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吸血鬼のアトリエ  作者: Goto
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02.違和感

 扉を開けたところで目が合った裸の少女。くっきりとした瞳は真紅色で、純白の髪の毛は真っ直ぐと流れ落ち、太腿の辺りまで届いている。それ加えきめの細かそうな白い肌も相まって、神秘的な雰囲気さえも窺える。

 年の頃は中高生くらいだろうか。かなり整ってはいるが幼さの残った顔立ちに、華奢な体つきをしている。美少女と言っても差し支えはないだろう。


 しかし故意ではないとは言え、この状況はあまりにもまずい。結果として他人の裸をばっちりと見てしまったわけだ。

 そのような状況に出くわした記憶などあるはずもなく、どうにか切り抜ける方法を考えるが思考が錯綜し、身体が固まってしまった。

 どうやらあちらも相当驚いているようで、驚いた表情のままこちらと目を合わせて微動だにしないでいる。


「あのぅ……」


 一先ず何か言わねばと内心焦り、言葉が口をついて出たところで、


「あれ?」


 はたと気がついた。

 自分は今言葉を発すると同時に軽く右腕を動かしたが、目の前の少女は同じように左手を動かしている。


「あ、鏡か……」


 どうやら自分が裸を見てしまったと思い込んでいたのは、鏡に映った自分の姿だったらしい。


 傍から見たらなんとも滑稽な姿だっただろう。

 一人で鏡を見た途端に驚いて固まった上、それに向かって話しかけようとしたり今まで裸で歩き回っていたことなどを考えると、段々と恥ずかしさが込み上げてきた。




「うーん……?」


 しかし改めて鏡で自分の姿を見てみると、なんとも言えない違和感がある。相変わらず自分に関することは思い出せないので断言はできないが、まるで自分はこのような容姿ではなかったかのような感覚だ。

 さらに、先程から発している声にも違和感を覚える。なんとまぁ可愛らしい声ではあるが、果たして自分はこのような声をしていただろうか。

 どうにもこの姿をひと目見て、自分だ!とすぐに頭が理解してくれない感じがする。

 そんな事を考えながら、そういう訳だから遠くからひと目見たところで鏡だと思えなくても仕方ないでしょ、等と言い訳がましくひとりごちた。


 なにはともあれ一旦身に纏うものを探そうと考えた。

 何かないかとあたりを見渡すが、この部屋はどうやら使っていない調度品や家具などを置いておくための部屋のようで、衣服になりそうなものは見当たらない。

 そういえばさっき見て回った部屋の中に手触りの良い布の置いてある倉庫があったな、と思い至ったので、一先ずそちらに向かうことにした。


 倉庫に着くと、布はすぐに見つかった。やはりかなり手触りが良い。サイズもかなり大きく、衣服にするにはもってこいだろう。

 しかし裁縫道具の類があるわけではないので、このまま着ることができないかと試行錯誤する。最終的には、身体に何度か軽く巻き付けた後で、両端の上を首の後ろで結び引っ掛ける形にした。雰囲気で言えば古代ローマのトガような形だろうか。

 そのままではなんとなく野暮ったい感じがしたので、一緒に置いてあった黒いリボンのようなものを胸下に巻いて結んだ。


 一度先程の鏡の置いてあった部屋に向かい確認する。うん、なかなかいい感じなんじゃないだろうか。

 やっぱり素材がいいと何を着ても似合うな、と自画自賛しながら、建物の探索を再開することにした。




 しばらく探索を進め、ようやく今居る階をほとんど一通り見て回ることができた。

 どうやらこの建物はなかなか広いつくりをしているらしい。ひとつひとつの部屋をしっかりと確認していたら結構な時間が経っていたようだ。途中窓から確認したが、既に日は中天を越していた。今頃はちょうど地平線まで半分くらいの位置だろうか。

 そして今は、途中で見つけた塔のような場所に向かっている。円形の部屋の壁に階段が設けられ、上まで続いていた。最後に探索しようと思い後回しにしていた場所だ。

 

 着くと同時に階段を登り始め、少しすると塔の屋上に出た。

 強い風に吹かれ細めた目を開いたとき、思わず感嘆の吐息が漏れる。

 そこに広がっていたのは素晴らしい――まさに絶景だと言える光景だった。


 自分が居る建物は森に囲まれた小さな城のように見えた。視界に映るどの樹木よりも大きいと思われる樹が絡みつくように育ち、その根に半分ほどのまれている。どうやら窓から入ってきていたのはすべてこの大樹の根だったようだ。

 周りの木々がすべてこの大樹に場所を明け渡したように城の周辺は開けていた。あたりには背の低い草が生え揃い風に揺れる草原が広がり、ちらほらと小動物の姿が見える。

 

 その外側では大小様々な木々が森を形成し地平線の彼方まで続いている。ちらほらと見える大きな泉のようなものの周りには一際大きな木々が密集し、ひとつの巨樹のようになっていた。

 北には裾まで雪に覆われた天高くそびえる山々が峰を連ねている。日光を反射し白く輝く様は神々しさすらあるほどだ。




 人によっては楽園だとすら表現しそうな光景に、時間も忘れて没頭していた。途中夕焼けが世界を染め始めた際には、ここが自分の全く知らない場所だということに対する不安さえも吹き飛ばされたようだった。


 明日は下の階もくわしく見てみよう。そう思いつつ、最初に目覚めた部屋へと歩みを進めていった。

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