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唯一の春  作者: 兎田
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06資質<密かなる指令>

目を開くと見慣れない少し古びた白い天井が広がっている。


まだぼーっとした意識のまま春麗は周りを見る。

どこかの病院の一室にいるようで周りに人は居ない静寂だ。春麗の右腕の傷には包帯が巻かれており、点滴も処置されていた。


誰に助けてもらったのかはわからないが春麗は発見されて病院に運ばれたらしい。


今何時なの?唯人が誘拐されてどれくらい経った!?

春麗はベットの横に置いてある自分のスマートフォンを見つけすぐに手に取る。まだ右腕に痛みを感じるがそんな弱気なことを言っている場合ではない。


時間を見ると十九時を過ぎた頃だった。

唯人が誘拐されて大体6時間が経ったのか…。


春麗のスマートフォンには何件のからのメッセージが来ている。

春麗がメッセージを確認していると、病室のドアのノック音が聞こえた。


「春麗さん、気が付いたんですね!?」

やってきたのは佐原であった。佐原は心配そうな表情を携えている。手には何か買ってきたのか紙袋やレジ袋を持っている。


どうやら佐原が春麗を見つけてくれたらしい。

身内に見つけてもらったのは不幸中の幸いだな…。



「助けてくれてありがとう。山田君はどうなった?状況は?」

「春麗さんの的確な指示のおかげで追跡は出来ています。若がどこにいるのかもわかってはいるんですが、迂闊に手を出せないので今は山田がその場所の近くで見張ってる感じっすね。」

「そう…無事ならよかった。佐原君もあの連絡きた?」

春麗が先程まで確認していたメッセージの画面を見せて言う。


「はい、オヤジが送ってきたものっすね。」

現在仕事の関係で日本にいない神亀会会長である唯人の父親から初めて連絡を受け取った春麗。そこには衝撃的な内容が書かれていた。


「オヤジはすぐに帰国できないので、若奪還をこっちに一任するみたいっす。ただ問題が…」

佐原は神妙な顔をしている。


「神亀会の中に複数の裏切者がいるんだね。」

春麗も声を落として言った。

今回の事件は神亀会の組員の中に数人内通者がいるので慎重に行動しなければいけないというものだった。誰かが神亀会の内部情報を外部に漏らしているらしい。以前からその状況は理解していたらしいが、内通者の特定が出来ずにいたらしい。結果、唯人が誘拐されてしまった。


「はい。内通者の方はオヤジが指名した信頼できる幹部や組員が探すように言われています。ただ、若の救出に関しては信用できる人が誰かわからないので、春麗さんや山田と俺にやってほしいと。春麗さんは大怪我してるみたいですし出来るだけ俺だけで対処できたらと思ってます。」


「…誘拐犯についてわかってる情報はあるの?」

怪我をしている自分がでしゃばることで逆に唯人を助ける障害になってしまうかもしれない。まずは状況の確認をして自分が役に立てるかを把握しなければ。


「はい。若を誘拐したのは母親ですね。」

「ん?…母親!?」

驚きの声を出す春麗。

犯人がまさかの血縁者だとは思わなかった。それにこれまで母親の話を聞いたことがなかったので、触れてはいけない事情があるのかと思っていた。


「はい…若が幼いときに離婚をしているのですが…少し奔放な方でして…」

「え?浮気とかそっち系?」

「はい、神亀会の人間や敵対する組の人間とも逢瀬を重ねることが多々あったのでオヤジに離婚を言い渡されたんです。」

「おぉ…」

なんと言って良いかわからない春麗からは変な声が出る。

そんな人が母親であるなんて唯人も苦労したに違いない。


「離婚された後は他の組長の愛人になって、その人に支援してもらって店を経営していたみたいっす。」

「そんな人が何で今更唯人に接触してきたの?」

「詳しいことはわからないんですが、上納しなきゃいけない店の売上をくすねてたみたいでその組長にも見放されたみたいです。それでお金に困った母親が唯人にお金をせびった感じで…」

