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第五話

「危ない!!」


 思い切り服を引かれて後ろによろける。目の前を一台のトラックが通り過ぎていった。こんなこと最近もあったきがする。


「まこ姉ちゃん、赤信号だよ!!」


 青だったはずだ。しかし、言われるまま信号を見てみると、赤……

 私は茫然とその場に立ち尽くした。最近、こういったことが多い。疲れのせいだとしても、命にかかわる誤認が多すぎる。私はコータに向き直り、ひとまずお礼を言った。


「ごめん、ありがとう。うっかりしてたよ。気を付けないとね……」


「ほんとだよ! うっかりどころじゃないよ! もう少しで轢かれるところだったんだから!」


「ごめんごめん、気を付けるよ」


 私はコータとアパートまでの道を歩いた。コータに聞きたいことがあった。ずっと気になっていたことだった。


「ねぇコータ、この間一緒にお墓を作ったウサギの子って、もしかして私と同じ名前だった?」


「ちがうよ、ウサギの名前はポンっていうの。どうして?」


「ウサギのお墓にアイスの棒が刺さっていて、それに私と同じ名前が書いてあったんだけど、コータが刺したの?」


「知らないよ。アイスの棒なんて僕は見てないけど、誰かが刺したのかな?」


 コータ以外で私の名前とあの墓を知っている人物は思い当たらない。だが、コータがやったという証拠もないのだ。コータが知らないというのであれば、それ以上問い詰めるのもためらわれた。


 ただ一人、スーツ姿の男の顔が頭の隅にちらついた。


 アパートに着くと、コータは家に入っていった。その姿を見送り、私も2階へ向かった。階段を上がった踊り場にはスーツ姿の男が立っていた。後ろを向いているので誰かは分からないが、狭いスペースなので、私は遠慮しながら通り過ぎようとした。


 男が振り返る。


 あの、スーツ姿の男だった。霊園に一緒に行ったあの男。最近よく会うあの男。


 なぜここにいるのだろう……?


「こんにちは」


「……こんにちは」


「友人がこのアパートに住んでいて、今日は夕食を一緒に食べる予定だったのですが、早く来すぎてしまいました。彼が到着するまでここで待っているんです」


「そうですか……」


 私は軽く会釈をして急いで部屋に入った。この男とは関もうわりたくない。そう強く思った。



 最近よくない事が続いている。

 今日は早く寝よう。

 布団に入り、静かに目を閉じた。




「もうすぐ着きますよ」




 男の声で目を覚ます。


 私は混乱していた。ここはどこなのだろう? 周りを見回すと、あのスーツ姿の男が隣に座っていた。私は電車の中にいる。いよいよ訳が分からなくなった。これは夢? それとも現実? 車内放送が聞こえる。私の降りる駅だ!


 私は男には目もくれず、一目散に電車を降りた。アパートまでの道を駆け抜ける。今日が何日で、自分がどこからどうやって来たのかも分からない。それでも、早く家に帰りたかった。安心できる自分の居場所に、早く!


 アパートの木々が立ち並ぶ一角。スーツ姿のあの男が、ウサギの墓の前で手を合わせていた。私は恐ろしくなり、自宅に駆け込もうとした。ドアを開け、一歩踏み込む。


 しかし、その先に広がっていたのは、見慣れた広いホームだった。


 わけがわからない、私の家はどこ?


 とにかく帰らなければ! 電車を待つ。


 いつものホーム。音楽は聴かない。高鳴る心臓。


 電車が来た。


 私は電車に一歩踏み込もうとした。そうすれば家に帰れるはずなんだ!




 宙に浮く身体



 ――――――デジャブ



 目の前に大きな電車の車体。


 その先頭、運転席にはあの男。




 電車の轟音が耳をつんざいた。その瞬間、視界が真っ白に染まった。


 耳の奥で何かがつぶれる音がした。


 男がほっそりと笑っていた。




 あぁ、次はどこに行くのだろう……?


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