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裏切られ続ける男  作者: デギリ
9/9

最後の裏切りと最期に得た愛

リッジスはそれから、フランソワとアイザックの横暴で乱れた国の立て直しに全力を尽くす。

以前の執政時と違うのは、息のあった王妃ソフィアが隣りにいて、私邸に帰れば懐いている子供たちがいることだった。


(何でも相談ができる相手と息抜きができる場所があるのはありがたい。

今思えば以前に王位にあったときは国政もわからず、考えた施策にはフランソワに難癖をつけられて嫌気が差し、周囲に注意を払わずにディビットに譲位しようとした。

そこを野心のあるアイザック達に見透かされて謀反を起こされたのだ。

同じ過ちはもうするまい)


リッジスは部下を抜擢するときはよくよく観察し、ソフィアと相談して決めた。

流石に何度も裏切られ人を見抜く眼もできたのか、それとも保守的になり能力よりも忠誠心を重んじるようになったのか、リッジスが抜擢した者は忠誠を尽くした。


国政が落ち着くと、リッジスは後継者をどうするかで頭を痛めた。

家族であるオリバー、アメリアやノーランに拘る訳では無いが、他の者はどんぐりの背比べ。誰かを立てれば他の者は反発するだろう。


夜、ソフィアと向かい合って盃を傾けながら、リッジスは相談する。

「おれももう年だ。そろそろ後継者を考えねばならん。

どうすべきと思う?」


「ふっふっふ。

ビル、あなたの好きなように決めればいいわ。

あなたが立てた国だからどうしても文句をつける者はいないわよ」

ソフィアはそう言って躱す。

彼女も三人を育て、誰を推すとも言い難かった。


「でも正直なところ、あの子達でなければ国民は収まらないわね。

簒奪者による混乱を覚えているから、ビル、あなたとの関わりという正当性が欲しいのよ」


そのソフィアの言葉にリッジスは自嘲する。

「俺のあとは息子が継いで失敗したがな」


「あれは傀儡だし、あなたは認めていない。おまけにフランソワの子であってもあなたの子供か疑っている者が多かったわ。

今度はちゃんとあなたのお墨付きを与えることが大事よ」


「しかし誰にすべきか。

年長と男ということからはオリバー、俺の血を継いでいるのはノーラン、しかし一番政治家向きでやる気もあるのはアメリアだな」


悩むリッジスに、ソフィアは困ったような顔をして話しかける。

「アメリアと言えば、私に向かってこんな事を言ってきたわ。

ソフィアさん、私も大きくなったのでお父さんの妻をそろそろ代わってくださいだって。

あなたを育てた私のことはお母さんと呼びなさい!ビルの妻は譲らないわ!って叱りつけたけどね。

あの娘、ファザコンを拗らせているわよ」


「そんなことがあったのか…」

アメリアはディビット達が死んだ後、長い間怯えてリッジスからずっと離れなかった。成長してからも、リッジスに纏わりついてベッドに潜り込んで一緒に寝たりしていた。


「まあ麻疹のようなものだろう。

今に同年齢でいい男を見つけて、父離れするさ」

 

「それなら良いんだけど。

ノーランがアメリアのことを好きなようなの。

上手くいってくれると嬉しいのだけど」


後のことだが、アメリアはリッジスに向かって、愛している、結婚して欲しいと迫ってきてリッジスを悩ませることとなる。


いい時刻だと、二人は床に向かう。

同じベットに寝て手を繋ぐ。


リッジスは言う。

「ソフィア、お前といると落ち着くよ。本来の場所に落ち着いた気がする」


クスクスと笑いながらソフィアは答える。

「ビル、あなたが大手柄を立てる前、侍女から妻を与えようかという話があったのよ。その時、立候補した一人が私。あなたは優良物件と思われて、競争率が高かったわ。

その後の大戦功で王がマリー王女様を降嫁させると決めて、その話はなくなったのよ」


「俺が余計な手柄を立てなければ早くに嫁に来てたかもな」


「でも故郷に幼馴染みが待っていたのでしょう。

寝取られに気づかずに結婚してたかもね。

ここで一緒になったのも不思議な縁よ」


打てば響く心地よいやり取りをしてくれる。

今のリッジスにとって掛け替えのないのはこの妻だ。

もっとも無理を言って王妃となってもらった負い目もあり、リッジスには彼女も

そう思ってくれているか自信がない。


さて、リッジスは悩みに悩んだが、家臣の意見も聞き順当なところでオリバーが18歳となったのを機に彼を後継の王に指名し、アメリアとノーランにオリバーを補佐するように頼む。


