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唯一の春  作者: 兎田
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06資質<ペン太君同盟>

春麗が連れて来られた場所はクラブから程遠くないラブホテルであった。鳳凰院も関係しているホテルらしく、とても広い部屋に通される。


予想外の場所に身を固める春麗。ラブホテルに入るのは初めてだが、大人な雰囲気が醸し出される部屋に緊張を感じる。何をする場所かわかってるので猶更だ。



「あははっ、そんな緊張するなよ。密会するにはここが最適なんだって。」

譲之助はどかりとソファに腰掛けてそう言った。


「え?いや…え!?」

何が何だかわからない春麗は言葉を出すことも出来ない。


密会って何!?

以前私を救出する際に兄さんが鳳凰会の組員に怪我させたことをまだ怒ってるの!?そもそもあれはジョーが私を拉致したことが発端なのに!



「あのクラブだと盗聴器が仕掛けられてるから普通に話出来ねぇんだよ。まぁ、おまえも座れって。」

春麗は目の前の譲之助に警戒をしながらも正面のソファに腰掛けた。


確かにあのクラブ内にはいたるところに盗聴器が仕掛けてあった。フウカをこっそり監視している際に知ったのだが、盗聴した内容で客の脅しに使える情報を集めているらしい。


「レイ…じゃなくてリー・チェンリー。まさかおまえがあの青龍の人間だとはな。」

譲之助が春麗を見据える。

怒っている雰囲気はないが、何を考えているかわからないので怖いものがある。


「もうあの話は終わったことだと聞いたんだけど…」

以前ホテルに監禁されたときは春麗が青龍の人間だと知らずの行動だったらしい。唯人を釣るために春麗を誘拐したのに、最終的に乗り込んできたのが青龍の若頭である兄であったため、鳳凰会の中でも非常に大きな混乱を招いたらしい。

勘違いの犯行で春麗にも全く危害が加わっていなかったので、鳳凰会が青龍に多額のお金を払うことで手打ちにしたのだ。


「おう、俺のミスで大事になったからマジでヤバかったわ。」

ゲラゲラと笑うその譲之助の姿からは、本当に大変であったのかはわからない。

「じゃあ、何で私はここにいるの?」

私は情報を集めるためにもクラブにいないといけないのに…。


「何でってそれはこっちのセリフだっての。あそこって亀井唯人の元母親が経営する店だろ?おまえが何で身分偽って働いてんだよ。あんな店で働くことを亀井唯人が許すとも思えねぇし、青龍も相当の親ばかだろ?おまえを誘拐したことで相当鳳凰会に怒りをぶつけてきてたしな。」


「えっと…」

正直に亀井会の内情を話すわけにはいかない。どう説明すれば良いのだろう。


「……ジョーは何であの店に来たの?好きな女の子でもお店にいるの?」

頑張って話題を変えようとする春麗だが、明らかに白々しい。こういう複雑なやり取りは苦手なのだ。


「あははっ、相変わらず面白れぇしわかりやすいな!俺は仕事で来てんだよ、こっそりな。おまえもあの店は危ないから逃げた方が良いぞ。」

「危ない…?詳しく教えて!」

まさか二階の半グレ集団のことを言っているのだろうか?店が危ないのであればそこにいる唯人も危険に陥ってしまう!


「……おまえも何か目的があってあそこにいるみたいだな。青龍が関係してるのか?確か青龍は日本での活動をしてないはずだが。」

春麗の必死な姿を見て言う譲之助。

青龍ボスの愛娘である春麗が神亀会に嫁ぐ予定であることをまだ知らないらしい。


「青龍は関係ないけど…あっ…」

ポロリと言葉を零す春麗。

この言葉で唯人と関係のある神亀会のことであることを仄めかしてしまったようなものだが、今更撤回もできない。


「…まぁ、どこの組も大体同じ問題抱えてるからなんとなくわかる。手伝ってやろうか?」

「え!?なんで…?」

何故此処で援助の申し入れ?何か魂胆でもあるの…?


「そんな怪訝な顔すんなよ。これは前におまえを誘拐したことの罪滅ぼしだよ。借りを返すってやつだ。」

「でもその件は慰謝料を払ったし終わったことじゃないの?」

「おまえ、その慰謝料を全額受け取ったのか?」

「まさか!一銭も受け取ってないよ。」

父親には慰謝料の一部を渡すと言われたが、その当時は兄と姉の権力争いがやっと終わった段階で色々立て直すのにお金が必要だった。そのため、慰謝料はそっちに使うように返事をしておいた。

そもそも春麗本人は数日高級ホテルで好きな料理を食べていただけなので、慰謝料をもらうほどではなかった。

むしろ誘拐されて慰謝料を貰えたおかげで経営に余裕が出来たので、春麗がすぐに嫁ぐ必要はなくなったので感謝している。


「おまえに払った金を本人が使ってねーならまだ借りは返せてねぇよ。それに動かせる人員がいないから自らあの店に潜入してんだろ?」

「そ、そうだけど…」

正直早く解決するためには人手を集めるのが最善だ。しかし、まだ神亀会でもない人間が他の組の力を借りるのはまずい気がする。


「それに俺もお前に手伝ってほしいことあるし。」

「手伝ってほしいこと…?」

「お前が力を借りたい人材があるように、俺にも借りたい人材があるんだよ。それにこれは組織は関係ない俺やお前個人間での取引だ。この部屋に入ってから音声は録音してるし、この話が終わったらこの音声データも渡すから嘘はつかねぇ。」


