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あじさい色のアミィ~永久に枯れない花束を~  作者: ゴサク
一章 アミィとの出逢い
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はじめまして! アミィです!

 今日、俺は時間が無駄に消費されるだけの退屈な人生からようやく解放される。何故なら、もうすぐ俺の元に救いの女神がやって来るからだ。


 正確には、俺自身がその女神を呼んだんだ。勿論、異世界ファンタジーみたいに、魔法陣や召喚魔法を使ったりとかじゃなくて、もっと現実的で、在り来たりな方法で。


 そう、実際のところはただ注文した品物が届くのを玄関で待っているだけ。それでも、これから俺の元にやって来る()()は、俺の人生に彩りを与えてくれるのは確かだ。

 それこそ、これまでマンガやゲームでしか触れられなかった俺の理想を叶えてくれるんだから、気も逸るってもんだ。


 そんな浮わついた気分で玄関でウロウロしていると、ついに運命の呼び鈴が鳴り、それとほぼ同時に俺は勢いよくドアを開けた。

 素早い反応とその勢いに、宅配の運ちゃんも驚いていたけど、今の俺にそれに構う余裕はない。


 そして、俺と運ちゃんで運ばれてきた大きな品物を慎重に玄関へと搬入し、仕事を済ませた運ちゃんを見送って、再び玄関には俺ひとり。

 さて、これからの時間は待ちに待った至福の時間だ。まずは、この段ボールをリビングまで持っていかないと。


 俺は運ばれてきた縦長の大きな段ボールを、衝撃を与えないないようにリビングまで運び、ゆっくりとフローリングの上に置いた。さあ、いよいよだぞ。


「さて、それでは、これより開封の儀に入ります」


 俺は自分しかいない部屋で、特に意味のない宣言をしながら、段ボールを継ぎ目に合わせてカッターナイフを入れる。

 当然、中身を傷付けないように、慎重に、慎重に、慎重に。そして、ついやってきた対面の時、俺のテンションはかつてない程高まっていた。

 

 そして、キレイに切断された段ボールを観音開きにする。すると、そこには真っ白な緩衝材に包まれた少女が横たわっていた。その姿はまるで純白の雪の中で静かに眠っているようだ。


 そう、これが俺の元にやって来た女神、俺の趣味を存分に注ぎ込んだ、少女型のアンドロイドだ。


「……美しい」


 無意識に声が出るほど、そのアンドロイドの姿は俺の心を鷲掴みにした。まず、おかっぱボブの髪だ。

 その明るく煌めく髪は、地中海のオーシャンブルーを思わせる。実際、髪の毛はグラスファイバー製だから、やや透明感があるのも頷ける。


 そして、その頭の上に乗っているヘッドブリムこそが、ある意味もっとも重要な要素、俺の理想、夢、願望の象徴。

 そう、俺が大枚を叩いて喚んだのは、自分の理想のメイドさん。ごく一部を除いて絶滅してしまったであろう、遠い過去の住人。

 

 そんな理想も、精巧なアンドロイドが普及した現代なら、こうして叶えることが出来るのだから、本当にいい時代になったもんだ。


 勿論、身に付けている服も、黒のワンピースに白いエプロン。エプロンには『これでもか』と言わんばかりに施されたフリフリのフリル。

 王道にして原点、なおかつ頂点のロングスカートのクラシカルスタイル。俺が思い描くメイドさんのイメージそのままだ。


 身長は140センチくらい、スタイルは決して自己を主張しない慎ましサイズ。これはメイドさん云々と言うよりは俺の好みだ。

 『大は小を兼ねる』なんて言葉もあるけど、ことスタイルに関して言えばそれは当てはまらない、小にしかない魅力は間違いなく存在するのだ。


 ちなみに、メイドさんのスリーサイズはバスト72、ウエスト52、ヒップ77。この数字の出展については、あまりにマニアックだからここでは伏せる。


 メイド服を纏うそのメイドさんの肌は、段ボールに詰まっている緩衝材に負けないほど白く、そのきめ細かさといったらまるで眠りに落ちた白雪姫、触ってしまったら雪のように溶けてしまいそうだ。