そして、これを機会にリッジスはソフィアとともに、王都を離れた離宮に住まいを移し、政務をオリバー達に委ねる。

とは言え、まだ当分はリッジスが大御所として大きな方向には睨みをきかす。

そしてオリバーが十分に成長すれば全権を渡すつもりであった。


オリバーが新王として即位し、アメリアはその補佐役、ノーランは軍務に就く。

(上手くいってくれ)

リッジスは祈るような気持ちで離宮から見守る。


しかしながら、経験不足に加えて、名将にして救国の王と名高い養父リッジスの後継者としての気負いもあり、オリバーの政治は空回りしがちであった。


やむを得ずリッジスは明らかな問題が出てきたときはアメリアやノーランと連絡しながらソフィアとともに必要な介入を行うこととした。

一方で、それは大御所としてリッジスの存在感が依然大きいことを意味し、家臣や国民は何かあるとリッジスを頼りにした。


その状況に苛立ったのか、隣国との慢性的な国境紛争にオリバーは突如大規模な軍を率いて隣国に攻め入る。

勝利により自らの権威を確立しようと側近と密かに図ってきたものであった。


リッジスには何の連絡もない。

怒るアメリア達にリッジスは静観するように言い渡す。

まだ若いオリバーの焦燥もわかる。

彼に任せて鮮やかな勝利を飾ってもらい、自信と国民の信頼を得て、自らが身を引くような展開を望んでいた。


その後の事態はリッジスの希望には沿わなかった。

オリバーは緒戦こそ勝利し長年の仇敵を叩いたことに国民は歓喜したが、その後は敵国の激しい抵抗により、戦線は停滞する。


リッジスはそこで初めて口を出す。

オリバーに手紙を書き、早期勝利の目が乏しければ和を結ぶように勧めるが、オリバーはそれを黙殺した。

ここで引いては、自らの権威は下がり、譲位さえ求められるかもしれないと側近に唆され、軍を増援することとする。


ところが、その前に予期せぬ長期対陣に倦んだ兵の士気が落ち、飲酒や夜遊びが蔓延したところを、敵軍につかれ夜襲により敗走、一気に戦局が転換した。


これまでと打って変わり敵王が国境を侵犯して攻めてくる。

怯えた国民はリッジスに立ち上がってくれと嘆願した。


「なんでこんなことに。

もうビルは隠退の身。いつまでも頼らないで」

ソフィアが怒り、嘆く。


リッジスは長年の戦場暮らしのせいか最近身体のあちこちが痛む。動くのも一苦労だ。ソフィアとアメリアが甲斐甲斐しくその世話を焼いていた。


とは言え、自らが育てた子供の失態は親の自分が拭くしかない。

気力を奮い出馬した彼は、いくら呼んでも自分のところにこないオリバーを諦め、策を授けつつ孫ノーランを司令官代理として戦場で戦わせる。

しかし敵王も巧みな戦術家で戦況は思ったほど捗らない。


やむを得ない、リッジスは痛む身体を押して戦場に乗り出す。

敵軍とノーランとの対峙の中、リッジスは少数の兵を率いて到底降りられないと思われていた崖を下り降りる。


不意を打たれた敵軍が一気に逃げ惑う中、一人の立派な鎧を着込んだ騎士が怒りに燃える目でリッジスに突撃してきた。


「貴様がリッジスだな!今回も貴様のせいで負けとなったわ!

