているらしく、この土曜日はそのゲーム内でイベントがあるので家に引きこもるつもりだ。


「そっか。本当にゲーム好きだね。」

家にいるつもりならあまり問題なさそうだな…心の中でそう考える唯人。

以前の襲撃もそうだが、ここ最近唯人の組内での活躍が認められつつあるために敵対勢力からの唯人に対する警戒が強まっている。唯人という新しい芽を潰すために躍起だ。


春麗がいる際に襲撃してきた連中は迅速に処理したつもりだが、いつ春麗に危害が加わるかわからない。

どこにも出掛ける予定がないのであれば、一人だけ春麗の家の近くに見張りを置くくらいで良いだろう。


「唯人はまたバイト?本当忙しいね。そんなにお金必要なの?」

「あはは…まぁ、大学の学費は一部自分で払うって決めてるからね。」

実際はバイトではなく本業をしており学費も特に問題ないのだが怪しまれないようにそう嘘を伝えている。


確かに最近本業ばかりで春麗と遊んだりしていない。平日は大学で会っているが、今度週末に時間を作ってどこかに遊びに行くもの悪くないかもしれない。






春麗が待ちに待った土曜日、春麗は自室に食料を大量に持ち込み朝からゲームに打ち込んでいた。


「よしっ、このままいけば最高ランクで走れる!」

コントローラーを持ちながら興奮気味に独り言を言う春麗。

今回のイベントでは大勢のゲーム仲間ととても強い獣を倒すというものだ。これまで惜しいところでこの獣を倒せなかったので今回こそは成功させたい。


「あと少しっ…

ピルルルルッ

春麗がコントローラーを激しく連打しているとき、春麗のスマートフォンが鳴った。


コントローラーに集中しつつもスマートフォンの画面をチラリと見ると兄の名前が表示されていた。

ゲーム画面とスマートフォンを交互に見る春麗。


親ではなく兄から電話が来るということは何か緊急事態のようだ。


ピルルルルッ

電話が鳴りやむことはない。


「もうっ!」

春麗はコントローラーを投げ捨てると電話に出ることにした。


「もしもし?」

春麗が中国語で答える。


「出るの遅かったな、大丈夫か?」

「…何の用?」

大丈夫かと言われたら大丈夫ではない。

せっかく良いところだったのに!


「やっと落ち着いてきたから、その連絡だよ。」

「落ち着いてきただけだで兄さんから電話してこないでしょ?」


「まぁな…姉さんが白虎に寝返った。」

「…そう。」

春麗は短く返事をする。

白虎とは中国で二番目に大きな勢力のマフィアグループだ。武闘派で有名でマフィア潰しと呼ばれる青龍を毛嫌いしている。

跡取り争いに破れた姉は青龍の情報を持って白虎に鞍替えしてしまったらしい。


「姉さんは元々青龍の方針を気に入ってなかったからね。」

「まぁな。青龍で当主になったら、他のマフィアと同じように義に反することをしてただろう。」


春麗は昔から拝金主義で他人を踏み台にする姉とは水と油の関係であった。だが、血の繋がった家族であったこともあり心の隅では姉が変わることを望んでいた。しかし、それは敵わず跡取り争いは最悪の結果を迎えたようだ。


「まずは…次期当主決定おめでとう。」

少し落ち込んだ声で言う春麗。


「…ありがとな。」

将来の当主に決まったというのに兄の声を弾んではいない。


「姉が武闘派で敵対してる白虎に入ったってことはこれから大変になるね。」

青龍は他のマフィアに比べて戦闘能力は低い。弱いわけではないが、武闘派の白虎には歯が立たないのが現実だ。姉が白虎に入った以上本格的に青龍を潰しにかかってくるだろう。


「実はまだ両親には言うなって言われてるんだけど…」

「私の嫁ぎ先が決まったの?」

兄の言葉で何かを察する春麗。

急いで武力を強化するためには他グループと協定を結ぶのが一番だ。しかし、マフィアに嫌われている青龍はなかなか他グループと協定を結ぶことが出来ていない。まずは青龍当主の娘が他グループと婚約することで周りを牽制するのが得策だ。


「俺も詳しいことはわからないんだけど、国内で手を結ぶのは厳しいから日本のヤクザグループに嫁ぐ可能性が高いみたいだ。両親はどうにか政略結婚を避けたいみたいだが、次期当主の俺は…」

苦しそうに言う兄。

兄としても春麗を嫁がせることは避けたいが、青龍内の情勢を立て直すにはこの方法しかないのだ。


「大丈夫だよ、覚悟は出来てる。教えてくれてありがとう。」


春麗は兄との電話を終えると脱力したようにベットに仰向けになった。


いつかはどこかに嫁ぐつもりでいたから覚悟は出来てる。

でも、この感じだと大学卒業は出来ないかも…


「って、ゲームは!?」

春麗が勢いよく起き上がる。

画面を見るともちろんイベントは終了しており、勝利の文字が表示されている。途中で抜けてしまったが、イベントは無事完了したみたいだ。


今回のゲーム仲間が集まるチャットルームを見ると、イベント完遂のオフ会のお知らせが告知されていた。


いつもはオフ会に参加しない春麗だが、今回は参加することにした。

先程の電話で色々あったので、一人部屋に籠っても落ち込んでしまうだけだ。もう日本を離れるかもしれないし今まで一緒にゲームを楽しんできた人たちと盛り上がろう。


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