 何も言うことはない、完璧な仕事だ。俺の希望を細部まで反映した、世界に一台、俺だけのオーダーメイド。

 嗚呼、このまま抱き上げて抱き締めたい。サラサラの髪を優しくなで回したい。なんならそのまま昇天してもいい。


 いや、焦るんじゃない、まだお楽しみは半分だ。とはいえ、横たわっているメイドさんを眺めるだけでこれなら、メイドさんが目覚めたらどうなってしまうのだろう。


 高鳴る鼓動を感じながら、俺は緩衝材の上に置かれた取扱い説明書を広げる。とにかく、まずは起動させないと。俺は取扱い説明書をパラパラとめくる。


「え~っと、取り敢えず、起動方法はっと……」


 取扱い説明書をめくり始めてほんの数ページ、一番始めにやることなだけに、すぐに目当ての記述を見つた。


『起動スイッチはみぞおちにありますので、ご主人様の手で目覚めさせてあげてください。もちろん、スイッチを押す際は優しく、ですよっ!』


 なかなか解ってらっしゃる。顧客の用途に合わせてわざわざ文言を変えているであろうこの記述。こういった細かい心配りは有り難いもんだ。


「さて、それじゃあ失礼して……と」


 俺はメイドさんを起こすために、メイドさんににじり寄る。メイドさんに顔を近づけると、ほのかにバニラとミントを混ぜたような清涼感溢れる香りがした。そして、メイドさんの服の下をまさぐる手からは、もっちりとしつつ、すべすべとした手触りを感じることができた。


 それにしても、アンドロイドとはいえ、ここまで女の子の近くに顔を近づける機会なんて無かったし、ましてや、服の下をまさぐるなんて生まれて初めてなもんだから、新鮮な感覚にちょっとドキドキしてしまう。


 というか、スイッチを押すだけなら服の上からでもよかったんじゃないか? そのことに気付いた俺は、自分の煩悩に呆れつつ、スイッチの在処を探る。


 そして、起動スイッチを探り当てた俺は、説明書通りに優しく押下する。すると、甲高い起動音と共に、メイドさんが目をゆっくりと開いた。

 俺の目に写るのは、瞳に深いブルーをたたえた、くりっとした大きな目。サファイアをはめ込んだようなその瞳を見て、宝石の輝きに惹かれるのと同じような感覚に陥った。


「よいっしょっと!」


 開口一番、メイドさんはそう言って、段ボールから体を起こし、二本足で立ち上がり、体に付着した緩衝材を払い終え、こちらを向いてニッコリと笑いながら言葉を発した。 


「はじめまして、ご主人様っ! 私は『MID-0796型 アミィ』と申しますっ!」


 メイドさんの淡いピンク色の唇から発せられるその声は、大量のサンプルボイスから選び抜いた、甘えるようなソプラノボイス。

 これからは、この声で毎朝起こしてもらえるのと考えるだけで、耳が幸せでとろけてしまいそうだ。


「この度は、私を召し抱えて下さり、誠にありがとうございます。それでは、まずはご主人様のお名前を教えてくださいますか?」


 容姿、声、瞳、そしてなにより、俺に名前を訪ねるその笑顔は、俺の全てを停めてしまった。全てが自分の理想、こんなの、反則だ。


「あの、ご主人、様?」


「あ、ああ。名前、名前ね……」


 小首をかしげながら、固まっていた俺を不思議そうに見つめるメイドさん。まだちょっと頭の中がハッキリしないけど、早く答えてあげないと。


「俺の名前は(ひびき) 恭平(きょうへい)。よろしく、アミィ」


 俺はメイドさんから促された通りに名を名乗る。これで俺は正式に『ご主人様』になった訳だ。


「はいっ! これにて正式にユーザー登録完了しましたっ! これから末長くよろしくお願い致しますっ! ご主人様っ!」

 

 これが、俺と『一人目』のアミィとのファーストコンタクト。ひとまず、主人とメイドとしての契約を結んだ瞬間。


 さあ、今日が俺の人生の再スタートだ。俺は目の前に笑顔で立つアミィを眺めながら、これから始まるアミィとの共同生活に希望を膨らませた。

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