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唯一の春  作者: 兎田
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06資質<誘拐>

唯人の父親であり亀井会会長が帰国する日が近づいてきたある日、春麗は唯人や山田とともに街へ遊びに来ていた。特に目的があって来たわけではないのだが、忙しい唯人に少し空き時間が出来たので気分転換にやってきたのだ。


「この近くの公園で屋台祭りってのがやってるみたいっす。色々なフードやスイーツがあるって。」

山田がスマホを見ながら教えてくれる。

その言葉で食いしん坊ハムスターの春麗は目を輝かせる。


「よし、そこに行こうか、ちょうど昼食時だし。」

唯人はそんな春麗を微笑ましく見つめる。

いつもは春麗に気に入られて腹立つ山田だが、たまには良いこともするようだ。


平日ということもあって屋台フェスはそこそこの人数で賑わっていた。園内に設置されているテーブルはほぼ満席であるが、これくらいの混み具合だと食事も楽しめそうである。


「じゃあ俺は飲み物買ってくるっす。」

席を確保するやいなや山田はすぐに飲み物を買いに行ってしまう。


「じゃあ俺は食べ物買ってくるよ。何が良い?」

「串焼きと肉巻きおにぎり!」

春麗が間髪入れずに答える。席を探している間もずっとそっちのけで屋台を見ていたのでもう食べたい物は決まっている。


「あはは、了解。じゃあ春ちゃんはここで席の確保して待っててね。」

唯人は春麗の頭をぽんぽんとすると屋台の方へと向かって行った。

学生時代は春麗が唯人の世話をしているつもりだったのだが、再会してからは春麗の方が子ども扱いをされている気がする。


春麗がわくわくとした気分で待っていると山田が先に戻って来た。

「お待たせしました!若は食べ物買いに行ったんすか?」

山田がテーブルにジュースやビールを置く。


「うん、あそこの屋台の肉巻きおにぎりを…ってあれ?」

春麗が首をかしげる。

先程まで肉巻きおにぎりの屋台に並ぶ唯人の背中を確認出来ていたのだが今はその姿が見れない。


肉巻きは買い終えて串焼きの屋台へ行ったのだろうか…。

串焼きの屋台の方も見るが唯人の姿はない。


「他のものでも買いに行ったんですかね?」

「そうかも。少し待ってみようか。」

そう答える春麗だが、何だか嫌な予感がする。

この正体不明の胸騒ぎは何だろう。




十分程待っても唯人は戻って来ない。何度かスマートフォンに連絡をしたが唯人が出ることはなかった。

買ってきたビールの泡もすっかりと消えてしまっていた。


「俺探してくるっす!」

「私も探すよ。手分けして探そう!」

二人は勢いよく立ち上がると唯人を探すために公園内に散った。


山田と違う方向を探す春麗、しかし会場に唯人の姿は見えない。

もしや会場を離れてしまった…?何故?


春麗は公園に隣接する雑居ビルの方へ行ってみることにする。


ガシャッ

バサササ

何か争うような音をかすかに聞いた春麗。ビルとビルの間の細い路地から音がしたようだ。

音の近くへとやってくると春麗は身を隠しつつ薄暗い路地を覗き見る。


「…!」

春麗はその光景を見て目を見開いた。

柄の悪い複数の男が唯人を囲んでいたのだ。唯人は薬品を吸ったのかぐったりとして動く気配はない。


どうしよう…!

すぐに助けに行きたいけど、さすがにあの人数相手だと自分も返り討ちにされる可能性が高い。せめて山田君を早くここに呼ばないと…。


ガサッ

春麗がスマートフォンで山田に連絡をしようとしたとき、不注意で近くにあったゴミ袋にぶつかってしまう。


ヤバい!


「誰だっ!?」

プシュッ…

声と同時にサイレンサー付きの銃が撃たれる。


「う゛っ…」

春麗は急いで身を壁に隠したものの避けきることができずに右腕に命中してしまった。

じんじんと痛みが広がり熱が帯びていく。


「おいっ!確認してから撃てよ!」

「一般人で警察呼ばれたらどうすんだ!?」

路地から慌てた声が聞こえて来る。


早く逃げないと自分まで捕まってしまう…何故かすぐにはこちらに来る気配はないので今のうちに…。


「早くここをずらかるぞ!」

バタバタとした走る音が次第に小さくなっていく。


どうやらこちらには来ないようだ。

春麗は動かせない右腕の傷にハンカチを当て止血をしながら小走りでその場を離れる。幸い周りに人がないので大騒ぎにはなっていない。

しかし、多く出血したせいか意識を朦朧としてくる。




「姐さん!?」

倒れ込む春麗の元に山田がやってくる。


「どうしたんすか!?」

「私は良いからっ、そ、そこの路地に行って。唯人がっ…人数が多すぎて一人では対処できないからっ…山田君はアイツらの跡をこっそり追跡して。」


「若が!?でも姐さんをこのままになんてっ…」

「いいの!私は佐原君を呼ぶから早く行って!」


「くそっ…ご無事でいてください!」

山田は苦虫を噛み潰したかのような表情をすると、春麗の指示通り路地の方へと向かって行った。


私もどこかに身を隠さなきゃ…一般人にこんな姿を見られたら通報されて身動きが取り辛くなってしまう。

唯人は気絶させられた以外は大きな外傷はないように見えた。誘拐された唯人自身が必要な理由があるのだろう。すぐに唯人に危害は加えられないとは思うが、早く対処しなければ。山田君だけの追跡にも限界があるはずだ。


春麗は佐原に連絡をすると同時に意識を手放してしまった。

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