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吸血鬼のアトリエ  作者: Goto
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03.探索と欲求

なかなか文章がまとまらず、遅くなりました……

 目が覚めた私は周囲を確認する。

 うん、やはり見たことのない部屋だ。

 どうやら昨日の一連の出来事は夢ではなかったらしい。

 となるとやはり、一番の優先事項は現状の把握だろうか。

 昨日は気にせず眠りについたが、この建物が安全だという確証も無いのだ。ここがどこかも分からないが、せめて安全の確保くらいはしておきたい。


 とりあえず、今日は下の階の探索を進めよう。

 そう考え、未だ眠気のまとわりつく頭を振りながら部屋を出ることにした。


 部屋を出ると、辺りはまだ薄暗かった。

 窓から外を見てみると、朝焼けが星を飲み込もうとしている。どうやら夜明けとほぼ同時に起きたようだ。

 塔の屋上から、夜明けの景色も見てみたい――そんな考えが浮かんできたが、ひとまず置いておく。今は探索のほうが優先だ。


 後ろ髪を引かれる思いで階下へと続く階段に向かっている途中、ふと何か大事なことを忘れている気がした。


「なんだろう……何かをやってないような……」


 いつも当たり前にやっていることをやり忘れている。そんなもどかしい感覚がある。

 だが、考えても思い付かない。まぁそのうち思い出すだろうと足を進めることにした。






「すごい……」


 私は廊下に立って思わず感嘆のため息をついていた。

 現在は私が寝ていた階からひとつ降りた階に居る。

 ここに降りてきてすぐに目に入った光景に、この建物は城と呼んで間違いなさそうだと感じた。

 これでもかというほど高い天井やそれを支える柱には彫刻が施され、荘厳な雰囲気を醸し出している。

 木の根や植物に侵食されている今ですらそう感じるのだ。建築された当時の様子など想像すらできない。

 さらにその廊下に立ち並ぶいくつかの部屋を見たが、椅子や机、本棚に至るまで、ひと目見て質の良いものだとわかるほどのものが置いてあった。


 窓から外を見た感じ、ここは2階ほどの高さじゃないかと思う。

 上の階に、登りの階段があの塔の階段以外に見受けられなかったことを考えると、この城はおそらく3階建てだろう。


 ここが2階なのであれば、今日中に一通り見て回ることができそうで安心した。

 そんなことを思いながら、次の部屋の扉へと向かった。




 いくつかの部屋を見て回るうち、他とは違う雰囲気の部屋を見つけることができた。


 塔の真下あたりに位置するその部屋に窓はなく、円形の部屋の壁際に幾つもの柱が立ち並んでいる。その柱と柱の間を埋めるように本棚が並び、重厚な背表紙の本がそれを埋め尽くしている。


 これだけならば少し変わった書斎や書庫という程度だが、部屋の中心は本棚に取り囲まれるように開けた空間になっており、背の高い燭台が円形に並ぶ床には立派な魔法陣のようなものが描かれていた。


 この建物には至る所にこのような模様が見られた。

 柱やドアノブ、銀製の皿の裏に、果てはトイレに至るまで、様々なものに彫刻や焼き付けたようなかたちで描かれている。

 てっきりアートか宗教的な物か何かだと思っていたが、この部屋を見る限りでは――


「呪術?」


 そう言ったほうがしっくりくる。

 いくつかの本棚の前に据え付けられた作業台の上には、似た模様が描かれた羊皮紙や、アニメや漫画で見るような魔法の杖のようなもの、他にも見たことのない様々な器具も置いてあり、まさに呪術や魔術のための研究室といった様相だ。


 そういえば――と、なんとなく思い当たることがあった。

 古代文明では、魔術師や呪術師といった職業の人間もいたと聞いたことがある。

 廊下などの侵食具合から考えると、この建物もかなり古いものだろう。ここもそういった人の為の部屋なのだろうか。

 しかしそれにしては、やはり本棚や本などは目新しいものに見える。


 ここに居る他の住人の物というわけではないだろう。周りは深い森なわけだし、もし誰か住んでいるのならば昨日のうちに出会っていてもおかしくない。となると何か保存のための特別な処置が施されているのだろうか……。


