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裏切られ続ける男  作者: デギリ
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二人のビルと王女の愛した男

リッジスは詳細を聞くが、突如王都で暴動が起き王が殺されたことしかわからない。


「将軍、どうされますか?」

副官や軍の幹部がリッジスに判断を仰ぐ。


守るものを持たないリッジスには、国の行く末などどうでもいいことだ。

ただ王という鎖がなくなったことに解放感を覚える。

(騒乱を放っておき領地に戻るか)と思う。


しかし部下たちは違い、リッジスが国を手に入れるチャンスと目が血走っている。

その目を見て言葉に詰まるリッジスの姿に遠慮しているのかと勘違いした副官が言う。


「将軍は遠慮深く言い出されないので私が言おう。

これは将軍に国を取っていただく絶好の機会。

他の貴族に先駆けて王都を掌握するぞ!」


『オー!』

部下たちは歓喜して叫ぶ。


(オレはそんなことは望んでいない)

というリッジスの心の声はかき消される。


そしてリッジスは部下達に引きずられるように王都に向かわされる。

その道、夜間にみすぼらしい乞食姿の二人連れがリッジスの軍を訪ねてくる。


「ここはリッジス将軍の軍ですか?」

「ああそうだが、何だお前たちは?」

哨戒兵が答える。


一人の乞食は被っていたボロ布を剥ぎ取り、兵に言う。

「こちらはリッジス将軍の奥方、マリー王女。

王都を脱出して来られたのだ。

将軍のもとに案内せよ!」


兵はまず副官のもとに連れて行く。

「そのお顔は確かにマリー王女。

王都で何があったのですか?」


副官の質問に対して、窶れながらも美貌を失っていない王女は答える。

「王は後継者について優秀だが庶出の第一王子か、王妃の子の第二王子にするか迷っていた。

しかし、リッジスによる平定が順調であることから、凡庸でも正嫡の子である第二王子とすることを決められた。


すると、それに不満な第一王子が反王派の貴族や邪教と手を結び、宮廷の中で王と王妃、第二王子達を殺害、そのままクーデターを起こし王の与党を皆殺しにしたのだ。

私は乞食に身をやつし、王都を逃げ出す庶民に混じって逃亡してきた」


「なるほど」

副官は頷き、休んでいるリッジスの元にまず自分が訪れて事情を説明したあと、王女を連れて行く。


「ビル!会いたかった。

何故会いに来てくれなかった」

王女はリッジスに抱きつくが、彼は思わぬことに目を白黒させる。


(どういうことだ?

俺は王女に憎まれていると思っていたが)

