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唯一の春  作者: 兎田
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05亀井家跡取りの嫁候補<慣れないお姿>

春麗が亀井家に来て数日が経ってもまだ家の中は混乱していた。

何度見ても春麗に対する唯人の態度に慣れないのだ。

春麗の前では素顔である冷徹な姿は見せず、そのうえ春麗には暴力的な内容は絶対に知られないように箝口令が敷かれている。


春麗本人も中国マフィアの関係者とは思えない程普通の女の子にしか見えない。

基本的に食事は二人一緒に取り、唯人が仕事の間は春麗は執務室に遊びに来たり自室で大人しくしたりしている。春麗は外に出たがっているようだが、まだ警備体制が整っていないうえに亀井会組員の春麗に対する評価は不安定なので危険に晒してしまう可能性が高いからだ。



その日も春麗は唯人の執務室に遊びに来ていた。

ドアのノック音とともに春麗がひょっこりと顔を出す。

「佐原君に頼んでケーキ買ってきてもらったんだ~!」

明るく言う春麗の手にはケーキの入った箱がある。


部屋の中では緊張感が漂う。


そんな中で顔をしかめているのが山田だった。

この女、佐原さんを使いっぱしりにするなんて‼

亀井会の中で唯人は若くして幹部になってホープで、佐原もそんな唯人を支える重要な人材だ。春麗が来る前までは唯人はいつも冷徹で誰も近付けない威厳があった。そんな唯人を尊敬していたので春麗が来て唯人がおかしくなってしまったのだ。そういった考えを持つ者は山田だけではなく他にも多くいる。


「昔よく行ってたケーキ屋さんがまだあったから、それを佐原君に話したら買ってきてくれたの!唯人も休憩がてら食べよう!」

そう言って春麗は唯人のデスクにお皿を置き、その上にモンブランを置いた。


それを見た山田が制止しようとする。

「若は甘い物がきらっ…」

「ありがとう。ちょうど小腹減ってたんだよね。」

しかし、唯人は山田を睨みつけ言葉を遮る。気分は蛇に睨まれた鼠だ。


「もちろん皆さんの分もありますよ!」

唯人のピリッとした空気に気付かない春麗は次々と男たちの前にケーキを置いていく。


「俺はいらないです。」

春麗のせいで怒られた山田はそう言ってそっぽを向いてしまった。


しかし、そんな態度を唯人が許すはずがない。

「てめぇ…」


「甘いの嫌いでした?じゃあ私が二つ食べちゃおう‼」

地を這うような低い唯人の声を遮ったのは春麗だ。

春麗は山田の前に置いたケーキを持つとドアの方へ行く。

「お仕事の邪魔しちゃ悪いし私は自分の部屋で食べるね!皆さん、お仕事頑張って~!」

春麗はそう言うと嵐のように去ってしまった。


ドアが閉まると同時に重い空気が流れる。


ドカァッ

ガッシャーン

山田の腹に重い蹴りがお見舞いされ、山田はデスクの物をなぎ倒して吹き飛ばされた。


「ゴホッ…」

声も出せずむせる山田。


「春ちゃんに失礼な態度取るなって言ったよな?」

「で、でも…‼」

納得のいかない山田はまだ唯人に反論しようとする。


「もう一発殴られないとわかんねぇみたいだな。」

キレた表情をした唯人が拳を握りしめ山田を殴ろうとしたとき

コンコンッ

またもやドアのノック音がする。


ピタリと止まる唯人の身体。


「ごめん!フォーク渡すの忘れてた!」

ドアから顔を出す春麗。

春麗の位置からはちょうど倒れ込む山田の姿が見えない。


唯人はすぐに拳を収めてニコリと笑った。

「ありがとう。ちょうどフォーク取りに行こうかと思ってたんだよ。そいつに渡しておいてくれる?」

優しい声の唯人はドア近くにいた部下を指差す。


それを聞いた春麗も素直にその男にフォークを渡した。


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