お前だけは殺す!」

リッジスは男と打ち合ってみて体力では勝てないと悟ると、力を抜いて相手のバランスを崩させ落馬させると逃げ出した。


「待てー!」

後方で怒鳴る男も他の兵に回収され、逃走したか声が聞こえなくなる。

その後、合流したノーランにその男の話をすると敵王のようだった。


「お祖父様、僕の不甲斐なさで手を煩わし、申し訳ありません」

謝るノーランに、リッジスは様々な注意をする。


「俺も何時まで生きるかわからん。

お前に教えられるときに教えておく」

ノーランは素直に教えを請うた。


「あぁ疲れた。

オリバー、あとは上手く講和を結んでくれ。

お前はまだ若い。今度の失敗を糧にして、良き王となるように精進せよ」

勝利を聞き、慌ててやって来たオリバーに会ったリッジスは、失態を恥じてか俯くオリバーを温かく励ます。


リッジスは戦勝について表に出ず、すべてをオリバーの手柄とした。

今回の戦いでリッジスの痛みは一段と激しくなった。

これでは何時まで生きられるかわからない。

今のうちに少しでもオリバーの権威を高めればと思ったのだ。


その後、両軍は国境で睨み合い、そのまま和平交渉が妥結した。

その内容は国境は以前のとおりとし、和平の印にオリバーの妃に隣国王の娘が嫁ぐというものであった。


離宮の寝室で横たわるリッジスの下に、その報告とともに、両国王家の顔合わせのためにリッジスに宴席に出てもらいたいとの要望が来た。

「息子の縁談となれば喜んで出向こう」


リッジスは身体の痛みよりも、この婚礼で隣国との平和を確保できればオリバーの王位も確立するだろうと気を張って出席を決める。


しかしソフィアは懐疑的であった。

「あれだけの確執ある隣国王が娘をくれるなんておかしくないですか?

罠の可能性もあります。

あなたが無理をして行かなくともよろしいのでは?」


「俺がしゃしゃり出て勝ったのでオリバーのメンツは丸潰れだ。

奴め悩んでいるだろう。

その挙げ句に頼んできているのだ。親としてそれを聞いてやらずしてどうする?」


アメリアやノーランも、身体を心配してリッジスの静養を勧めるが、リッジスは聞かない。


さて、リッジスがなんとか辿り着いた、和平と婚礼の祝賀式典の場所は国境の寺院であった。

隣国は王と王妃、王子、それに嫁いでくる王女であり、こちらはリッジス、ソフィア、オリバー、アメリア、ノーランが集まり、王家一家と紹介された。


お互いに武装兵は入れずに、儀礼のための剣だけを持つ。


「これまでの諍いは水に流し、これからは仲良い隣人として助け合っていこう」

そう話す隣国の王は確かにあの時に襲い掛かってきた騎士。

そしてその目には相変わらず憎悪と敵意が見える。


「ノーラン、密かに近衛兵を近くに呼び寄せろ!

そして軍に出動の準備もさせておけ」

和平に相応しくない雰囲気を感じてリッジスは厠に立つふりをして、ノーランを呼び寄せて命じる。

ノーランは目立たぬように走り去った。


賑やかな宴が行われるが、リッジスは酒を口にするふりをしてすべて下に流す。隣国王も見たところ、酒を口にしていない。

緊張感が漂い、ソフィアやアメリアもあまり料理に口をつけず、盛り上がらない中、上機嫌なのはオリバーと王女だけであった。


「少し酔ったようですな。

酔い醒ましに一休みしてから余興のダンスでも見ましょう」

そう言って引き上げる隣国王家を見送り、暫くしてリッジスは言う。


「殺気を感じる。

ソフィアとアメリアは逃げろ!

ノーランが外で待っている」


「嫌よ!

逃げるならビルも一緒よ!」


リッジスを置いて逃げることに反対して彼女たちが動かない間に時間がすぎる。

オリバーは黙って何も言わない。


「兄さん!

あなた、敵と通じたの!」

アメリアが怒りの声を上げるとともにドアが開き、隣国王がダンサーを連れてきた。

しかし彼らの手には武器が握られている。

兵は入れないという約束の裏をかくため、芸人に化けさせていたのだ。


「リッジス、長年の恨みを果たすときが来た。

貴様のせいで我が祖父も我が父も敗北の恥辱に塗れ、恨みを呑んで死んだ。

お前だけは殺さねば我が父祖の霊が浮かばれぬ。

そしてオリバー、よく誘い出した。

お前には約束通り我が娘を与える。隣国の王として約束通り縁を結ぼう」


「「オリバー!」」

悲鳴のようなソフィアとアメリアの声が響く。


「違う!

