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015

翌朝、僕が率いるリョーマイケル伯爵家騎士団10名と魔法士のサイプレスは、父アスペラと母カマツに見送られて、要塞都市リョーマの東門を出発した。

お飾りではあるが隊長は僕で、副隊長はデーツ騎士団長だ。

いちおう、指揮系統はしっかりと定めておくのが規則らしいので、貴族の僕がトップとなった。

もっとも、何かあった際にはデーツの意見をよく聞くように言われている。

妹のキエノも見送りに来てくれた。


「ゼルコバよ、無事に返ってくるのだぞ」

「ゼル、フォレスティナ様の神託を果たすのですよ」

「ゼルお兄様、どうぞご無事で」


デーツ達騎士団は全員騎馬で、甲冑を身につけている。

背負った大きな盾が印象的だ。

僕とサイプレスには馬車が用意されていた。

この馬車は母カマツが貸与してくれたものだ。


「この馬車はリンゴの魔木から造られたもので、非常に強固です。魔物に襲われたとしても、この馬車の中にいれば危険はありません。さらに、馬車の後部には小型のバリスタが取り付けられており、走行しながら矢を放つことができます。ウィロウとアロウ、ゼルコバの身の回りの世話と御者を頼みます」


「はいな」

「お任せください」



ウィロウとアロウは双子の戦闘メイドだ。

姉のウィロウは陽気で活発、妹のアロウは冷静沈着という違いがある。


「二人ともよろしくね」

「若様の身の回りのお世話はお任せください」

「射撃はこのアロウにお任せを」


僕が挨拶すると、二人はかしこまってお辞儀を返した。

彼女らはレッドパイン侯爵家から出向しており、カマツの専属として常に母の警護を担当している。

今回は彼女らが特別に、僕たちの警護をしてくれることになった。

馬車は貴族仕様の最高級品で、密閉性も高く、明かり取りの窓を塞ぐとシェルターとなる。


家族に見送られて出発した僕たちは、アジュガローマに向けて移動を開始した。

街道は整備されており、馬車に乗っていれば良いので移動は快適である。


「さて坊主、さらに修行を進めるぞ」

「はい!よろしくお願いします」


御者は姉のウィロウで、後部のバリスタ射手には妹のアロウが着席しており、周囲の警戒をしていた。

車内は密室である。


「まず、この密室を使って、坊主の魔力回復についての理解を深めていきたいと思う。第四位階魔法【鑑定】を自分に対して使いつつ、魔力を消費しろ」


第四位階魔法【鑑定】

これは魔力を観測するありとあらゆる方法を示す。

【鑑定】の魔法を発動すると、これまで曖昧にしか感じとれなかった内在する魔力の増減を、より詳細に感知することができる。

応用すれば、物や人の【鑑定】も可能となる。

【鑑定】を使用しても、対象が自分であれば魔力消費はほとんどない。


「まず魔力を手のひらから放出し、【性質変化】で風に変化させます。さらに、【形質変化】で風を球状に変化させ、【念動】により操作します」

「よし、ここまででどの程度の魔力を消費したか言ってみろ」

「はい、魔力を消費している感覚はありません。減った分がすぐに補充されているようです」


馬車には明かり取りの窓から日光が差し込んでおり、僕の魔力は常に回復し続けているようだ。

「ほう、それではこれでどうだ」


サイプレスは窓を板で塞ぎ、馬車内部は暗闇に閉ざされた。

すると僕は途端に魔力が失われていく感覚を覚えた。


「魔力が失われていく感覚を感じます。僕の魔力容量が10だとすると、3の魔力を使って風球を維持しているようです」

「よろしい、魔法をさらに維持しろ」


サイプレスは懐中時計を見ながら、さらに魔法を使い続けるように指示した。

風球をさらに維持していくと、およそ1分ほどでさらに3の魔力を消費した。


「よし、そこまででストップだ。では次に腕だけ馬車の外に出してみろ」

「はい」


馬車の窓から腕を外に出すと、すぐに魔力は回復して10に戻る。


「これでよくわかったな。坊主の魔力容量は10で、暗闇条件下では魔力が回復しない。体の一部分でも日光に触れると、魔力はすぐに回復する」

「はい、ところで魔力容量10というのは少ないんでしょうか」

