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あじさい色のアミィ~永久に枯れない花束を~  作者: ゴサク
二章 笑わないアンドロイド
14/23

分断

 準備が整い、九喜先生によるアミィへの処置が始まった。まずはアミィの症状についての再確認、メールを送った後に発覚した挙動についても含めて、情報の共有を行った。

 共有とは言っても、俺やアミィが思い付いたことを、九喜先生が頷きながら、口を極力挟まないようにしながら聞いてくれるだけではあったんだけど。


 一通りそれが済むと、九喜先生はアミィにいくつかの動作を指示する。瞬きや口の開閉から始まって、前屈や屈伸、背伸び、上体反らしといった軽い体操のような動作を、九喜先生は真剣そのものの目付きで観察する。


 そして、再び丸椅子にアミィを座らせて、九喜先生はアミィの目にライトを照射したり、舌をヘラで押さえながら喉の奥を診る。

 初めはもっとメカメカしい器具が出てくるもんだとばかり思ってたけど、アンドロイドも人間と同じような処置をするもんなんだな。


「ま、ひとまずはこんなもんかなあ。現時点では、基本的な動作には異常は見られないし、響君が言っていたような、突発的な反応消失のような挙動も無さそうだね」


 九喜先生の言う通り、アミィの様子は普段と全く変わらない。とは言っても、そもそもアミィの意識が飛ぶ瞬間を見たことがある訳じゃないから、その違いは俺にも解らないんだけど。


「やっぱり、これはもう少し詳しくアミィちゃんの頭ん中を調べないとだね。そんじゃあテレサちゃん、ギアの準備お願~い」


「了解致しました。準備が完了しましたらお呼び致しますので、少々お待ち下さい」


 そう言って、テレサさんは診察室の隣の部屋に入っていった。そして、九喜先生は俺とアミィにこれから何をするのかを説明を始める。


「テレサちゃんの準備が終わったら、アミィちゃんの思考処理パターンのサンプルを取らせてもらいたいんだけど、それにはアンドロイドの持ち主の同意がいるんだよね」


 さっきまでとは違って、いよいよ治療が機械的な領域に入ってくるようだ。今の話だと、まだアミィに何をするのかイマイチ解らない。


「その『思考処理パターン』っていうのは、もしかして、アミィの考えていることが解ったりするもんなんですかね?」


「ええっ!? あの、それはちょっと、私も、あの、さすがに、恥ずかしいといいますか……」


 今の話に対する俺の解釈を聞いたアミィは、頬に手を当てて顔を赤くしている。正直、今のアミィがどんなことを考えているかを知りたくもあるけど、それはそれ、これはこれだ。


「ハッハッハッ! そんなこと無理だって! な~に、ちょっと話をしながらアミィちゃんの頭の中で発生する反応のパターンを見るだけ、アミィちゃんのプライバシーを覗いたりなんか絶対にしないしない! そこは二人共、安心してくれて大丈夫だからっ!」


 まあ、冷静に考えれば、そんなことが出来たらそれはそれで問題だよな。だったら、ここは九喜先生の提案に従おうか。

 いや、俺はいいとしても、アミィはそれでもイヤかもしれないよな。ここはアミィの気持ちを最優先でいこう。


「だってさ、アミィ。俺は九喜先生に任せてもいいと思うんだけど、アミィはどうだい?」


 俺がアミィにそう言うと、アミィは少しだけ間を置いて、九喜先生に自分の意思を伝える。


「九喜先生がそう仰るのなら、私からもお願いさせて頂きます。正直に言うと、それでもちょっぴり恥ずかしいのですが……」


「ハッハッハッ! いいねえ、素直で。響君がアミィちゃんにお熱なのも納得納得。大丈夫、もし途中で止めたくなった止めてもいいし、その時に採ったデータは責任持って完全に破棄するからさ!」


 よし、アミィの同意も取れて、これで一安心だ。俺は九喜先生から渡された同意書をじっくり読んで署名する。必要無いとは言われたけど、欄外にアミィ自身によるサインも添える。


「こちらは準備完了致しました。お二人からの同意は頂けましたか?」


「うん、ちょうど済んだところだよ。それじゃあ、早速、始めようか。テレサちゃん、アミィちゃんのこと、お願いね」


「畏まりました。それでは、アミィ様はこちららへどうぞ」


「それじゃあ、行こっか、アミィ」


「ハイッ!」


 アミィが丸椅子から立ち上がるのと同時に、俺もアミィと一緒にテレサさんに付いていこうと立ち上がろうとする。しかし、そんな俺を九喜先生が制止した。


「いや、響君はここに残ってよ。ここからの治療は個別にやるからさ」


 ちょっと待った、そんな話は聞いてないぞ。テレサさんがアミィに何かするとは思わないけど、逆に、これまでの様子じゃアミィが何をするのかも解ったもんじゃない。


「さ、アミィ様、お早く」


「あの、待ってください、ご、ご主人様っ!」


 事態が飲み込めていないアミィに構わず、あくまで事務的にアミィをどこかに連れていこうとするテレサさん。


「ちょっ、そんな、アミィっ!」


 俺は九喜先生の制止を無視してアミィに付き添おうと腰を上げる。すると九喜先生がさっきより強めの口調で呼び止める。


「大丈夫だって、響君。それに、君はさっき同意書にサインしたでしょ? 駄目だよ、ああいった書類はちゃんと読まないとさ」


「そんなこと! ちょっと見せてくださいっ!」


 俺が九喜先生の手から同意書をひったくると、確かにそんな記載があった。決して小さくはない記述、ただ、俺が見逃していただけの話。

 もしかして、俺もアミィも騙されていたのか? そんな考えが頭によぎるなか、九喜先生が俺の肩を叩きながら言った。


「落ち着きなって! こうするのにはちゃんとした理由があるんだ。だから、まずは座った座ったっ!」


 九喜先生の言葉に促されて、俺は浮いていた腰を丸椅子に戻す。そして、アミィはテレサさんに手を引かれて、廊下へと消えていく。

 こうして、診察室には俺と九喜先生、隣の部屋にはアミィとテレサさんのマンツーマン状態になった。九喜先生の意図が解らない俺は、九喜先生が口を開くのを待つしかなかった。

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