おれは親父を殺すことなど望んでいない」

オリバーは呻くように言うが敵王は被せるように言う。


「おいおい、酒を酌み交わした時に言ったよな。

親父がいる限り俺は一人前に扱われない。親父が死んでくれれば…

そう思っていたから、ここにリッジスを呼んでくれたのだろう」


もはやオリバーは何も言わずに膝から崩れ落ちる。

リッジスはそのオリバーの背に手を遣り、語りかける。

「父を超えようとするのはいい心がけだ。

しかし、それを利用されるのは王として失敗だ。

よく反省しろ」


「親父、怒ってないのか?」

オリバーが恐る恐るリッジスの顔を見ると、笑っていた。

「子の為に死ぬなら本望よ。

だが今回は利用されただけのようだな」


「リッジス、無駄話もいい加減にしろ!」

苛立った隣国王が怒鳴る。

リッジス達の周りを武装兵が取り囲む。


「お前はここで殺すが、お前の妻と娘は助けてやってもいい。

お前が土下座して俺の靴を舐めればな」


「そうか。

ではそうしよう」


よろめきながら膝をつこうとするリッジスにソフィアが手を貸す。

彼女がその時にスカートに隠していた弓矢を渡すと、リッジスは直ぐに矢を放つ。

その矢は復讐の喜びに哄笑していた隣国王の胸に刺さる。

「陛下!」

リッジス達を囲んでいた兵士は慌てて王に駆け寄る。


その隙にリッジス達は駆け出す。

リッジスは動きの鈍いオリバーの尻を蹴り飛ばし、後ろに控えていた侍従や侍女を急き立てて走らせる。


王が事切れていることを確認すると、王子が叫ぶ。

「やつらを全員殺せ!」


リッジスは最後方で矢を放ちながら後退するが、追手を防ぐために部屋に火を放つ。火は直ぐに燃え広がった。

(時間稼ぎだが、これで暫くは保つだろう)


リッジスは寺院の門に辿り着くと、そこで一行に対して、門の外に出てノーランに助けを求めろと命じる。

そして彼らが出たあとに、自分は中に残り門に閂をかける。


「お父さん、早く出てきて!」

アメリアが叫ぶ。


「俺のことはいいから、ノーランを呼べ」


直ぐにやって来たノーランに命じる。


「ノーラン、近衛兵の参集にどのくらいの時間がかかる?」 

「急いていますが、あと30分は必要です」


「わかった。その時間は俺が稼ぐ。

お前は手勢でオリバーやアメリア達を保護するとともに兵が集まり次第、ここを攻撃し、敵の王家を捕らえよ。

敵王は死んだ。混乱しているこの機を捉えて一気に隣国を攻めて併合し、禍根を断て!」


「かしこまりました。

ともかくお祖父様は早く出てきてください!」

泣くようなノーランの声にリッジスは明るく答える。


「この老いぼれの身を最後に役立てる時が来た。

まだこちらの兵は集まっていない。ここで敵の追撃を俺が食い止める。

そして俺の死を国中に発表し、侵攻の名目を立て国民の復讐の機運を高めろ。

俺の最後の贈り物だ」


さらに少し間をおいて、低い呟くような声が聞こえてきた。

「もし俺の墓を作ってくれるなら、『裏切られ続けた男、ここに眠る』と書いた石だけを置いてくれ。

もうこれで裏切られる思いをしなくても良くなる…」


オリバーの叫び声が聞こえる。

「親父、俺が悪かった。

俺が代わりにそこで戦う。だから出てきてくれ!」


「問答無用!

お前達は早くやることをやれ!」

そう怒鳴った後、リッジスは何者かにいきなり手を握られる。

驚いたリッジスがそちらを見るとソフィアが笑っていた。


「ソフィア、お前、なぜここにいる。外に出したはずだ」


「ビル、何年の付き合いだと思っているの。

こんなことかと途中で一人隠れていたわ。


あなたはこれまで国の為、人の為に懸命に頑張ったのに、ここで一人で死ぬのでは寂しすぎる。

私は昔あなたを裏切らない人が出てくると言ったわ。

その言葉を守り、私はあなたに付いていく」


火を避けながら、もうそこまで敵兵が迫っていた。

逃がしている時間はない。


「すまないがそういう事になりそうだ。

ソフィア、お前はまだまだ元気なのに俺に付き合わせてすまん!」


「ふふ、ビル、一つ約束して。

あの世でケイトさん、エリスさん、マリー王女様が待っているかもしれないわ。

でも私を妻に選んでね」


そう言うとソフィアは、足手まといにならないように先に逝くわと喉を突いた。

リッジスは彼女の目を閉じてその唇に口づけをし、呟く。

「お前に恥ずかしくない死に様をしてやる。そこで見てろ」


一人で死ぬ覚悟をしていたリッジスにとって連れ合いができたことは、彼女を守れなかった悲しみとともに喜びが入り混じった感情であった。


彼女の遺体から振り向くと敵兵が囲んでいた。


「よくも火付けなどして手を焼かせたな。

王陛下の仇討ち、覚悟しろ!」


「さぁ来い!