頭に疑問符が浮かぶが、王女付きの侍女が、黙っていてと目で合図するのでされるがままになっていた。


興奮する王女が落ち着くまで待って、まずは湯浴みして衣服を整え食事を取るように言い聞かせる。

離れ難そうな王女を副官と侍女が連れて行った後、混乱しているリッジスのところにその両者が戻る。


「王女はどうされた?」

「湯浴みして、食事を取られると安心されたのか寝入ってしまわれました」

副官が答える。


「さて、侍女殿。

王女と俺との初夜の有様はご存知だろう。

正直なところ、王女殿下におかれてはあんなことを仕出かした俺を憎んでいるとばかり思っていた。

それを、先程はしばらく離れていた恋人に会うような態度を取られて驚いている。

王女に何があった、何を考えている、正直に話せ」


リッジスの射殺さんばかりの視線を受けても侍女は平然としていた。

「ご疑問はごもっとも。

それに答えるのには少し長い話になりますが、その前にお人払いをお願いします」


王女の秘密に関わることだ、リッジスは副官に退室するように命じた。


「さて、マリー姫がある時を境に素行が悪くなったことはご承知でしょう。

それには訳があります」

そこから王女の乳姉妹という侍女が語ったことはこんなことであった。


王と王妃に愛されて育ったマリーは望みを全て叶えられ、天真爛漫に育つ。

美しい少女に育った彼女が野遊びに出かけた際に、武装した賊に襲われるが、護衛の近衛騎士が必死になって防戦し、彼女をなんとか守ることができた。


「証拠はなかったですが、おそらくは側妃の仕業。自分の子を王太子にするため、兄の第二王子と仲のいい王女を排除しようとしたのでしょう」

憎々しげに侍女は語る。


丁度恋物語にハマっていた王女は近くで守ってくれた近衛騎士に恋をした。

そして彼に恋を囁くと、はじめは拒んでいた近衛騎士も

次第に王女に惹かれ、相思相愛となった。


「王女を相手になんて馬鹿な男だ!身の程を知れ。

そいつの名は?」

吐き捨てるように言うリッジスに侍女は言いにくそうに小声で言う。


「ビルです。ビル・エヴァンズ」

「ちっ!」

同名の男と聞き、リッジスは舌打ちをし、話を促す。


そして王女は父母にエヴァンズとの結婚を願ったが、大貴族との婚姻を考えていた父母に拒絶され、軟禁されることとなる。

エヴァンズは近衛騎士をクビとなり、故郷に返される。


しかし二人の気持ちは燃え上がり、仲間の近衛騎士の助けもあって、ある夜、その手引きで王女は脱走し、エヴァンズと駆け落ちを決行する。


それは直ちに近衛隊長の知るところとなり、追跡の結果、王都近郊で捕まり、二人は連れ戻される。

その後、激怒した王の沙汰は苛烈であった。

王女は座敷牢で厳重な警備のもと、一日中監視される。

自分のことよりもエヴァンズを心配する王女がある日連れて行かれたのは地下室であった。


「見ろ、あれを!」

父王の指差す先には、痩せこけ血を流し傷だらけの白髪の老人が気を失って転がっていた。

「あの男が何。それよりエヴァンズに会わせてよ!」


「会わせてやっているだろう」

王はニヤリとする。


まさかと思う王女が転がる男をよく見ると、確かに愛する男であった。

彼は激しい拷問と最低限の食事のみの結果、別人にしか見えない姿となっていた。

美しかった金髪は、首だけとなった家族と仲間の近衛騎士、更に責任取らされた隊長を見て、白髪と変わった。


「死ぬ前にマリーに会わせてくれ!」

刑吏に蹴り付けられて気を取り戻したエヴァンズは叫ぶ。


王女は何かを言う前に背後から猿轡をされ、言葉を出せなくさせられる。


「もうすぐ死ぬお前が何をいう気だ?」

王が言う。


「陛下、おられるのですか。

最後のお願いです。王女に恨み言を言わせてください。

私は駆け落ちなど嫌だと言ったんだ!」

あらぬところに顔を向ける彼はどうやら目も潰され、何も見えないようだ。


「王女は居らぬが伝えてやるから、最期に言いたいことを言え!」

王の怒声にエヴァンズは切れ切れに言葉を出す。


「マリー王女、あなたのせいで私は言うもおぞましい拷問にかけられ、家族と友人は殺されました。私は褒め称えられた容貌も健康な身体も身分も家族も失い、生命も無くす。

全ては愛の甘言を囁いたあなたのせいなのに、あなたは何も傷つくことない。

せめてこれからあなたが誰も愛せないように呪ってやる!」


エヴァンズは人の声ではないかのような唸り声をあげる。


「もう良い。首をはねろ!」

そして王女に小さな声で言う。

「これがこの男の本性だ。お前と釣り合うような男ではないのだ!」


「やめてくれ!命ばかりは助けてくれ!」

抵抗するエヴァンズをむりやり座らせて、刑吏は首をはねた。

王女は顔を背けるも無理に前を向かされ、一部始終を見て、気を失う。


侍女はそこまで語ると、疲れたように肩を落とした。

「あとはご存知でしょう。

自暴自棄になった姫は公爵家に嫁がされるも奔放に振る舞い、離縁を申し出た公爵は激怒した王に取り潰されました。

その後は王陛下に好きにして良いと言われ、男娼やダンサーと遊び呆ける日々でした」


「そこに俺との結婚を押し付けられたのだな。

そこまではわかったが、この変貌はなぜだ?」

リッジスの疑問に侍女は答える。


「姫様は男への憎悪と、ビル・エヴァンズへの愛と後悔が入り混じった感情があります。男を甚ぶり痛めつけて、うさを晴らしていたのですが、あなたに一喝され、同名であることもあってビル・エヴァンズとあなたを同一視したのではないかと思います。


