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イノセントブルー's 〜火花舞うあの空は輝いていて、いつかきっと泣いてしまう〜  作者: うたたね雫
第2章 アリアドネの糸は2人だけ
4/6

ー1ー


ーーーーー


我を忘れたかのように走って、走って、走った。

学校の裏にある小さな林に駆け込む。とにかく現実から隠れるように逃げ込んだ。

陽はとっくに沈み辺りは暗くなっていた。遠くの街灯がぼんやりと光っているだけ。


息が上がりきっているのかうまく息ができない中「透夏さんしっかりして!!」という透き通った声にハッと我に帰る。


「花火…さん…私…」

事実起きたことはもうどうしようもない。

下を向いて俯く私に彼女が「透夏さんは私を助けてくれたんです」と声をかけてくれた。

その言葉は今まさに奈落に落ちてしまった私の存在価値を拾い上げてくれたように思えた。


未だ木々が不自然に音を立てて嗤う。たださっきとは打って変わって、風は冷たく虫の鳴き声も聞こえない。この世界には2つの命の灯火しか存在していないようだった。実際には幾ばくもない沈黙がやけに長く感じた。



「私には未来がないんですーーーーー」


彼女はポツリと呟く。

「え…?」

「私7歳の時に母を亡くしてるんです。それから父は私に暴力を振るうようになりました。それこそ最初はよく家庭内暴力と呼ばれるものほどひどくはなかったんです。でも私が大きくなっていくうちに、母に似てないという理由で暴力がエスカレートしていきました。きっと父は母に似た娘を見ることで悲しみの埋め合わせをしたかったんだと思います。でも私は似てなかったせいで。そのうち食費や教育費も払ってもらえなくなって。どうしようもなくて先生に相談したら助けてあげるからこっちのお願いも聞いてねと言われて。それからは透夏さんの見た通りです」

彼女の透き通った歌声のような声に引き込まれ、私はただ静かに話を聞いていた。


信じられなかった。

私が想像するなど許されないような、過酷な境遇の持ち主が目の前にいて、私よりもずっと苦しんでいる。


巫女だからこの町のことはほとんど知っているなんて自信はどこから湧いたものだったのだろうか。どんどん自分に失望していく。それでも彼女は話を続けた。


「もう少しで私は私でいられなくなっていた。そんな崖っぷちだった私を透夏さんは助けてくれたんです。だから背負う罪も同じです」

彼女は私を恩人扱いする。


でもそれは違う。


確かに私は彼女を助けたかもしれない。


でも助けたのはきっとーーーーー



自分自身の存在を助けたかったんだ。



何度もぐるぐると頭の中を駆け回った彼女の言葉。特に整理することなく自然に出た言葉は、「私と同じなんだね…」だった。

「え…?」と彼女の頭上にはハテナが浮かぶ。


「私には未来ではないけど、私自身の存在がわからなくなる時があるんだ。うちは代々青音祭の舞をする家系で、私自身も巫女としてここまでやってきたんだ。普段から人の悩みに応えるのが日課の中で、学校でも色んな人に頼まれたことに応えてたら、いつのまにかクラスの中心にいて、でもそれはみんなの頼みを私が聞いていたからで。だから…」


うまく言葉にできない。なんせ今まで誰にも言ってこなかったことだ。このことは心の奥底にしまって自分自身も忘れてしまおうと思っていたのだ。でも彼女には、彼女だから伝えたい。そういう思いが込み上げていたんだと今では思う。


「大丈夫ですよ。わかります透夏さんの気持ち」と言うと彼女は肩を抱き寄せてくる。その彼女の手も震えていて、お互いに傷の舐め合いをしてるようだった。


彼女がポロポロと涙を流す。それでも私はぐっと堪えた。

彼女が言うには抱える辛さは同じらしい。でも私からすれば何倍も違うわけで、涙なんて見せられないと変な意地を張っていた。


ふう、と深呼吸をして心を落ち着かせる。

「とりあえず花火さんの状況はわかった。とりあえずこのまま家に帰らすのはまずそうだし、うちにこない?さっきのことは一旦わすれて」

今になっては信じられない話だ。担任を突き落としといて安否も確認しなければ警察や学校に相談するという考えが全くなかった。その時は極度の焦りからか一周まわって変な落ち着きがあったのだろう。


「でも…」と彼女は困惑しているようだった。

「大丈夫、困ってる人は助ける、これがうちの家系のモットーでね」

大きくガッツポーズをして笑顔を見せる。



決してヒューマノイドではない自然の笑顔をーーーーー

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