「坊主の魔力容量が10だとすると、俺の魔力容量は500だ。つまり、魔力容量が【極めて少ない】という評価は妥当だ」

「うわぁ、僕ってそんなに落ちこぼれなんだぁ……」

「まぁそう落ち込むな。お前には魔力が無限に回復するという特異体質があるだろうが」


【極めて少ない】と評価された僕の魔力の少なさが、改めて実感された。



「魔力容量が少ないというのが坊主の弱点だと言うことがわかったな。この場合、どのような対策を取る必要がある?」

「えっと、魔力を回復する手段を持っておくこと。つまり、魔力回復ポーションを常に身につけておく、とかでしょうか?」

「魔力を回復する手段を持っておく、と言うのは正解だが、魔力回復ポーションはおすすめできない。お前は戦闘中にいちいちポーションを飲むつもりか?」

「ですよね……」


魔力回復ポーションは高い。

そして、取り出して飲む、という動作が必ず必要となる。

お金がかかるというのはもちろんだが、そもそもいざという時にポーションを飲みながら戦うわけにもいかないだろう。


「そんな時にどうするか。高位の魔法士は魔力を蓄えておくための装備を身につけている」

「魔力を蓄えておける装備!?そんなものがあるのですか」

「ある。ただし、伝説級のアーティファクトや魔導書となる。泥棒爺が魔導書を手に入れようとしたのも、それが理由だ」


父の書斎から魔導書を盗み出したジッペリアナ老人は、犯罪を犯してまで魔導書を手に入れようとしたのだ。

それほどまでに貴重なのが、魔力を蓄えておける装備なのだろう。


「幸いなことに、お前は魔力を蓄える方法をすでに一つ持っている。さてそれは何か?」

「えっと、何でしょうか。父から魔導書を借りる、とか?」

「その右腕にへばりついて寝てるやつはどうなんだ?」


右腕にへばりついて寝てるやつ、魔球根のユリネだ。

そうか、テイムした魔球根に魔力をチャージしておいて、必要な時に返して貰えばいいんだ!

僕は思いついたことをさっそく試してみる。


「ユリネ、魔力を渡すから、後で僕に返してね」

「キュウ」


日光を浴びつつユリネに魔力を渡し、暗闇状態で再び魔法を発動させてみる。

すると、減った分の魔力がユリネから補充される感覚があった。


「おお!ユリネから魔力をもらうことができました!これで魔力切れの問題は解決できそうですね」

「よかったな。とにかくお前の弱点は魔力切れだ。昼間なら無敵、それはそれでいい。だが、俺が敵なら必ずお前が弱体化した時を狙う。調子がいい時の自分ではなく、不調な時の自分を想定して訓練を積むように」

「はい!」


ユリネから魔力をもらいつつ、僕はふと閃いた。

僕の第六位階魔法【樹木魔法】は、樹木に魔力を渡したり貰ったりすることができるらしい。

それでは、今移動で使用している馬車に魔力を蓄えておくことも可能かもしれない。


「サイプレスさん、馬車は木材で造られていますが、僕の固有魔法【樹木魔法】により、もしかすると馬車に魔力を蓄えることができるかもしれません」

「ほう、やってみろ」

「はい!」


僕は座席を通して馬車に魔力を込めていった。

すると、リンゴの魔木で造られた馬車はものすごい勢いで魔力を吸収していく。


「どの程度の魔力を込めたか【鑑定】してみよう。まずはユリネの魔力を測る」


サイプレスに言われた僕は、ユリネに込めた魔力量を【鑑定】した。


「ユリネに渡した魔力は、およそ100です」

「いいだろう、正解だ。馬車に込めた魔力はどうだ」


馬車に込めた魔力はなかなか満タンにならない。

3分ほどして、ようやくこれ以上魔力が蓄積しないようになった。


「馬車の魔力は、およそ1万です」

「(国宝級のアーティファクトの蓄積可能魔力が1万程度なんだが)」


サイプレスさんは無表情で固まっていた。

1万の魔力があれば結構戦えるんじゃないか。

そう思っていると、本日の野営地に到着したのであった。


「(若様とサイプレス様は密室で一体何を?)」

「(ナニって、やっぱアレしかないっしょ!)」


この時の僕は双子の戦闘メイドから、あらぬ誤解を受けていることに気が付いていなかった。




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