エヴァンズも姫様の前で賊を数名斬り殺しており、あなたがベッドで男を殺したのと同じようなシチュエーションであったことも手伝っているかもしれません。

更に唯一信頼していた王妃と第二王子も殺され、心が依存対象を求めているのでしょう。


いずれにしても姫様は今あなたを愛し、頼りにしておられます。

妻として大切に扱っていただきたい」


長い話のすべてを聞き、リッジスは大きくため息をつく。

「そんな別人のことを俺におっかぶされても困る。

近衛騎士と言えば名門出の眉目秀麗な奴らだ。貧乏男爵で戦うしか能のない俺とは大違いだろう。

すぐに化けの皮が剥がれて、嫌気がさすに決まっている。 

もちろん保護はするが、王も亡くなったのだから暫くして離縁するのが賢明だ。

他にいい男を探してくれ」


そして小声で「女はもううんざりだと」独り言を言う。


しかし侍女は引き下がらない。

「国一番の将軍が何を気の弱いことを。

俺が昔の男を忘れさせてやるくらい仰ってください!」


その上に付け加える。

「うちの姫様は国一番の美貌を謳われているのですよ。

おまけに姫を連れていけば王家の仇討ちの大義名分もできます」


最後の一言はリッジスの頭に響いた。

確かに簒奪者とは言え、相手は第一王子。

何か大義名分が欲しかった。


「アンタは賢い女だな。わかった取引しよう。

王女を妻として大切に遇する。

そして王家の婿として舅である王の仇を討つ」

侍女と手を結んだ後、全軍を集めて、王女とともに閲兵して仇討ちを叫ぶ。


リッジスの妻として正統な王女が加わったことは軍の士気を大きく上げ、同時に去就に迷っていた領主や貴族を引き寄せることとなる。


王女は行軍中、甲斐甲斐しくリッジスの世話を焼き、貧しい食料や厳しい旅程に耐えて遊び好きという噂を払拭する。

リッジスは王女の変貌に驚くが、彼女とは表向きは仲の良い夫婦を装いつつ、寝所は別とし一定の距離を置き続けた。


一方でリッジスはエリスとの別れの後から、女を道具と見做し、性欲の処理に娼婦を呼んでいた。相手の都合に構わず自分の欲望を発散すればさっさと追い出す。

リッジスにとって女とのセックスは食欲を満たすだけの食事と同じであった。


ある夜、リッジスは寝所に娼婦を呼んでいた。

ドアがノックされる。


「遅い!さっさと来い」

リッジスは顔も見ずに女を引っ張る。

女はベールで顔を隠していた。

金に困った庶民の女が顔を隠して来ることもある。今日はそういう女かとリッジスは気にせずにいつものように女をベッドに押し倒して、溜まっていた性欲を発散する。


何度か出した後、激しい動きにベールが外れる。

目に入った女の顔は王女であった。


「あなたは!」

驚くリッジスに王女は薄く笑う。


「ようやく本当の夫婦となれましたね。

男に一方的に蹂躙されるのは公爵との初夜以来よ。

あの男は一回出したら寝たけどね」


そう言うと王女は今度は自分が上となって始めた。

「ビル、まだできるでしょう。

あなたに抱かれて嬉しいわ。

媚びへつらうしか能がない男娼どもとは大違い。

これからはマリーと呼んで」


リッジスは王女を貫きながら、彼女を睨みつけ吐き捨てる。

「俺はエヴァンズではないぞ!

勘違いするな!」


「あの人のことを聞いたのね。

もちろん、あなたはあなたよ。あなたは愛した女に裏切られたと聞いたわ。

私も愛した男に呪われた。私達は似た者同士。

だから二人で愛し合いましょう!」


リッジスは王女が本当に自分を見ているのか疑わしかったが、彼女を受け入れる。

それは自分が裏切られたように、彼女にも裏切られた傷があると感じたからだった。

それから、毎晩リッジスは王女を抱く。

彼女は二人になると「ビル、わたしを離さないで」としがみついてきた。


そうして王都へ進んでいく中、反乱者、父殺しを討てというリッジスの言葉で兵は次々と加わり、リッジス軍は大軍に膨れ上がる。


リッジスは王都から打って出た第一王子軍との決戦に大勝、第一王子は逃亡先で捕まり、リッジスは父殺しの大罪人として公開処刑を行った。


王都に凱旋するリッジスを多くの民衆が歓迎する。

彼の隣には必ず満足げに微笑む王女がいた。


第一王子は王族を皆殺しにしたため、王女とリッジスが王位を継ぐこととなる。

リッジスは王位など望んではいなかったが、誰もがリッジスを王にと思う中、それに逆らうことはできなかった。


(まあいいか。

愛することのできそうな女もできたことだ)