先に逝った妻に無様な死に様は見せられん。

お前達も共に死出の旅に連れて行ってやる。

英雄ビル・リッジス様の首を上げてみろ!」

リッジスは門と妻の遺体を背にして数十人の敵兵に立ち向かう。


それからの戦いでリッジスは約束の時間を稼ぎ、十数人の敵兵を殺し、自らは満身創痍となってソフィアに重なって死んだ。


「この爺、ようやく死んだか。

手古摺らせやがって。

こいつの首を刎ねろ。国内に持って帰り、俺の即位式の見世物にする。

曾祖父さんも祖父さんも親父もできなかったリッジスを俺が討ち取った。

これで俺が王になれる!」

後ろで見ているだけだった敵の王子が喜びの声を上げる。


「この老いぼれ、女と手を繋いで取れません」

「手など切ってしまえ」

そんな問答をしている間に、兵を集めたノーランたちが塀を乗り越えてやって来た。

「お祖父様!遅かったか。お祖母様も!」

そしてノーランに続き、開いた門からアメリアとオリバーも入ってくる。


「お父様!それにソフィアさんも!」

「親父!お袋!」

リッジスとソフィアの遺体を見て一瞬立ち尽くすが、次の瞬間、彼らを手に掛けていた敵兵に憎悪の目を向ける。


「コイツらを捕らえて!

殺さないでよ。

生きながら地獄を見せてやるのだから」

アメリアが命じる。


アメリアは同時にリッジスの遺体に取りすがるオリバーの首に短剣を突き立てる。

「アメリア、何をする?」

血を吹き上げ倒れながらオリバーは何故だ?という顔をして、アメリアに問う。


「ふん!裏切り者が!

あんたに生きてる価値はない!

お父様の隣に立つのは私のはずだったのを、この女に奪われたわ。

兄妹の誼で、父の仇のために戦い、ここで死んだことにしてあげる。

あの世でお父様によく謝りなさい!」


オリバーは信じがたいという表情でそのまま死んだ。


横で凍りついていたノーランに、アメリアは言う。

「仕方がない。

お父様の血筋を唯一引くアンタと結婚してあげるわ。

お父様の志を継ぎ二人でこの国の王家を作るのよ!」


「わかったよ。

アメリア姉さん」

ノーランは少し震えて頷く。


二人はそのままリッジスの遺言通り、敵国の残る王家を捕らえ、敵の陰謀とリッジス夫妻の闘死を公表、激昂する国民の怒りを受けて敵国を攻撃・併合した。


共同統治を行うアメリアとノーランは、リッジスを弔うために初代王に相応しい壮大な墓を、そしてその隣にはソフィアの墓を建てる。


しかし、その後にケイト、エリス、マリーの墓近くでは、地震や落雷、疫病などの異常事態が度々発生し、アメリアやノーラン、その子供も身体に異変を感じる。

巫女からは、彼女達のリッジスへの妄執と嫉妬が原因だと聞かされる。

やむを得ず、彼女達の墓をリッジスの近くに遷すと、その異変は収まった。


「お父様、天国では4人の女性に囲まれて大変かもね。

私も参戦するのでは迷惑かな」

アメリアは墓参に来て一人呟く。


「お母さん!

これはお祖父様のお墓?」

3人の子供達が追いかけてきてアメリアを囲む。


「そうよ。

とても強くて立派な方よ」


「これは何?」

一人の子供が墓の片隅に置いてある石を見つける。

そこには『裏切られ続けた男、ここに眠る』とある。


「お祖父様は寂しがり屋だったの。

誰かが一緒に居て、自分のことを愛して欲しかったの。

だからあなた達が一生懸命にお祈りすればとてもお喜びになるわ」


子供達が熱心に祈る姿を見ながらアメリアは思う。


(お父様が生涯をかけて作ったこの国は私とノーランが守ります。

だから私が死んだときは天国で抱きしめて、褒めてね)

そしてリッジスがいるだろう天に微笑みを向けた。


思ったより長くなりました。

最初はタイトル通り裏切られ続けて死なせるつもりでしたが、頂いたコメントを見て、リッジスに救いを与えることにしました。

最後まで拝読いただき、感謝です。

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[良い点] 今日一気読みしました!! めっちゃ面白かった!! 裏切りがキチンとしていたのが最高だった!! オチに関しては現状でも初期案でもどっちでもありだなと思う!!
[良い点] 一人の男の人生を駆け足で体験できたような気分です。 人間らしい醜さと欲望に溢れた世界の中に、 美しい愛が輝いて見える作品でした。 どの女性も本当に魅力的で素晴らしかったです。 主人公が最後…
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