譲之助の言葉に暫く考えた春麗は口を開いた。

「わかった。まずは互いの状況を聞いて、そこから手伝えるか判断しよう。協力するかはその内容次第ってことで。もちろん聞いた内容は絶対に誰にも漏らさないこと。」

「いいね。そうこなきゃな。」


そうして二人は互いの状況と手伝ってほしいことを打ち明けることにした。

春麗としても神亀会の許可もなくこういった行動をすることは良くないと重々承知しているが、何かあった場合は自分で全て責任を負うことにする覚悟はある。青龍に迷惑がかかる可能性はあるが…。

どうしても早く唯人を助けたい。その一心だ。






「…なるほどな。」

春麗の話を聞いた譲之助が言う。


「その問題案外簡単に解決できそうだぞ。」

「え!?」

私がこんなにも困っているっていうのに…簡単に解決!?


「あのフウカっていうおばさんは元は鳳凰会の幹部の愛人でもあったんだ。で、その幹部から店をもらって、あのクラブを経営してた。でも、何度も浮気されたみたいで幹部は店とともにフウカから手を引くことにした。でも、フウカが売上の一部を上納するかわりに店だけは残してほしいって泣きついてきたから、最後の情けで店はフウカにやって毎月鳳凰会に売上の一部を振り込ませてる。」

譲之助はさらりと言うが、春麗は開いた口が塞がらない。国内有数のヤクザの組長を夫にしたり幹部を愛人にしたりと心臓が鋼でできているようだ。しかも裏切りを繰り返して…。


「あははっ、とんでもねぇ女だよな。最初は大人しく上納してたけど、ここ数か月金払いが少なくてな。それを調査するために俺が何度かあの店に来てたんだが、やっぱりフウカが売上金を低く報告して、上納金も減らしてるみたいだ。」


「その幹部の人がジョーに調べるよう言ったの?」

譲之助が店に来ている理由はわかったが、それが唯人救出にどう関係してくるのだろうか。


「いや、俺が鳳凰会の帳簿を見て個人的に動いてる。その幹部のおっさんはよく世話になってるし、舐めた真似されんのは腹立つんだよ。あちこちで悪さしてるみたいだし、そろそろ焼き入れとこうと思ってな。」

そう言う譲之助からは怒りがにじみ出ていた。


「この数日内にフウカを逃げれねぇように捕まえて、尋問するつもりだったんだ。」

「でも、彼女は半グレ集団と繋がってるから迂闊に手出せないんじゃないの?」

春麗もまさにそれで悩んでいるところだ。譲之助が個人で動いているのであれば、あの暴力的な集団に殴り込みをかけるのは難しいのではないだろうか。


「あんな数だけ集めた烏合の衆なんて相手にもなんねぇよ。俺個人で動かせる男ども数人で制圧できる。」

流石武闘派である鳳凰会だ。個々人の戦闘能力も高いらしい。


「店が終わった後にフウカだけ残った時間を見計らって店に突入する。そうなるとフウカは絶対に別場所で待機してる半グレ集団を呼びつけるはずだから、その隙に亀井唯人を救出しろ。亀井唯人のことはいけ好かねぇが、今回は春麗に借りを返すことを優先してやるよ。」



譲之助の話を聞いた春麗は素早く鞄に手を伸ばし、ペン太くんのマスコットキーホルダーを眼前のテーブルに置いた。

「こ、これは…!」

マスコットを見た譲之助が信じられないという表情をして声を震わせた。


「そう…これは幻のペン太君マスコットサーフィンバージョン!私の宝物よ!」

春麗が自慢げに言う。

このマスコットは春麗が何件もプレゼント応募メールを出して苦労して手に入れたこの世に五つしか存在しないペン太君マスコットだ。


「ふっ…お前のしたいことはわかったぜ。それなら俺はこれだぁっ!」

譲之助がジャケットから出したのは神々しく光るペン太君フィギアゴールドバージョンだった。これも春麗のものと同じくらい貴重で、アニメ内でペン太君が登場した際に特別に作られたフィギアである。


「この光はっ…ゴールデンペン太君!」

まさか生きているうちに実物を見ることができるとは!

思ってもみなかったペン太君の登場に春麗の興奮は抑えきれない。


「そっちも本気のようね…。」

「あぁ、これが誠意ってもんだろう。」

二人は真面目な顔でそう言うと互いのペン太君を交換した。春麗がペン太君フィギアを、譲之助がペン太君マスコットを受け取る。


「このペン太君は人質よ。お互い裏切ったらもうペン太君は戻ってこないから覚悟しておいて。」

「のぞむところだ。お互い大切なペン太君を守りたければ、自分の役割をきっちり果たすんだ。」


そして二人は固い握手を交わした。

こうして二人は期間限定でペン太君同盟を締結したのであった。

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