戴冠式の儀式の最中、リッジスは隣に座る王女を見る。

結ばれてからも彼女のことを疑心暗鬼で探っていたが、裏表なく王女はリッジスの妻として誠心誠意尽くしていた。

それを知り、リッジスは彼女を信じてみることとする。

そしてこれまで彼女に一言も言ったことのない「愛している」という言葉を今日の戴冠式の後のベッドで言おうと決意していた。


戴冠式はつつがなく終わり、あとはパーティーである。


大勢の貴族がリッジス夫妻に挨拶に来るが、その前に王女はリッジスに囁く。

「お前の子供をいっぱい産んでやるぞ。

わたしは愛する夫と子供に囲まれ、呪いを解く!」


そして人混みの中、余興に壇上で踊っていたダンサーの頭が挨拶にやってきた。

「おお、お前は、わたしが昔雇っていたダンサーか。

あれからも盛況なようで何よりだ」

王女が屋敷に飼っていた男のようだった。


何やら挨拶している男を放っておき、リッジスは反対側の副官と打ち合わせをしようとしたとき、「よくも我らの姫様を奪ったな!」との声とともに横腹に焼けるような痛みを感じる。


振り向くとダンサーの男がナイフで刺していた。

「死ね!」

男がもう一本のナイフをリッジスに振り下ろそうとする時に王女がその間に入る。

ナイフは王女の胸を貫き、血が溢れる。


護衛がようやく男に飛びかかり、押さえつける。

「我らの愛する姫様!

あなたが逝くなら私もお供します」


リッジスは痛みに堪え、そう言いながら舌をかもうとする男の口を握り、顎関節を外す。


そして王女のもとに向かった。

その蒼白な顔と流血の量を見れば、数えきれない死を見てきたリッジスには死が間近であることがよくわかった。


「ビル、来てくれたのね。

私の手を握って。

ああ、ようやく一緒になれるのね」

意識が朦朧としている王女がリッジスのことを見て、エヴァンズと思っているのはその言葉から明らかだった。


「俺だ!ビル・リッジスだ!

お前が愛していると言った男だ!」

リッジスの精一杯の声は王女に届かない。


「あなたを救ってあげられなくて悪かったわ。

でも天国では一緒になりましょうね。

愛してるわ、ビル」

そう言って王女は事切れた。


握っていた手を離し、リッジスは傷を気遣う副官に言う。


「こんなものは掠り傷だ。

それよりこの顎を外した男を拷問室に行かせて、生まれてきたことを百度は後悔するまで責め続けろ。決して早く死なすな。

仲間のダンサーの一団を捕えて、手足を切り落とし、山の中に放り出せ。獣が生きながらに食ってくれるだろう。

あとは王女の屋敷にいた男娼達を洗い出し、宮刑にしろ」

冷たく言い放った後に、思い出したように付け加える。


「俺をこんな茶番劇に引きずり出した第一王子の残党狩りを、明日から徹底的にやるからな。

奴に与した貴族も邪教も皆殺しだ!

その用意をしておけ!」


そう言うと、リッジスは王女の亡骸に見向きもせずに去る。

誰をも峻拒するその背中に、副官も誰もその後を追えなかった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] ちゃんと毎回裏切られるの、すこ。
[一言]  最終的には国は勿論デイヴィッドや部下にも裏切られるのだろう。  苛烈になり過ぎて「もうついていけない」ってな感じで。  救いは無いが、物語としては面白い。  最期の独白とか出来るだけ大人数…
[一言] 次は国民に裏切られるのか 主人公の安息地が死しか無くなっちゃう
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