「…。」

母親のあまりのクズっぷりに春麗は言葉を失う。

裏社会には厚顔無恥であり得ない行動をする人は多くいるが、実際に近場でそんな人を見るとは。


「もちろん若は断ったっす。でも…」

「それが気に食わなくて唯人を誘拐したのね。でも、話を聞いているとその女の人は神亀会や他の組からも嫌われてるよね?どうやって唯人を誘拐したんだろう。結構な人数が唯人のことを連れ去って言ったけど。」

裏社会では情報が回るのがとても早い。母親の悪行は知れ渡っているはずだ。やすやすと組の者が手伝うとは思えない。


「いわゆる半グレ集団って呼ばれる奴らに依頼したらしいっす。金で雇われたのか、もしくは神亀会の跡取りを誘拐したとなると箔がつくので協力したのか…。」

「なるほど。」

春麗は考え込む。

確かに春麗が銃撃を受けた際もちぐはぐで統率があまりなっていなかった。人が多いあの場で銃撃をするのは完全に失敗だし、手慣れたプロがする行動ではない。


「…組の中で私はどういう状況って伝わってるの?」

普通であればリスクを犯してまで病院には連れて来ず、神亀家内に医師を呼ぶなどでして対処するはずだ。それをわざわざ古びた病院にまで連れてきて、佐原しか見舞いに来ないのには理由があるのだろう。


「春麗さんはオヤジの命令で若と一緒に誘拐されたってことになってます。本当のことを知るのは俺と山田だけっす。」

「神亀会の中でも誰を信じていいかわからないから私を隠したんだね。そうすることで私は神亀会の監視を逃れるから動きやすい。」

まだ唯人が誘拐されてそんなに時間が経っていないのに流石は神亀会会長の采配だ。


「本当に申し訳ないっす。」

不甲斐なさから頭を下げる佐原。


「いいのいいの!どうせこんな状況でじっとしてられないし。むしろ神亀会の目がない方が動きやすいよ!」

「ありがとうございます。いつも春麗さんの漢気には感心させられます!」

「漢気って…。」

苦笑いする春麗。


でも大体状況は把握できた。

神亀会内部の裏切り者の対処は他の人に任せておけば良いみたいだし、春麗達は唯人救出に集中すれば良い。


「唯人は母親の店にいるんだっけ?」

「はい、繁華街で高級クラブを経営してます。ビルのフロア二つを所有していて、一つは店でもう片方のフロアに若がいるはずです。」


「ふむ…その半グレ達の戦闘力は?」

「荒くれ者の集まりなのでチームワークは良くないっすね。ただ見境や矜持なくどこでも誰にでも暴力を振るうので不安定で危険です。」

「刺激するとあまり良くないのか…。」

無理に救出に向かうと唯人を人質にしたり酷い場合は殺されてしまうかもしれない。春麗への銃撃もそうだったが衝動的な行動があると予想が付かないので相手にするのは大変そうだ。


「佐原君は唯人の母親に顔バレしてるんだよね?山田君は?」

「俺は面識があるんで近付けないっすね。山田は直接の面識はないですが、長い間神亀にいるので内通者が情報を漏らしている場合があります。」


「なるほど…私はバレてる可能性ある?」

「うーん…ないとは言えませんが可能性は低いかと。内通者もボロを出さないようにかなり慎重に動いているので、こっちの情報を渡す頻度は年に数回とかみたいっす。それに春麗さんはまだ婚約者ですらないので確定するまでは報告はされないと思います。」

内通者も自身を守るためにも慎重かつ確定した情報を受け渡しするようにしているということか。


「会長が何故私を指名したのかわかったよ。まずは情報収集をするためにも私がそのクラブに潜入した方が良さそうだね。」

「それはそうですけど…怪我もしているので心配ですよ。」

「少し動きは制限されるけど大丈夫。性格的にもじっと出来るタイプじゃないし、後手に回る前に動き出そう。あ、痛み止めも大量に準備よろしく。」

春麗はニカッと笑って言った。


銃撃は受けたものの弾丸は綺麗に貫通していたのが運が良かった。母国にいるときも青龍ボスの愛娘ということで何度か暴力沙汰に巻き込まれたこともあったが、そのたびに修羅場をくぐり抜けてきた。唯人を助けるためには顔が割れていない女性がクラブに潜入するのが最適だし、春麗程戦闘能力の高い女性もなかなかいない。小柄なこともありか弱く見られがちだし丁度良いだろう。

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