 そのまま思考に耽りそうになったところで「いけないいけない。」と我に返った。

 今日中に城の探索を済ませたい。考え事は後でもいいだろう。

 私は手に取っていた本をその場に置き、部屋を後にした。




 その後2階を見て回り、日が中天に差し掛かった頃に最後の部屋の前まで来た。

 2階最後の部屋、少し大きめの両開きの扉を開く。


 そこはダイニングのように見えた。

 中央には装飾の施された大きな長テーブルが置いてあり、左右に複数、上座にあたる位置に一脚、これまた豪華そうな椅子が置いてある。

 壁際の棚には様々な小物が並べられ、部屋全体としては豪華ながらも落ち着いた雰囲気が漂っている。


 まさに食事をするための部屋といったその光景を眺めるうち――

 ふと、今朝忘れていたことを思い出した。


 そういえば、ここに来てから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 さらに改めて意識してみても、不思議なことに飢えなどは感じない。

 しかし何か――身体を構成している大事な何かが足りないような、渇きのようなものを感じる。

 今はまだ問題ないが、そのまま放っておくといずれ限界を迎えそうな、そんな感覚だ。


 色々と気になることはあるが、それよりも一度気が付いてしまったこの渇いた感じが気になってどうにも落ち着かない。

 とにかくこの渇きを満たせるものを探さないと……半ば本能的にそう思った私は、少し早足で探索を進めていくことにした。




 1階の探索中、渡り廊下のようになっている場所から中庭に出た。

 廊下に空いたいくつかの窓から見えていたが、そこには様々な植物が生い茂り、周りのことなど気にした様子もなく枝葉を伸ばしている。長い間人の手が入っていないのだろう。

 吹き抜けの天井は3分の2程度が大樹に覆われ、その根の隙間から光が降っている。

 非常に落ち着いた雰囲気で、きちんと手入れさえすればここで昼寝をするのも気持ちが良さそうだ。


 そんな光景の中、一際目を引く存在があった。

 中庭の中央、円形の花壇の中に淡く光を放つ植物が植えられている。

 他の植物と距離を置いて植えられたそれはなんとも言えない存在感を放ち、差し込む陽光をその身に受け伸び伸びと育っていた。


 興味をそそられた私は、それに近寄りその葉を一枚手に取った。

 青々としたその植物は、触れてみるとほんのりと温かさを感じる。

 さらにその葉全体を包み込むように光の泡が浮かんでいて、この植物自体が光を帯びているのが見て取れた。

 今まで目にしたことがない奇妙な植物を観察していると、不意にふわりと甘く芳醇な香りが鼻孔をくすぐった。

 まるで真っ赤に熟れたリンゴのような――非常に良い香りだ。どうやらこの植物の香りらしい。


 そして理由は分からないが、その香りを嗅いでいると何故か段々と食べたいという欲求が湧いてきた。

 ひどくのどが渇いている時に目の前に水を差し出されたかのような、そんな本能的な衝動に思考が埋め尽くされる。

 抗えない欲求に思わず喉が鳴った。まるで身体全体がこれを求めているかのようだ。

 私はついに我慢ができなくなり、その葉を口に入れた。


「……!美味しい!」


 丸みを帯びた少し肉厚の葉を噛むと、果物のような甘さが口いっぱいに広がった。

 その溢れる甘い液体が喉を流れ落ちる度、先ほどから気になっていた渇きが満たされていくような充足感を感じる。

 なるほど、と思った。

 この植物には身体に不足していたものが含まれているのだろう。これを食べればこの渇きも軽減されそうだ。

 しかしなんと言えば良いのか、何かが違う気もする。コレジャナイ感とでも言えば良いのだろうか。

 この渇きを完全に解消するには何か別のものが必要なのかもしれない。

 しかし何はともあれ、これで急を凌ぐことはできそうで安心した。




 その後追加で数枚食べ満足した私は、いくつかの葉を摘んで立ち上がり中庭を後にした。

 やはり渇きは完全には解消されなかったが、気にならない程度にはなった。あとはゆっくりと1階の残りを見て回ればいいだろう。

 そう思い探索を進めたが特にめぼしいものもなく、探索が終わった頃には既に日は落ちてしまっていた。


 最初の部屋に戻った私は箱の中に横になる。

 寝る時はここで寝ることにした。中はふわふわで手触りが良いし、何より不思議と安心できる。


 それにしても今日は色々と気になることがあった。

 あの塔の下の部屋もそうだが、何より自分の身体のことだ。

 昨日一日何も口にしていなかったのにお腹が空かず、喉も乾いていなかったというのは、どう考えても普通じゃない。

 身体の渇きについてもよくわからないし、あのように光る植物というのも聞いたことがない。

 そして、自分のことも思い出せないままでいる。


 わからないことばかりだな――

 考えれば考えるほど募る不安から逃げるように、私は眠りへと落ちていった。

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